第33話 黒布を身につけた死神


フォルサイトととの戦闘を繰り広げるネラ。

魔力解放したフォルサイトに対し、更に力を引き出す。


しかしそれは彼女自身が使用を避けたかった力だった。


「まるで本当に、死神みたいですね……」

顔には異形な頭蓋骨の面、黒い布を体中に巻き付け、二振りの大鎌を持つ、そんな姿にネラは変身した。


「随分とまあ、なんと表現しましょうかその力、少なくとも魔力では無いですね」

フォルサイトがそう言うと、ネラは両手に持った大鎌に黒い炎を纏わせる。


その大鎌を勢いよく振ると特大の三日月状の斬撃が黒炎と共に放たれた。


「先ほどより少し大きくなりましたね。それに」

フォルサイトは黒炎の斬撃を棍棒の一振りで弾き返す。


「随分と不可思議な」

攻撃を弾き返した直後、彼女の背後にネラが現れる。


「その手は通じませんよ」

振り向きざまに棍棒を振るうフォルサイト。

魔力が込められた棍棒はその質量を増し、圧倒的な破壊力を持ってネラを叩き飛ばした。


「イ……テェ、ナ」


起き上がるネラ、体が酷くひしゃげている。


「おや、少し強くし過ぎましたかね。すみません、あまりにも強烈な殺気だったのでついつい。ですがそうですよね、その程度すぐに回復しちゃいますよね」


ネラの身体はバキボキと音を立てて形を戻し、元の姿になった。



「シャッ!!」

フォルサイト目掛け飛び出すネラ。


彼女は大鎌を巧みに用いて怒涛の攻撃を仕掛ける。


「そんな扱いづらい武器をよく扱えますね、素晴らしいです。ですがいささか大ぶり過ぎでは、おっと」

フォルサイトは攻撃をさばきながら、顔の前に棍棒を持っていない方の手を置く。


直後そこに蹴りが飛んできた。


飛び退くフォルサイト、そんな彼女の手はパックリと割れる。

蹴りに使われたネラの足には小さな鎌のような刃が現れていた。


「ほお、足にも刃を出せるのですか。それもあの消えない炎もセットですか」

割れた部分から黒炎が噴き出る、彼女は即座に自身の手首から上を切り捨てた。


「ウガァッ!!!」

ネラは大鎌の柄に黒布を巻き付けて、それを遠距離から投擲する。


「その布にそんな使い方が、ただの衣装チェンジではないのですね」

攻撃を受け止めながら話すフォルサイト。


するとその背後にネラは瞬時に回り込みもう一振りの大鎌で斬りつけた。


その攻撃に対してフォルサイトは身を低くする事で回避する。


「先ほどから行うその移動方法、転移魔法ですか?私の予見でも中々見づらいですね、面白い」

彼女は避けざまにネラを蹴り飛ばした。


「この戦いに入ってからというもの、大分この予見の能力に”もや”がかかるようになりました。やはり強い力には運命を変える事が出来るのか、それとも運命は変わる事はなくそのままで、単純に予見の能力が巨大な力によって揺らいでいるのか」


フォルサイトはネラに話しかける。


「さっきからウルセェ、ナ」

少しおぼつかない言葉づかいで返答するネラ。


「会話、好きなんで」

フォルサイト軽く会釈する。


「ソウ、カヨッッ!!」

ネラが攻撃を仕掛ける為に急接近。

フォルサイトは棍棒に魔力を込める。


「ソラッ!!」


「やはり、少しばかり荒さが目立ちますね」

ネラの攻撃をギリギリまで引きつけ躱すフォルサイト。


そして攻撃直後の隙を狙い、相手めがけ棍棒を振り下ろした。


「破砕一鉄ッ!!」

フォルサイトの強烈な一撃を頭部から受けるネラ。


「ガ……ア……!」

彼女の意識が彼女の身体から離れて行く。



地面へとゆっくりと倒れて行くネラ、しかしその体が宙で止まった。


「おや……これはとんでもないものを起こしてしまいましたね」

何かを見たフォルサイトは驚いた顔をする。


「――――ッ!!!」

異様な咆哮と共に起き上がるネラ。


幾つもの骨が黒布と共に体にまとわりつき、その骨も怪しく光を放つ。まるで泥の下に何かが蠢くような、そんな嫌悪感が自然とこみ上げる光。


「――――ッ!!」

咆哮を上げてネラが跳びかかる。


「これは私も流石にお遊び無しですねッ!!」

フォルサイトの目に光の筋が走る。


ネラの一撃を躱し反撃に転じる、しかしそこには彼女はおらず、全く別の方向から攻撃が飛んで来る。


攻撃を棍棒で弾き返すフォルサイト。


するとネラは後方に瞬間移動して距離を取る。


「先ほど以上のスピードで転移魔法を?いや違いますね、魔法という段階すら踏んでいない。その移動方法、やはり興味ありますね」


ネラは再び攻撃を開始。

大鎌そして手足から突出した刃を使い、攻撃をしては瞬間移動、これを瞬時に繰り返す。四方八方からフォルサイトに攻撃を浴びせた。


この怒涛の攻撃を棍棒と鎧のように魔力を纏わせた腕で対応するフォルサイト。


「随分とまた動きが変わりましたね、それに」

フォルサイトがネラの持つ二振りの大鎌、そして足や腕などから突出した刃をみる。


「鎌の攻撃は全てあの炎付きですか。そう毎度手足を切り落としている暇もなさそうですね」

そう言って彼女は両手で棍棒を持つ。


「この状態で棍棒を両手で持つのは、いつぶりでしょうか。女神達の大軍を叩き潰した時でしょうか。ちょっぴり心が躍りますね」


そう言って彼女は空高く跳び上がる。


「さあ、とびっきりのをお見せしましょう!!」

大量の魔力を棍棒に流し込む。


棍棒は周辺一帯をその陰で覆う程に巨大化した。


「破砕一国ッ!!」

その規格外のサイズとなった棍棒を振り下ろす。


「――!!!」

ネラは大鎌に一際大きな黒炎を纏わせた。


二振りの鎌から放たれたその斬撃は空から迫りくる棍棒に激突。


棍棒を押し上げる黒炎の斬撃。

「うおっっと!!負けませんよ!」


フォルサイトが棍棒に込める力を強める。

黒炎の斬撃が打ち消され、棍棒がネラに迫った。


どこまで轟いたのかは分からない。

だがこの世界に住む多くの者が、そのただならぬ衝撃を感じとった。


「ちょっとやり過ぎましたか?」


そういうフォルサイトはふと気付く、自身の周囲に黒布が舞っている事に。


黒布は集まり塊となる。


「ようやくこの目もはっきり見えるように。なるほどこういう終わり方ですか」


塊は大鎌の形をとり、そしてネラへとなった。


「それこそがあなたの根源なのですね。本当に興味深い御方だ、お会いできて良かったです」

フォルサイトは真っすぐ前を見つめながら微笑む。


「……」

返事をせず、ネラは大鎌をスッと引きよせる。


大領主バアル・ゼブルの部下【先見のフォルサイト】その首が宙を舞った。




空から落ちて来たネラ、なんとか地面に着地するとその場に座り込んだ。


そして体を覆う黒布を乱雑に引きちぎり始めた。

最後に頭蓋骨の仮面に手をかけ、力づくで引き剝がした。


「ぷはぁっ!!はぁ、はぁ、あっぶねぇ。なんとか、はぁ、終わったな」


荒げた息を深呼吸で戻そうとするネラ。


「ふぃー、まったく。どうなってんだよコイツらの強さは。ここら一帯吹き飛んでるじゃねぇか。我ながらよく生きてたもんだ」


周囲を見渡す。


元々何もない場所に、今は巨大なクレーターがでかでかとあった。

そのクレーターの中心に彼女は座っていた。


「くっそ、力だいぶ使っちまったな。まあなんとか戻ってこれたけど、あー全身いてぇーだるい」

鎌をほっぽりだす。


「あー、ダメだ。もう体動かしたくねぇー。あ、ユイの方はもう終わってるのか。でもアイツも休んでるみたいだな」


ネラはその場に寝ころぶ。


「あとはタケミかー、でも今の私が行っても邪魔だしな。とりあえずは体力回復。という訳で一休みっと」


そういってネラはそのまま眠りに入った。

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