第31話 なんのために戦う


魔力解放したバアル達に苦戦を強いられるタケミ達。



「ディラシェラント」

バアルは旋風を生み出し、タケミの身体に傷をつけていく。


「どうした?早くその弱点を克服せねば、我は倒せんぞ!」

「うるせえよ!今やってるつーの!」


タケミは攻撃を避けながら、自身の身体に意識を集中させていた。

(ユイが言ってた事を思い出せ、そう、血を止めるなら血管を閉じたりするんだよな。それを自分の身体にさせちまえば!)


「オラァ!!!」


「おっと」

タケミの一撃を軽々とジャンプしてよけるバアル。


「随分と集中を欠いた一撃だったな?余所事を考えているからか?やめておけ、人間の脳は複数のものを同時に処理できるように出来ていない」


バアルはタケミの身体を見て気付く。


「ほお、ようやくその状態中に止血できるようになったか」

「はあ、はあ、おかげさまでな」


(なんとか傷は塞げたが、集中が削がれるな。傷周辺の筋肉を締めて、なんとか血管を塞げたけど。これでアイツと戦うのか、早いとこなれねぇとな)


どうにか止血へ意識を向けずにできるよう、なんとか集中を目前のバアルに向けようとしている。


「ふん、随分と忙しそうだな」

「なぁに、すぐ慣れるからよ。そらもういっちょ行くぞ!」

身体から更に蒸気を出すタケミ。


「おいおい、その状態で更に追い打ちかけるのか?流石にもたんだろう?」

「じきに分かるさ」


いったいタケミの心臓は、常人の何倍ほどのスピードで鼓動しているのだろうか。


「そうか、そこまで挑戦したいのなら、少しばかり難易度をあげてみようか」

バアルは銃を空めがけ発砲する。


上空に滞在している真っ黒な雲が光り始める。


タケミの毛が逆立つ。

「これって」


次の瞬間、タケミは強烈な緑の光に打ちのめされる。そして周囲に響く雷の音。


「グッ!まだまだぁぁぁ!!!」

一瞬意識が遠のきそうになるタケミだったが、自身を鼓舞してバアル目掛けて突撃する。


「ほお、この雷が降り注ぐ中でも止まらんか」

「ウォオオオッ」 

射程距離に捉えたタケミは思い切り拳を振り抜く。


久しぶりの手応え、バアルの胴体に拳が命中。相手は後方に大きく飛ばされる。


「ふん、なるほど、流石に命を削っているだけある。先程よりも破壊力がましたな。だが……」


タケミの腹部にバアルの銃が突きつけられていた。

「ッ!!」


「まだまだ遠いな」

バアルは飛びながら、右手薬指を軽く動かす。


銃口から強烈な炎が放たれた。

炎はタケミの腹部を貫き、彼の背後にあった巨岩を軽く吹き飛ばした。


「どうかな?銃の遠隔操作、かくし芸みたいで面白いだろ?」


タケミは倒れそうになる、だがその寸前で持ちこたえ


「まだ……まだだぁ!!」


身体からより一層蒸気を発生させバアルを殴り飛ばす。


「っ!ここ一番の威力だ、故に惜しいな……」


タケミの全身から血が噴き出る、体の表面だけでなく口からも大量の吐血。


「貴様の血管が限界に達した、その無茶もそこまでという訳だ」


「あ”……あ”あ”っ」

膝を地面につくタケミ。彼の身体から上がっていた蒸気は消え、体も元の色に戻ってしまう。




同時刻、マリスは水中にいるユイに近づいていた。

「ほら、近寄ってやったぞ。どうせこれが望みなんだろ?気絶フリしてもそんなに杖をしっかり持ってたらバレバレ」 


(バレたか!)

ユイは目を開けて相手に目掛けて炎を放つ。


「こんな水中で炎?酸欠で頭がだいぶ回らないみたいだな」

マリスは炎を打ち消そうと槍を振るう。


しかし、炎は彼女の槍を掻い潜った。


「何だこの動き!?」

炎は縄となってマリスの身体に絡みつく。


(イグニス・ピラッ!!)

ユイの背丈程の大火球が発生し、マリスに目掛け飛んでいく。


大爆発と共に周囲の海水を蒸発させた。


「はぁ、はぁ!ようやく新鮮な空気!」

やっとまともな空気が吸えた彼女は大きく呼吸する。


「火炎魔法、それがお前の得意分野って事か」

無傷のマリスが立ち込める水蒸気から現れ、それと同時に巨大な炎の玉が放たれる。


「ッ!?イグニス・ピラ!!」

なんとかこの攻撃はしのげた。しかし先ほどのダメージが深刻なようで自身の魔法の反動で吐血するユイ。


「……はぁ、はぁ、結構辛いね……これ」

ユイは杖で自分の身体を支えながらなんとかたっている。


「お前、頭の中で詠唱して魔法撃っただろ?酸素もろくになくて意識朦朧としてるのに、そんな悠長な事してるから威力出てねぇぞ」

マリスがキッとユイを睨む。


「にしても解せないな。なんでそこまでして戦う?」

「え?そりゃあだって。まだ戦えるからでしょ」


ユイの答えに首をかしげるマリス。

「はぁ?なんだその理由」


「だってみんなより先に倒れて戦えなかった―なんて、なんか嫌だ。カッコ悪いじゃん、だったら最後まで泥くさくても戦い続けていたいよ」


ため息をつくマリス。

「なんだその程度の低い張り合い精神は。そんなもん為にそこまでボロボロになって。理解できねぇな」


「それにネラには借りがあるし、それを返すまで終われないよ」

ユイは杖に炎を纏わせ、息は荒いままだが杖を構える。


「ひよっこなりの信念って奴か。良いだろう、その炎ごとかき消してやるよ。マーテル・オムニウム!」


槍で地面を叩き、再び大量の海水を発生させるマリス。


「ってまたそれ!?」

「テメェの炎対私の海だ!せいぜいあがけよ!」




膝をついていたタケミも立ち上がっていた。


「……ッ!!ガハッ!!はぁはぁ、よし、血ぃ吐いて少しスッキリしたぜ」

口から血を吐き出しタケミは笑って見せた。


立ち上がるタケミ、全身の傷が徐々に塞がって行く。


「ほお、まだ動けるのか。先ほどので血管が破裂した筈だが」


「ああ、ギリギリだったが、まあこの通りさ。おれはな、アイツに借りを返すまで、そう簡単に死ねねぇんだよ。それに……」


「それに?」


口の周りの血を拭ってタケミは口角を吊り上げ先ほどよりもご機嫌な笑顔になる。


「こんな面白い戦い、途中で投げ出すなんてありえねぇだろ」

タケミは再び、赤鬼となって体から蒸気を発生させる。

狂気ともとれる言動にバアルは拍手した。


「はっはっは!面白い、このような状況で笑えるとは。頭がどうかしているな、だが良いだろう。貴様らはそれほどの気位でなければ、到底成し遂げられない事を成そうとしているのだ」


バアルは手を広げる。彼の周りに魔力の渦が現れる、つまりより多くの魔力が発生しているのだ。


「さあ、では続きと行こうか!!」



その頃ネラは息を切らし、地面に倒れていた。


「どうします?お開きにしますか?それとも……」

「決まってんだろ!」

鎌を振るい、黒炎を放つネラ。


「おっと」

しかし、フォルサイトは簡単に避けてしまう。


そしてすかさず棍棒の強烈な一撃をネラに叩き込んだ。


「ぐっ……!!」

棍棒を振り下ろされ、地面に再び倒れこむネラ。


「どうしてそこまでして戦うのですか?私の棍棒からのダメージより自身の能力から受ける影響の方が深刻そうですね、ちょっぴり悔しいですが。貴女は今、自分の力で死にかけている」


「アイツらをよぉ、はあ、巻き込んだんだぞ」

ネラはフラつきながらも立ち上がる。


「巻き込んだ、ですか」


「自分の戦いに人を巻き込んどいてよ……ぜぇ、1抜けたはねぇだろうがッ!」

構えるネラ。


「だから私は最後まで戦う、それ以外に選択肢なんてもんはねぇんだよ」

ネラの身体の至る所に黒い布が巻き付く。


「例えどんな犠牲を払おうとも?」


「トウゼン ダッ!!」

ネラは黒いエネルギーに一瞬包まれ、次に現れたその姿は異形なものであった。


「おお、まるで本当に……」


その姿は黒い布を体中に巻き付け、二振りの大鎌を持ち、そしてその顔は異形な頭蓋骨に覆われていた。


「死神みたいですね」

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