第21話 一流な三流


部下である勇者達を盾にして逃げようとするルーフ。

彼女は光の扉を使い【天界】と言われる場所に逃げ込もうとした。


しかし、その扉は突然消えてしまう。


「え?」

困惑し固まる彼女。


「おい」

その背後からネラが声をかける。


振り向いた瞬間ルーフは鼻血を出して倒れた、ネラにその顔面を蹴り飛ばされたのだ。鼻の骨が折れた音がしたが彼女の顔面はすぐに元通りに回復した。


「おお、流石女神様、驚異的な回復能力ですな~」

地面に倒れ込んだルーフを見下ろしてそう言うネラ。


「クソッ!この私に血を流させるなんて、でも無駄よ!私達にどんな攻撃を使用がすぐに回復する!私達には天の加護があるのよ!私達は永久不滅なの!!」

立ち上がって叫ぶルーフ。


「確かに、テメェらは魔力で一瞬で肉体の修復ができるし、灰にしても復活できる。だけどよ、そんなスゲェ事がカラクリ無しにできる訳ないだろ?」


ルーフを見てネラが嘲笑した。


「まあ、お前みたいな三流女神だったらそんな事も考えねぇんだろうけどな」


この言葉でルーフは激昂する。


「三流ですって!?どいつもこいつも私を見下してッ!!」


彼女は腰に付けていた鞭を取り出しネラ目掛け振るった。

しかしその場にはもうネラの姿は無い。


「はぁー、頭も悪い、性格も悪い、その上すっとろいなんて、哀れ過ぎて同情の気持ちが生まれそうだぜ」


ネラは背後に立っていた。

彼女の両手には鎌が。月明かりが湾曲した刃をつたい、冷たい光を反射している。


ボトッという音がした。


「~~~~~~ッッ!?!」

ルーフは声にならない叫び声を上げた。地面を転げまわりのたうち回る。


「はぁッはぁッはぁッ!わた・・・・・・私の・・・・・・腕!」

ルーフは両腕があった場所を見つめて声を震わせている。

彼女の両腕が肩から切り落とされていたのだ。


「何で切り落とされてもすぐに再生する腕が、まだ生えて来ないんだぁ?」

地面でバタバタしているルーフに声をかけるネラ。


「はぁっ、はぁ、なんで?!私に何をしたのよ?!」

状況が全く理解できていないルーフは涙を流しながら叫ぶ。


天界へと通じる扉も消えてしまった、そして腕も再生しない明らかな異常事態で彼女はパニックになっていた。


「良い質問だなぁ、それじゃあ問題です。なんで天界への扉が開けないのでしょうか、そして腕が生えないんでしょうか。ヒントはアタシの異名だよ」

ネラはそう言ってルーフの頭を掴む。


「し、死神・・・・・・その鎌!」

「ピンポーン!せーかい!」

ネラはそう言ってルーフの顔に鎌を近づける。


「この鎌はなお前らと天界との繋がりを絶つんだよ。だから扉も使えない」


「そ、そんな事」

声を震わせるルーフ。


「お前らは常に天界から膨大な魔力を供給されている、だから怪我をしてもすぐに回復出来る。でもこいつに斬られたらその繋がりが断たれる、仕組みが機能しないんだから治らないのは当然だよな」


ネラはそう言ってその鎌を女神の首にひっかける。


「お、お願い、やめて、殺さないで・・・・・・」


歯をガタガタ震わせ、涙などで顔がぐしゃぐしゃのルーフは必死に命乞いをした。


「ふーん、じゃあ一つ質問だ。【お前は何から生まれた?】」

ネラは彼女の耳に顔を近づけ質問をした。


「何からってそんなの、はぁ、知らないわ」

女神はそう答える。その声は困惑と恐怖に揺れている。


「はぁ、そうだよな」

ネラはため息をつく。


「情報が欲しいの?!だったら私が今後調べて提供するわ!だからお願い、殺さないでっ・・・・・・」


彼女は夢にも思っていなかっただろう、不滅だと思っていた自身の命が風前の灯火となるこの瞬間を。


「アイツらを殺した事は気にしてないから!あんなのなんてまた一から集めれば私たちの手足として扱えるわ!アイツら単純なの、ちょっと甘い言葉をちらつかせればスグに……」


「黙れ」

「ッ!!」


低い声で鋭くそう言い放つネラ。


「これ以上テメェの話聞いてると耳が腐っちまう。じゃあな三流」


ネラはルーフの首にかけた鎌を引いた。


重い音を立て地面に倒れ込んだ体と頭は真っ黒な炎に包まれていく。

最後に残ったのは彼女が身に着けていた豪華絢爛な装飾品と衣服にムチだった。


「はぁーあ、しょうもねぇ」


ネラはそう言ってその場を後にしタケミ達のもとへと戻る。




街に戻って来たタケミ達、街中に勇者達が転がっていた。


「おー、こっちも派手にやってんなぁ~」


「ここでしたか!」

すると宿のスタッフが三人の元に駆け寄って来た。


「街中が騒がしく、どうやら貴方様方を探している者たちが多くいるそうでして。皆さまの荷物は既に用意しておりますので。さあこちらに!」


スタッフに言われ一行は宿の裏に回る。


「こちらが皆さまの荷物です。皆さまが注文していた商品もすでに受け取っております。この裏口から真っ直ぐ街の外を目指して頂ければと」


「えー、俺まだ全然戦ってねぇのにー!」

「えー、私まだこの宿で寝れてないーフカフカのベッド―!」

「わがまま言うな、これ以上連中とやりあっても大した情報得られないだろうし。このまま次の街いっちまうぞ」


不満を言うタケミとユイだったが、荷物を持ち出発の準備を整える。


「じゃあなー!最後まで色々とありがとなー!」

「皆様の旅路がより良い物になります事を心より祈っております」


手を振るタケミに丁寧にお辞儀するスタッフ。


「よーし!それじゃあ出発!」

ネラが走り始めた。


「あの人たちいい人だったな、そう言えば名前きいてなかったな」

「ああそう言われれば。他の従業員1人ぐらいしか見かけなかったけど、あれだけのサービスできるって凄いよねー。はぁーもっと色々と楽しみたかったな」


先頭を行くネラを追ってタケミとユイも走り始める。




「おい!ここだ!この宿だ!!」

その後に勇者達が押し寄せて来た。


スタッフが二人出てくる。


「あ?なんだお前らここの従業員か。黒髪で鎌をもったやつとその仲間二人がいるだろ!連れてこい!早くしろ!こっちは時間がないんだよ!」


出て来たスタッフを見て焦った様相で話す勇者達。


「私達が皆様の対応をさせて頂きます」

「質問ですが、皆さまでこの街にいる勇者様は全員、ですか?」


そう聞かれた先頭にいた勇者の1人が頷く。


「ああ、ここにいる連中しかもう残ってねぇよ。クソッ魔神軍の連中さえいなければ……!こんな事には」


この返答を聞いた二人は嬉しそうな顔をする、直後に二人は勇者達の前に立つと体が光に包まれた。


「な、なんだ?」

「っ!お前らッ!?」


光が収まるとそこに立っていたのはフォルサイトとマリスだった。


「まだこれだけ残っていたんですね」

「どこかに隠れてやがったな、でもまあ作戦通りこれであぶりだせたな」


二人をみた途端、勇者達は武器を捨てた。


「お、おい!俺らはあのルーフって女神に脅されてたんだ!」

「そうだ!あいつの命令だったんだよ!でももうアイツは死んだ、だからもうアイツとは関係ねぇんだ!アンタらと戦う必要はねぇんだ!」

「俺らはただあの死神さえ捕えられたらそれで良いんだよ!奴等はお前らの敵だろ?魔神軍の1人を倒したって話だし……」


勇者達の話を聞いていたフォルサイトが地面に棍棒を突き立てた。


「要領を得ませんね。結局何が言いたいんですか?」


「だ、だから、俺たちを見逃してくれよ」

震えながら相手はそう話す。


「なるほど、あなた方は自分達の女神を失った。このままでは所謂【はぐれ】になってしまう。そこで死神殿達を他の女神に差し出す事で自分たちの延命を図るという事ですか……」


フォルサイトは後ろの宿を振り向く。


「ここは我らが主が経営している高級宿。結構気に入られているんですよ、ですから損傷させるような事して欲しくないのです。ねーマリスさん」


「ああそうだ。でもテメェらはこの宿ぶっ壊そうとしたよな」


マリスと呼ばれる魔神軍の魔法使いが勇者達に向かって歩き始めた。

それと同時に勇者達の退路を塞ぐように周囲に水の竜巻が発生する。


「ゼブル様の大事なもんを壊そうとした連中に、どうしてお情けしてやんねぇとならねんだ?」


「という訳です。交渉決裂ですね」


ゆっくりと近づいて来る二人に相手はその場に崩れ落ちる。


「あ、あああ……」


その目に戦意などはある訳もなかった。



「ふぅー本当にあっという間でしたね」

「全くだ。まああんなぺらっぺらな精神の連中だから当然か」

フォルサイトとマリスは相手を片付け、広間にある椅子に座っていた。


「さて、ネラ殿たちが向かったのはこの街ですか。また面白い事になってますね」

「あ!自分だけ未来視で!ずり―なそれー!」


こうして街はいつも通りの朝を迎えるのであった。

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