第20話 魔法使いユイの本領発揮
商売の街【オスティウム】に訪れ、宿で寝ているタケミ達に勇者達が奇襲を仕掛けて来た。
その騒ぎを聞きつけてか、それとも予めいたのか、タケミ達の元に魔神軍のフォルサイトとその仲間が現れた。街の勇者達は彼女達に任せタケミ達は襲撃して来た勇者達を束ねる女神の元へと向かう。
「ルーフ様!死神達がこちらに向かっています!」
「思ったより早いわね。街の連中は何をしているのかしら、本当に役立たずばかり」
勇者からの報告に悪態をつくルーフ。
外であるにも関わらず彼女は豪華絢爛な椅子に座っていた。
「いいわ、兵器の射程距離に入ったら間髪入れずに撃ってやりなさい。魔法使いも同様よ、すぐに配置に付きなさい!」
勇者達は大砲、大弩弓に加えて手回し式のガトリング砲まで用意していた。
「おお!良いなあ、あれ!俺も使ってみたい!」
「ああ、ハイハイ。後でな」
走っているとユイが先頭に出る。
「ここは私に任せて」
「えー、俺も闘いたいー」
「昼の戦闘、させてあげたでしょ。それにまだ戦闘の疲労完全に回復してないでしょ!」
それを言われてムスッとするタケミ。
「いーじゃん、別に大したことじゃないしさ。ほら、全然大丈夫だろ!」
タケミはその場でぴょんぴょん跳ねてみせる。
「だめ!今回は休んでて、一回戦闘休めば全快するでしょ?それで連中の仲間が来たときやあの魔神軍の人達が来たときに備えてて」
ユイに言いくるめられたタケミはその場に寝転んだ。ネラはすでに座っていた。
「休んでおくから、手ぇ必要なら言ってくれよ」
「その心配は要らねぇよ。この状況こそユイの最も得意とする状況だ」
隣に座ったネラは鞄から携帯食料と酒を取り出した。タケミも食料を分けてもらった。
ユイは勇者達に向かって走っていく。
「なに、1人でこの数を相手にしようって言うの?まったくどいつもこいつも、私を下に見てんじゃないわよ!あんたら全員ぶっ殺してふんぞり返ってる連中に目にものみせてやる!やりなさい!!」
ルーフは怒鳴るように攻撃命令を出した。
相手集団は戦闘を走るユイに向かって兵器と魔法を向けて放つ。
最初に飛来してきた兵器の弾丸や砲弾を魔法の壁で防ぐユイ。
そして次に水の弾に火の弾にそして雷の弾と多様な魔法が降り注ぐ。
ここでなぜかユイは魔法の壁を消してしまう。
「壁けしちまったぞ?どうするんだ?」
「ういえばタケミはまだユイ能力を教えてなかったな。前の街の側じゃあ魔力を安定させるのが難しくてな。本来の力が出せなかったんだ」
後ろでみていたタケミの質問に対してネラが返す。
ユイ目掛け飛んできた魔法は、彼女に届く前に空中で止まった。
「止まった、受け止めたのか?あれだけの数を?!」
相手の魔法使いたちがざわつく。
空中で止まった魔法は全て粒子へと分解され、彼女に吸収されていった。
「な……何か起きているの?」
その光景を見て愕然とするルーフ。
「下らない。こんなの水じゃない、火じゃない、雷じゃない、ただ魔力でそれっぽい形を作り出しているだけ。似非、こんなの幾ら撃たれた所で私の力になるだけ」
「なんか魔法がユイに吸収されたぞ!?あれどうなってんだ」
パンをかじりながらタケミがネラに聞く。
「あれがユイの能力。卓越した魔力支配能力、それによって魔法は魔力レベルまで分解して吸収しちまう。そしてそれを貯蔵する為の無限の魔力貯蔵量を持つ体だ」
ネラは横たわりながら酒をあおりそう言った。
「魔法がダメなら直接叩くぞ!転移だ!」
勇者が魔法使いの魔法でユイの周囲に転移した。
「へぇ、そういうのもできるんだ」
ユイは囲まれたが、特に焦ることもなく、杖を構える。
「うおおおお!!」
勇者達が一斉に斬りかかる。
それをユイは杖の一振りで弾き返す。
次々と攻撃をしようと勇者達が駆け付けてくるがユイはそれをものともしない。
「こいつ魔法使いの癖にこの距離の戦いに慣れてやがる?!」
杖の先端に取り付けられた刃で相手を突き、切り裂いていく。
左右と上に備わった刃で突けば相手の鎧ごと貫き、薙ぎ払えば盾をしていようがかまわず吹き飛ばしてしまう。
「おー、槍みたいに杖を使うんだな」
「私がしっかり仕込んでおいたからな。近距離戦闘も問題ないはずだ」
ユイが相手を杖で倒していく様を後ろから眺めながらタケミ達は話していた。
二人は完全にくつろぎ観戦モードだ。
「加速!!」
ユイを取り囲む集団の勇者の1人が凄まじいスピードでユイの背後を取る。彼女の背後から頭目掛け剣を振り下ろす、まだ彼女は背を向けていた。
しかし、剣をユイに当てる前に勇者の動きが止まり、剣を落としてしまう。
「えっ……?」
彼の胸には大きな穴が開いており、その周辺が炭化し炎が上がっていた。
ユイの指先から放たれた炎で撃ち抜かれたのだ。
胸から炎を上げながら相手は膝から崩れ落ちる。
「おお!ノールックで撃ったのか!かっけー!」
「ユイは炎魔法があってるみたいでな。あいつが出す炎に触れたら一瞬で炭になっちまう」
手を叩いて応援するタケミと酒を片手に観戦しているネラ。
「ぷはぁー、そろそろユイが本気出すだろうから。よくみとけ」
「お、マジか!」
横になっていたネラが座り直してそう言った。
(近接戦闘はネラとの訓練以来だけど大丈夫そうだね。それじゃあそろそろ終わらせちゃおう)
ユイが右足で地面を踏むと彼女を中心に炎の波が発生し敵を飲み込んでいく。
「本当の魔法を見せてあげる」
杖が光を帯びる。
「我が名は焔、草木は熱へと帰る、天は我を遠ざけ……」
周囲を明るく照らす炎が現れ、杖を包み込む。
「地は我を受け入れた。我が名は焔、我を持って槍をなし、この地に我が熱を与えよう……ランシア・イグニスッ!!」
杖は焔の槍となる、それをユイは相手目掛け投げ放つ。
槍は閃光のように眩い光を放ち、地面を焼き付けながら敵を襲う。
「防壁だ!早くッ……!?」
魔法で防ごうとしても間に合わず、自陣に侵入した槍が仲間が焼き尽くされていく。
「なにビビってるのよ!間髪入れずに攻撃するのよ!」
ルーフは人海戦術でこれをどうにかしようと次々と勇者達を送り込む。
「ふぅん、数だけは立派だね。だったら」
ユイは高く飛び上がる。
焔を纏った杖を手元に戻す。
杖は更なる量の焔を放つ、ユイは相手陣地にいるルーフを探す。
「お、いたいた」
彼女はルーフを見つけるとそこ目掛け杖を投げた。
敵陣地に着弾した杖は大規模な爆発を起こす。
「うおおおお!すげー!」
「派手にやるねぇ~」
どこからか取り出したサングラスをかけてタケミとネラはその光景を楽しんでいた。
「がはッ!!あ、危なかった……!!」
炭や灰の中からルーフが這い出てる。
彼女が這い出てくると、その足を何もかが掴む。
「ッ!?」
「ひ、酷い……私……達を、盾に……して」
掴んだのは体の半分が無くなり燃えている勇者だった。
「うるさい!貴様らなんて幾らでも替えが効くんだ!でも私は違う!私が生き残ればまた、私さえ生き残れば……!!」
その勇者を蹴り飛ばし、逃げようとするルーフ。
「聖なる光よ!我らが聖域へと通ずる道を照らし我を天界へと導きたまえ!」
彼女が何かを唱え始める。
「ほーん、しぶといねぇ~。それじゃあここからは私の出番だな」
灰が積もって出来た山の上から、ネラがしゃがみ込んでルーフ見下ろしていた。
ルーフの前に光の扉が現れる。
「やった!まだ天は私を見捨てていないッ!!」
そう歓喜の声を上げた彼女だが、手が扉に触れる前に扉は消えてしまう。
「あれ……?」
無くなった扉を探すようにあたりをキョロキョロするルーフ。
「よう」
不意に呼ばれてルーフは振り向く。
そこにはネラが立っていた。
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