第18話 第一部隊隊長、一目族のフォルサイト


魔神軍の大領主、バアル・ゼブルの配下であるフォルサイトと手合わせをする事になったタケミ。


しかし、タケミの攻撃は全くかする事さえ出来ずにいた。



(マジで攻撃当たらねぇな!スピード不足か?ソウトゥースとの戦いで強くなってパワーもスピードも上がってるのに。こうなったら赤鬼使うしかねぇか?)


タケミは相手が余りにも自分の攻撃を避けて来るのを不思議に思いつつも、彼は前進し攻撃を続ける。


「おや?何か悩み事ですか?戦い中に、感心しませんね!」


フォルサイトの棍棒による連撃を食らってしまうタケミ。


(ぐっ!相手の攻撃は当たる回数が増えて来やがった!)


連撃の最後にフォルサイトはタケミを掴み地面へと叩きつけた。

その衝撃で地面は大きく割れ、周囲が揺れる。


「なるほど、あなたの身体能力は確かに素晴らしい。明らかに勇者の範囲、いや女神たちの範疇すら凌駕しているかもしれない。だが、それだけで私は倒せません。ましてや大領主様や我らが王には」


「そうかもな……!」


タケミの身体が赤く変色し体から蒸気が発生する。

そして押さえつけられた状態から拳を繰り出す。


しかしフォルサイトはそれを寸前の所で回避。


「おっと、危うく当たる所でした。その状態、なるほど。面白いですね」


「行くぞ!」

タケミは距離を詰める。


再びフォルサイトはその攻撃を回避する。


「ハハハ!やっぱりあんた随分と良く見えてるんだな!経験からの予測って奴か?」


「ふふふ!いい線ですね、その仮説!やはり貴方は面白い」

フォルサイト少し驚くも嬉しそうにそう言った。



「避ける時、まるで俺の拳がどこを通るか予め分かってるような動きをしてたからな。いい線ってことは予測してるんじゃねぇのか?」


「そうです、正確には少し先の未来を見る事が出来るんです、私。ですから、回避の際は安全圏へと身を運び、攻撃の際はタケミ殿が避け辛いポイントが分かるのです。まあ結局最後は経験から来る予測ですがね。なので概ね正解ですよ」


フォルサイトはそう言って拍手をした。


するとフードを被っているもう一人の魔神軍の者が手を上げた。


「おや、もうそんな時間ですか。すみませんタケミ殿。そろそろお時間ですので」

「そうかよ、じゃあこれで決着だな!」


二人は互いに向かって跳びだす。


フォルサイトが先に攻撃を繰り出した。

タケミはそれを避ける事無く攻撃を放った。


「避ける暇があるくらいなら、という事ですか!ですが流石に無謀過ぎでは?」


彼からの攻撃をかいくぐりながら棍棒を振るうフォルサイト。


滅多打ちにされながらもタケミは食らいつく。

彼の頑強さが無ければ一撃でも即死であろう攻撃を幾度となく受け耐えてる。


しかし、流石のタケミも一瞬、意識が薄れる。


「お、俺を……」

「ん?」

倒れそうになるタケミをみてフォルサイトは何かを感じ取った。


「討ち取ってみろおおおおッ!!」


雄叫びを上げて拳を突きだすタケミ。


その一撃はフォルサイト大きく後方へと押し出した。

(見えなかった……!それだけじゃない、この衝撃)


彼女は自身が持つ棍棒に目を向ける。

棍棒をにはタケミの拳の跡がくっきりとついていた。


それを確認した彼女は棍棒を地面に突き立てる。


「降参です、負けました」


彼女はそう言って両手を上げて微笑んだ、先ほどの真剣な顔から一気に温和な表情となっていた。



「はぁ?何言ってんだ、まだ決着ついてねえだろ」


「いいえ、私の負けです。私の予見を上回る能力を見せ、棍棒もこの通り凹んでしまいました。それにほら、タケミ殿の拳もその状態で戦うのはおススメできませんし」


フォルサイトはそう言ってタケミの右拳に指を差した。


「え?ああ、本当だひしゃげてらぁ」

彼の拳は出血していた。


「という訳で我々はこれで、それではタケミ殿、ユイ殿、そしてネラ殿また近いうちにお会いできるのを楽しみにしていますね」


一礼しフォルサイトは仲間と二人、その場を去っていた。



「もう!タケミ!またあの赤くなる奴やるし、手もこんなにして!ほら、傷薬塗るから手出して!」


ユイが怒りながら近寄って来る。


「えー、薬よりもユイの治癒魔法でパパッと治せばいいだろ?」


「あれは体にスゴイ負担がかかるからダメ!ほら早く手!」


タケミは大人しく右手をだす。


(さっきの一撃、良い感じだったな。まぐれ?だとしたらあれをもっと打てるようになればもっと強くなれる!そうしたらフォルサイトととももっと戦えて、うん良いな!忘れねぇようにしなきゃな!)


傷薬を塗って貰いながらタケミはそんな事を思っていた。


(フォルサイト、結局タケミとの戦いじゃあ全然底を見せなかったな。まあタケミも何か得たものがあるみたいだし、良いか。最悪、力を使うことになるかと思ったが……まあそれよりも対処しねぇとならない事が出来たし、まずはそっちだな)


ユイがタケミを叱っている様子をみながらネラは何やら考えているようだ。




その日の夜、街にあるとある部屋に人が集まっていた。


「ごめんなさい、ネックレスに気が行ってて話を聞いてなかったわ。もう一回言ってくれるかしら?」


豪華絢爛な服装をした女神が椅子に座り、自分の手元にあるネックレスを眺めながら、跪いた勇者達に話しかける。


「も、申し訳ありません!魔石を回収はできませんでした」


「出来ませんでした、それはどうしてかしら」

冷たい女神の言葉に勇者は体を震わせる。


「そ、それが、邪魔が入りまして。恐らく魔神軍の”先見のフォルサイト”かと」

「魔神軍?なるほど、確かに貴方達には少し荷が重いわね。にしてもあの”死神”から魔石を奪おうなんて随分とバカな事をするものね」


女神は椅子の横にあった鞭を手に持つ。


「あなたのせいでこちらの動きがバレて、相手がこの街から逃げ出したらどうするつもり?他の奴に手柄を横取りされるかもしれないのよ?良い?あなたは魔石回収に失敗しただけじゃないの、勿論それも大事よ。あなたはまだ”維持基準”を達成してないのだからね」


すると女神は鞭を、一番先頭にいる勇者の首に巻き付けた。


「す、すみません!以後二度とこのような事は!」


「以後?うーん、やっぱやめたわ、あなたはもう回収した方が良さそうね」

勇者を自分の元に手繰り寄せる女神。


彼女は勇者の胸に手を当てる。

するとそこから光の粒子が発生し彼女の手に吸収されていく。


「あ……アァッ!!お、お許しください!!次こそは必ず!!だから!」

それが彼の最後の言葉となった。


勇者は光と共に消えた。


「……ッッ!!」


他の者も顔を青ざめる。


「あなたたちぃー。だーれのお陰で第二の人生楽しませて貰ってると思ってるの?だーれがその体を与えて、だーれがその能力を与えたのかしら?」


「女神ルーフ様ですッ!!」

真っ青な顔で答える勇者達。


「そうよねぇ。本来あなた達はくだらなーい人生を、くだらなーい終え方で幕を閉じるはずだった。それを転生させて、もう一度人生やり直せるようにしてあげたのよ、この私が」


ルーフは勇者達の周りをゆっくりと歩き始めた。


「それなのに何?私のお願い一つも聞けないの?ただ魔石を集めて頂戴っていう話を聞けないって言うの?」


「い、いえ、そんな事は……」

勇者の中の誰かが答える。


「そういえば、今日ここに集まって貰ったみんなはどうして集められたか言ってなかったわね?」


「え、はい、そうですね。特にそのような話は……」


ニヤっと口角を吊り上げるルーフ。


「それじゃあクーイズ!みんなにはある共通点がありまーす!それは一体なんでしょうか?」


そう言われて少し考える勇者達、そして一人が気付くと顔面蒼白のままその部屋を飛び出そうとする。


しかし扉が開かない。ガチャガチャとせわしなくドアノブを回そうとする。


「あ!分かった?そう、正解はみんな”未達成”って事。という訳で私の魔力になって頂戴ね」


直後、部屋室に幾つもの悲鳴が響く。

しかしその悲鳴は一つ、また一つと消えていった。


「さーて魔力も得られたし、それじゃあそろそろ行動に移らないとね。頼んだわよ」


ルーフがそう言うと部屋のベランダに複数の勇者が現れた。


「はい、お任せください」


勇者達は夜の街に飛び出した。


「死神ネラ、貴女を仕留めて私は更なる高みへと昇るわ……」


そう言って高笑いするルーフだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る