第19話 女神と勇者達から夜のパーティへの招待
フォルサイトとの手合わせを終えたタケミ。
ユイに𠮟られながらも彼らは宿に戻った。
その日の夜タケミ達が部屋で寝ていると何やら怪しげな影が部屋の外に現れた。
武装した勇者の集団だ。中の様子を伺っている。
「よし、相手は寝てるね。私の【密かに行動する為の能力】で私達が発する音は一切相手には伝わらない。じゃあ窓開けちゃうね」
その内の1人の女性が窓に手を当てると窓の鍵が開く。
勇者というより完全に能力は泥棒の類である。
「よし、いいよ、入って。間の抜けた寝顔を拝んでやりましょう」
女性が合図をすると他の者も侵入。
彼女含め6人がタケミ達が寝ているベットの側に立つ。
武器を取り出し、構える。
6人一斉に飛び掛かった。
しかし、次の瞬間にその6人は窓の外に吹き飛ばされていた。
6人の内2人は大きな質量あるものに衝突したかのように折れ曲がり、2人は体が炎を吐く炭となっており、2人は体が鎧ごと真っ二つにされていた。
「……ッ?!な、何があったんだよ!」
下には彼女たちの仲間であろうか、豪華な、いや大言壮語とでも言った方が適当であろうか、そんな装備をした者達が宿屋前の広場いっぱいに集まっていた。
その者達は宿から放り出された仲間だったものを見て酷く狼狽えた。
「くそ、奇襲がしくじったか!バレたんなら構わねぇ!思いっきりやっちまえ!!」
集団の中心にいた者がタケミ達がいる部屋に向かって剣を向けた。
「おい」
「え……?」
剣を構えて威勢よく声を上げた者の背後にはネラが立っていた。そして気付く、
さっきまで宿の方を向いていたはずの自分の顔が後ろにいるネラの方を向いている事に、そして天地が逆さまになっている事に。
「奇襲ってーのはこうやるんだよ」
ゴトっとその者の首が地面に落ちる音がした。
「ひ、ひいぃぃぃぃ!!」
悲鳴が上がる。
その直後集団の宿側の方で上げしい衝突音が。
「ハハハ!こんな大人数相手にするのは初めてだ!まとめてかかってこい!」
タケミはボロボロになった勇者達の頭を掴んだまま喜びの声を上げる。
また反対側では爆炎が巻き起こる。
「全く、夜に来るのやめてよね。折角良い部屋で寝れると思ったのに」
あくびをしながらユイがそう言った。
「「「覚悟しろよ」」」
三人は敵を蹂躙し始める。
「だ、ダメだ、俺たちじゃあ敵わねえよ」
タケミ達の戦いぶりを見て戦意を喪失し逃げ出そうとする勇者達。
「ば、バカ!何考えてんだ!逃げたことがバレたらそれこそ俺たち命はねぇぞ!!」
「で、でもよお!このままここにいたって結果は同じだぜ!?」
そんな話をしながら二人の勇者が歩いていると、何やら大きく弾力のあるものにぶつかる。ばよんッと弾かれた二人は前をみる。
「おやおや、これは何とも面白い祭りじゃないですか。わたくしも参加させて頂いてもよろしいですか?」
そこに立っていたのはフォルサイトだった。
「く、くそおお!!!!」
相手は悲鳴にも似た声を上げながら剣を突き出す。
フォルサイトはその剣先に自身の目をワザと当てるように顔を前に出した。
子気味いい音と共に剣が砕ける。
「あらら、大したこと無いんですね、勇者様の剣というのも。生き物において絶対的な急所である目を相手にしてその有様とは……悲しいですね」
フォルサイトはそう言って相手に棍棒を振り下ろした。
この時ルーフは別の場所で指揮をとっていた。
「化物だァっ!!」
「仲間が、仲間が盾ごと真っ二つに……!嫌だ、来るな!来るなぁあ!!」
「くそ!邪魔だどけ!!早く離れねぇと炎に飲み込まれ……アアァッ!!」
先ほどから通信越しに勇者達の悲鳴が絶えず響きは消えを繰り返す。
その通信を聞いている内の一人にルーフは声をかける。
「何を狼狽えているの?あいつらは所詮捨て駒、相手を疲弊させられれば十分。あなた達は選ばれた存在なのよ……だから私の為に、そして世界の為に頑張ってちょうだいね」
ルーフにそう言われ、皆は勢いずく。
「そうだ!俺たちにはルーフ様のご加護がある!!」
「負ける訳ねぇ!今やられてる連中は違うんだ!できる!俺たちはこの闘い生き残る事が出来るぞ!」
人が変わったかのように声を上げて自分達を鼓舞する者達。それを見てルーフは笑う。
すると彼女の元に1人の女性勇者が。
「ルーフ様、先ほど報告が」
「あら、なにかしら?」
その勇者は報告を始めた。
「やはり魔神軍のフォルサイトもこの戦闘に加担しているようで。他にも見慣れない小柄な魔法使いの報告も……」
「そう……まあ良いわ、手柄は多い方がいいもの。あの”死神”に加えて魔神軍を討ち取ったら私は間違いなく上級女神へとなる事が出来るわ。そうなればあなた達の位も上がるというものよ」
勇者の顔を撫でてルーフはそう言った。
「は、はい!全力で努めさせて頂きます!」
相手は顔を赤くしながらも敬礼した。
「さあ、兵器をありったけ用意して。魔法使いにも最大威力で魔法を使って良いと伝えて。あの街はもうどうなっても良いわ」
ルーフが命令を発すると勇者たちは一斉に動き始めた。
一方その頃相手を倒し続けるタケミ達はフォルサイトと合流していた。
「あれ、フォルサイトじゃねぇか」
「どうもタケミ殿。ちょっと参加しちゃいました」
タケミに続いてユイとネラもその場に合流。
「え!魔神軍の人!」
「何のようだ」
今にも斬りかかって来そうなネラをなだめながらフォルサイトは話す。
「そう殺気を放たないでくださいよ~。そうだ!いかがでしょう、街中の勇者は私達に任せてくれませんか?」
「街中の?」
フォルサイトは頷く。
「ええ、この勇者たちを指揮している女神はもう街にはいません。街の外に陣を構えています。そこから街もろとも皆さまへ攻撃を仕掛けるつもりでしょう」
「そんな!それじゃあこの街もただじゃ済まないよ!」
ユイが言う通り、彼らを倒すほどの火力を向けられてはこの街は無事では済まないだろう。相手はそんな犠牲もやむなしと考えてるという事だ。
「もちろん、そちらもお任せください。今しがた私の仲間が、この街全体を防護魔法で覆ってくれました」
フォルサイトが上空に指を差すと半透明の膜のようなものが発生し街全体を包み込んだ。
「これでユイ殿も存分に力を振るえるのではないですか?どんな規模の魔法を使って頂いても構いませんよ?我が軍随一の魔法使いがそれからしっかりこの街を守りますので」
「これだけの防護魔法を一瞬で!あのもう一人の魔神軍の人、魔法使いなんだ。ローブで魔力が完全に感知できないけど、凄い……」
ユイは驚いた様子で空を見上げる。
「さあ、どうぞ行ってください。どうか楽しんで」
「ああ!ありがとな!また今度闘おうな!」
手をふる代わりに棍棒を振り、タケミ達を見送るフォルサイト。
広場の建物の屋上にフードまですっぽり被った魔神軍の魔法使いが現れる。
「……」
「はい、お待たせしました、お願いします!」
フォルサイトがそういうと、周囲の建物に同様の防護魔法が施される。
「なんだこの魔法!?」
「さあ、住民は建物中にいる事は確認済み、その建物は保護済み。もう街中にいるのはあなた達だけ」
勇者達の方に振り向くフォルサイト。
「焼き払え!ファイヤッ!」
勇者達が魔法で炎の弾を発射。
すると空からふわりとフードを被った魔神軍の魔法使いが降りて来た。
「おや、別に助けて頂かなくても良かったのに」
フォルサイトがそう言うと、魔法使いは手をくるっと体の前で一周させた。
すると飛来して来た複数の炎の弾は空中で停止した。
「え?」
停止した炎の弾は先ほどの倍の大きさになり勇者達を飲み込んだ。
「”マリス”さんも楽しんでますねぇ」
爆風によりローブのフードが下ろされ、その下にある顔が現れる。
ツルっとした水色の肌に魚のヒレのような耳を持っており、背丈は150cm程だろうか小柄な少女の印象を受ける外見をしていた。
「まったく、お前は昼間散々暴れただろ、少しくらい私にも遊ばせろよな」
「ええ、どうぞ。しかし、私達二人相手にこの街にいる全勇者様で如何ほどもつでしょうかねぇ」
二人はゆっくりと勇者達の集団へと歩みを進めた。
勇者達の怒号と悲鳴が街にこだまする。
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