第30話 魔力解放の脅威


普段抑制している自身の魔力を解放する術、魔力解放。


これにより本来の魔力を扱えるようになったレクス・マリス、フォルサイト、そしてバアル・ゼブル。三人の力に一行は押されていた。



「ふふふ!どうです!私の力は!」

魔力解放したフォルサイトは元からある角に加えて二本の角が生え、肘、膝、肩にトゲのついたアーマーのような外骨格が出現していた。


(破壊力もスピードも何もかもさっきとは桁違いッ!!この状態になっても攻撃を受け止める度に身体が千切れそうだっ!)


フォルサイトが放つ攻撃はいずれもが一撃必殺、空振りの衝撃でさえ吹き飛ばされてしまう。


「そらッ!!」

それでも負けじと応戦し、黒紫の煙を纏わせた鎌で切り付ける。しかし彼女の腕に弾かれてしまう。


「素晴らしい切れ味!魔力を込めなければ簡単に切り刻まれてしまいますね!」


先ほどだったらフォルサイトの腕を切り落とせていたその攻撃、今の状態の彼女では薄皮一枚切れる程度にしかならないのであった。


「いや、防げるのかよ!」


「言ったでしょう?私がこの棍棒を使うのは身を守る為ではないと、そんなのは自身の身体で十分です!」


力こぶを作り自身の肉体のアピールをするフォルサイト。


「このこを持っているのは、私には出来ないことが出来るからです」

彼女はそう言って、棍棒に魔力を込める。


すると棍棒からトゲが出現。


(棍棒の形状が変わった!?)


「さぁ、御賞味あれ!!」

一瞬で距離を詰めて来たフォルサイト。


破砕一鉄はさいいってつ ッ!」


姿を変えた棍棒の一撃、ネラは避けきれず魔力を込めた腕でガードする。


「腕持ってかれちまうのかよッ!!」

轟音を伴う衝撃。


ネラは激しく吹き飛び、いくつもの岩などを破壊していく。


ようやく地面に横たわることができ、うめき声をあげるネラ。

「なんだ……今の、重いなんてレベルじゃねぇぞ。味見で胃がもたれるわ」

防御に使ったネラの腕は潰れていた。


「この棍棒は破砕ノ守手はさいのまもりてといって、魔力を込めれば込めるほどその質量や硬度そして形状をより強力な一撃を生み出せるよう変化していくのです。面白いでしょう?」


いつの間にか側まで来ていたフォルサイトは棍棒の説明をした。


「そんなのをぶん回せるお前はなんなんだよ」

ネラは腕を治して立ち上がる。


「ほお、あなたも腕が叩き潰されたくらいではどうとも無いのですね!」

「どうともねぇ訳がないだろ!まったく」


治した腕をさするネラ。


(ヤバいな、この状態で肉体の修復は一番避けたかったんだが。てかコイツ強すぎるだろ!三大領主とか言ってるけど明らかにパワーバランスおかしいよな。だからこそ最初にコイツらを選んだ訳だが)



「こうなったら追加の特別サービスだ!受けれるもんなら受けてみな!!」

ネラの鎌から黒紫の炎が噴き出る。


「ほぉ」


「禍炎ッ!」

鎌を勢いよく振る、黒紫の炎が三日月状の形で放たれる。


フォルサイトは飛び退いたが炎が足にかすった。


彼女の足についた炎は、ドンドンその大きさを増していく。


「なるほど!そういうことですか」

フォルサイトは一切の躊躇なく、足を棍棒で切り落とした。


「迷いなさ過ぎだろ!自分の足を切り落とすの!」


「ご心配なく、すぐに復活するので。それよりも不思議な炎ですね!消すことが出来ないとは。足を切らなかったら全身が燃えていましたね」


足を生やして話すフォルサイト。


「未来視、本当に厄介だな」


ネラの発言にフォルサイトは首を振る。


「そうでもないですよー、同時に複数の未来が視えていて、その内で起こりそうなものに合わせて行動してるだけなので。普通に闘いながら相手の動きを予想するのと同じです」


「普通の奴がそんなポンポン正確に予想したらたまったもんじゃねぇけどな」


「ふふ、にしてもお辛そうですね。その姿、非常に負担があるみたいですね。おや?その手足に巻き付けている黒い布、オシャレですか?」


先ほどからネラは肩を大きく動かして息をしている、かなり体力を消耗しているのであろう。


その上、いつの間にか手足に黒い布が巻き付いている、これは何なのだろうか。


「ああ、ちょいとヒマだったんデ……ナ。ははは、かっこいいダロ?」


「ええ、お似合いですよ。それにその魔力いや、シンプルに力と呼んでおきましょうか。さてさてどうなるか、楽しみですね」




その頃街外れの平原。

いや元平原というのが正しいか、今はその広々とした原っぱなどは海の底。


「うわー、どこまでこの水広がってるんだろ」

大波に飲み込まれる直前で飛行魔法で空に逃げたユイ。


「咄嗟に飛んだのはいい判断だな」


「いいなー自分だけ気持ち良さそうに泳いでさ」

海を縦横無尽に動き回るマリス、そんな彼女をみてそう話すユイ。


「じゃあお前も来ればいいだろ?気持ちいいぞ」

「イヤだよ、絶対何かあるでしょっ!」


マリスは海面からユイを見上げる。


「まあ、そう言わずにぃ〜来いっ!」

ユイに向かって手を突き出すマリス、すると彼女の腕はその形状を変え、タコやイカなどの足になる。


「うわぁ!なにそれ!」


「私は海の支配者だ、海にいる生物にはなんだって生み出せる、当然だろ?」

飛んで逃げていくユイ。彼女を捕まえるためにその手を伸ばすマリス。


逃げ回るもついに捕まってしまう。


「そぉら捕まえた!っん?」

マリスは足を摑んだ腕を引き、ユイを海中へと引きずり込んだ。


「さあ、この海の中でどうする?」

マリスは高速で泳ぎながら槍の攻撃を浴びせる。


「ぐっ!!」

水の中ではうまく動けない、格好の的だ。


「ナハハハ!水中じゃあ呼吸すら出来ねぇ、素早く動くことも出来ねぇ、なんて哀れな種族なんだ!人間ってーのはよ!」


(だったらエアー!)

ユイは自身の頭部を覆う空気の球体を作り出す。


「はぁ!はぁ!」

呼吸を整えようとするユイ。


「ハッ!そんな浅知恵でどうにかなるかよ!」

マリスが槍を振ると水の斬撃が飛ぶ、斬撃は空気の球体を切り裂く。


再び槍での攻撃を行うマリス。


(この調子でやられたら息が……!!)

ユイはなんとか水面に浮上しようとする。


「甘い甘い、そう簡単に行くかよ」

マリスが軽く杖を一捻り、すると突然の大渦が発生しユイを海底へと引きずり込んだ。


「さーていつまで息が続くかな?」

渦潮により海底で身体を大きく動かすことが出来ないユイ。


(よし、口の中でさっきと似たのを作れた。これで呼吸は大丈夫)

そんな中でもユイは冷静に酸素の確保方法をみつけていた。


「ほおー、口の中で空気を生み出してんのか。一歩調整ミスれば、口ん中突風や旋風でズタズタになってもおかしくねぇのに。特にそんな体質じゃあな」


渦潮のそこにいるユイをみてマリスがそう話す。


(私の体質、もうバレてるんだ。流石だなあ)


「お前、持久戦なら私に有利かもーなんて思っただろ?」

(え、それもバレてるの)


図星をつかれたユイはゆっくりと頷いた。


「周囲から大量の魔力を吸収してんだろ?その効率が異常に高い、それを貯蔵する倉庫も見たことないデカさだ。だがそんなのは珍しいだけで唯一じゃねぇ」


マリスがユイの周りをグルグル回っている。


「私だって周囲から魔力を吸収できる。特に水分が少しでもあれば、その効率は跳ね上がる。特に今みたいな状況だと最高だ。魔力核の稼働も調子良くなるしな。簡単に言うと私はほぼ魔力無限状態って感じだな」


槍をクルッと回転させる。

「パーテル・オムニウム」


地面が隆起し地形が大きく変動。

ユイは危うく、変わる地形に巻き込まれてしまう所で渦潮を脱出。


「ふーん、水流を使って自分の体を動かしたか」


(何この魔法!?私が知ってる大地魔法とは規模が違う!それにこの海水だってそう。これだけの大規模魔法を使っても魔力消費が全く無い。無限状態はハッタリじゃなさそう)


ユイは杖を握りしめる。


(フルグル・グラディウスっ!)

彼女は雷の剣を生成、相手に向けて勢いよく放った。バチバチと水に音を吸われながら、剣は突き進む。


「効かねぇっつーの。水だから電気が通るって考えが甘すぎるんだよ。こんなショボい雷電魔法なら、水を操っちまえばほら、こんなふうに電気の通り道くらい作って流せんだよ」


マリスが軽く杖を動かすと、剣はその軌道にそって全く違う方向に飛んでいく。


「いいか、本物っつーのをみせてやる」

マリスの槍が稲光を発生させ始める。


(ヤバッ!!アルミスッ!)

槍に集中する尋常ではない魔力をみて、ユイは早急に自分の周りを壁で覆った。


「そんなちゃっちいモンで防げるかよ!その名を轟かし、世を踏み荒らせっ!【インドラッ!】」

マリスの槍先から紅く光る稲妻が放たれる。


目の前が眩い光で満ちる、海を切り裂き、大地を焦がしす雷が展開した防護壁を突破。そして為す術もないまま、ユイはその轟雷に飲み込まれる。


「ッ……ガッ……アッ!!」


気を失ったのか口から大量の空気を吐き出し、水底に再び沈んでいくユイ。


「ふん、こんな所か?きっとゼブル様もフォルの方も……」

沈んでいく彼女を見て、マリスはそう言った。

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