第17話 賑やか街でのお客
商売の街【オスティウム】に訪れたタケミ達。
買い出しなどをしているタケミとユイを遠目で見る怪しげな人影がそこにはあった。
「うんうん!この店の飯美味いな!!」
「あの店におススメされた場所だからな。酒も美味い」
「流石に使い方が荒すぎると思うんだけど。まあご飯は仕方ないよね!」
3人は昼食を取っていた。
しかし、昼食というには豪勢なものだった。
本来なら6名以上の団体が使うであろう大きなテーブルにコップの置き場も探さねばならない程に料理が並べられていた。
肉、魚、野菜、果物とありとあらゆる料理が並んでいた。流石は3つの領土の中心地で陸路の貿易が最も盛んに行われている街と言われるだけの事はある。
話しているとぞろぞろと男女が3人のテーブルの元に来た。
「おい、あんたら」
「ん?店員か?これおかわり」
タケミは空になった皿を差し出す。
「違うわ!」
「お前らの魔石を寄こせってんだよ!」
その者達はテーブルをガンと蹴る。
「おいおい、スープがこぼれる所だっただろ!」
「なにー、まだ飯食ってるのにー」
タケミは両手に持った大皿の上に乗ったものを口に流し込む。
ユイも大皿を片手でもちもう片方の手でスプーンを持って食事を口へと運ぶ。
「なんだよ!その目は!」
立ち上がるタケミ達を見て相手は身構える。
「ああん?なんだテメェら勇者か?」
ネラがガンを飛ばす。
タケミ達と勇者がお互いに睨みあっていると彼らの背後に大きな人影が。
「申し訳ありません、その方に目を付けていたのは私たちが先なので」
フードを被っており顔は見えないが女性らしい声だ。
「ああ?なんだ!人の話を遮んじゃねぇよ!」
勇者達の中で一番の大男が二人組の背の高い方の肩を押す。
「言葉を慎みなさい、喧嘩を売るなら相手を選ぶことですよ」
こう言われたが、男は態度を改めるつもりはないようだ。
どこから現れたのか他の勇者達が二人組を囲むように広がっていた。
「はぁ、しょうがないですね。申し訳ありません、少し時間を頂きます」
「おう、やろうってのか!」
大男がローブを掴んだ。
ローブの人は掴まれている手を掴み、捩じ上げる。男はそれを力で返そうとするがビクともしない。
「その肉体と言動からしてあなたが授かった力は【最強の肉体】とか【圧倒的腕力】とかですかね、にしては随分と非力な」
大男が膝をつき呻く、するとローブの人は大男の腕をひねった。
腕は2回転し男は声を上げ倒れ込む。
それと同時にローブが外れ、その姿を現した。
背丈は2m程はあるだろうか、タケミとほぼ同じで筋肉質の身体。
特徴的なのはその顔だった、顔の中央に一つの大きな目があった。
「なッ!」
勇者達がたじろぐ。
「魔神族!?」
「ああ、ローブは魔力を隠す為か」
ユイとネラも構える。
「あらら、バレちゃいましたね。まあ隠し通すつもりも無いので良いですが」
周りの様子をぐるっと見回してそう話す魔神族の女性。
「それで、あなた達はどうするんです?私たちがディナーに向かうまで足を震わせているつもりですか」
彼女が周りを囲んでいる勇者に向けて言う。
「く、くそ!やってやるぞ!!」
「そうですか、分かり易くてありがたいですね」
決着はあっという間だった。周囲には一蹴された勇者たちがうずくまっていた。どの者も戦闘向きな才能や装備を与えられていた、だが彼女はかすり傷どころか、息を切らすこともなく中心に立っていた。
「ふぅ、あっけない。大変お待たせ致しました。カヅチ・タケミ殿」
彼女はタケミに向かってそう言った。
「ヒュウ♪お前も隅に置けないねぇ~こんな美人いつ知り合ったんだ?」
ネラがタケミの肩を叩く。もちろんタケミには相手の見当も付かない。
「ふふふっ私たちは初対面ですよ、死神ネラ殿。私は初見ではないですが」
一つ目の者はそう言ってネラに微笑みかける。
「ッ!へぇ~私たちのことよく知ってるのか。勉強熱心で尊敬しちゃうね」
ネラが一瞬驚いた顔をするがいつもの軽口で返す。
「あなたと、その後ろの人も魔神族だよね。まさかあなた達二人ぽっちでこんな所に来たの?他に仲間は?」
ユイが杖を魔神族の二人に向ける。
「そちらのお方は、イトウ・ユイ殿ですね。警戒深いのですね、良い事です。ですが私たちは本当に二人だけですよ。ここには私用で来ただけです」
未だフードを被っている方の頭にポンと手を置く。
フードを被っている方は子どもくらいの身長だろうか、並んでみるとかなり身長差がある。
「……」
「私たちがここに来たのは他でもありません、手合わせお願い致します。タケミ殿」
「なーんだ、そう言う事なら大歓迎だ」
タケミはそう言って肩回しをする。
「あなたがソウトゥース殿と素手で戦ったと。それを聞いて興味を持ちましてね」
「いやいやいやいや!ダメでしょ!何普通な流れで闘おうとしているの?!」
ユイが二人を止めようとする。
「ご安心を、手合わせなので、殺し合いをする訳ではありませんよ」
「テメェらバアル・ゼブルのとこのか」
ネラの発言を聞いてハッとする魔神族。
「そうでした、名も名乗っていませんでしたね。これは大変失礼を」
「魔神軍、大領主バアル・ゼブルの直属部隊、第一部隊の隊長をしています。フォルサイトと言います。一目族です、珍しいでしょ?今では私だけなんですよ」
そう言ってフォルサイトと名乗る相手は嬉しそうに笑った。
「フォルサイトっていうのか。よろしくな」
「……」
フォルサイトの背後にいるフードを被った魔神族と思われるものがボソボソとフォルサイトに話しかける。だが聞き取ろうにもタケミ達には全く聞こえなかった。
「ええ、分かってますよ。そう怒らないでくださいよー」
どうやら怒られてるようだ。
「フォルサイトか……有名人が出てきたな」
「はぁ、止めるだけ無駄って感じだね。にしても、いくつかの本で伝承として読んだことあるけど、一目族が本当にいるなんて」
フォルサイトについてネラとユイは何か知っているようだ。
「タケミ殿は素手で闘われるのでしたね。では私も素手で闘いましょうか?」
「気を使わねぇでくれよ。ちゃんとしたフォルサイトと闘いたい」
それを聞いて微笑むフォルサイト。
「なるほど、ソウトゥースが気に入りそうなセリフですね」
フォルサイトはそう言うと、手元から光の粒子を発生させた。
光の粒子が収束し、彼女の身の丈と同じ長さの棍棒が出現。
「それでは始めましょうか……」
「ああ!」
タケミが跳び込み、右拳を突き出す。
これは当たらず。フォルサイトは避けた後に棍棒を振った。
辛うじて回避する事が出来たタケミ。
空振りした棍棒により周囲に突風が巻き起こる。
(なんて威力だ!)
相手の攻撃の威力に興奮しながらもタケミは攻撃を次々と繰り出した。
しかし、いずれの攻撃は一発も当たらなかった。
「さあ、どんどん行きますよ!」
相手は棍棒を軽々と振り回す。
その内の一撃がタケミを捉える。
タケミは大きく後ろに押し出された。
「っつー!腕が折れたかと思ったぜ。魔神ってのはとんでもねぇ奴ばっかだな!」
そう言って反撃するタケミ、しかし当たらない。
どういう訳かこちらが拳を繰り出す瞬間にフォルサイトはその軌道から離れるように動いて見えた。
「ねぇ、いくら何でもあんなに避けられるものなのかな?」
ユイはネラに聞く。
「確かにいくらなんでもよけすぎだ。噂通り、あいつにはあの能力が……」
ネラはその間もずっと自分の腰にある鎌の柄に手を添えていた。いつでも攻撃に参加できるように。
大領主バアル・ゼブル配下のフォルサイト、その実力は未だ底知れない。
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