第14話 まだ見ぬ世界、まだ見ぬ挑戦へ
「コロッサルブラスト・スピアッッ!!」
街を吹き飛ばす勢いの爆発と共に両手を突き放つ百節のソウトゥース。
この渾身の一撃をタケミは避けるでも、防ぐでもなく
「勝負だァァッ!!!」
迎え撃つ事を選んだ、いや、彼の中にはそもそも選択肢など無かったのだろう。
相手の全力に自分の全てをぶつける、彼にとってこの行動は至極当然のことなのだ。
両者全身全霊の一撃が激突。
耳を思わず塞いでしまう程の衝突音、周囲に飛び散る互いの赤と青の血。
「ッ!!」
思わず目を閉じてしまうユイ。
彼女は恐る恐ると目を開ける。
視界に飛び込んで来た光景に息を飲んだ。
「……タ、タケミッ!?」
タケミが突き出した右拳がパックリと裂けていた。
「はぁ、はぁ、なんとかなったな……」
既に赤鬼を解除して、大きく荒れた息遣いのタケミ。
もう何故立っていられるかも分からない、そんな状態のタケミはなんとか倒れないよう。薄れる意識を無理やりにでも叩き起こしていた。
「ハハハ……すげぇな」
彼と対峙していたソウトゥース。
その槍のような両腕は崩れ落ち、ダメージが全身に及んでいる事を示すように彼の身体中に大きなヒビが入っていた。
「お前の勝ちだ。オレを討ち取ってくれたな、見事……だったぜ」
ソウトゥースも体がボロボロと崩れ、両足もギリギリ胴体から地面に繋がっているような状態でも倒れずに立っていた。
「……こんな最高の闘いで最後を迎えられるなんてよ。オレは最高に幸せだぜ」
彼の顔は何者よりも満たされた顔をしていた。
すると彼の身体のヒビから青い炎が噴き出す。
「おれも……楽しかったぜ、ありがとうな」
「タケミ……お前はもっと強くなる、きっとあの人たちとも最高の闘いが出来るように……最後まで楽しむんだぜ……」
この言葉を最後にソウトゥースの身体は炎に包まれ、煙となって空へと昇る。
百節のソウトゥースを最後まで見届けたタケミはそのままその場に倒れた。
倒れたまま、彼はその右拳を突き上げたままだった。
「本当に!無茶するにも程があるよ!!」
戦闘が終わり、ユキチカに応急処置をするユイ。
血を流し過ぎたのか、座り込んで動かないタケミ。
「え?ああ、ありがとな」
「まあ私の治療よりも殆どタケミの回復力だけど。凄い体してるね、あれだけの出血してて生きてるのもありえないし」
ユイは魔法でタケミの傷口をふさいでいく。
「全く、この街でいきなり魔神にぶち当たるなんてな」
頭をかきながら、ネラが近寄って来る。
「だがまぁ、結果は勝てたしな」
横になるタケミを見下ろすネラ。
「おい!あんたら!」
すると、何ものかがタケミ達に声をかける。
「ん?ああ、キングとクイーンじゃねぇか」
ネラが顔を上げてそう言った。
「まさか、本当にアイツを倒しちまうなんてな」
「まあ、見ての通りギリギリだったけどな」
「でも勝てたじゃないか。私たちはアイツにやられて、結局こんな街に閉じ込められ。それで女神にも見放された、私たちははぐれなんだ」
キングとクイーンはタケミ達にそう言った。
「はぐれ?」
「勇者っていうのはどいつも女神と魔力の繋がりが出来ているんだ。そっから魔力が供給される事で肉体の修復してるんだ。それで二人が言う【はぐれ】ってのはその魔力の繋がりを断たれた者の事を言うんだ」
ネラが説明する。
「俺たちの肉体は魔力で構築されている。魔力を自分で精製するための魔力核っていうのも一応あるんだ。だけど女神からの魔力が無いときに比べたら力は落ちるし、力を使い過ぎたらこの体を構築している素が無くなるから俺たちはこの世界に存在する事はできなくなる」
「え!そうなのか!?でもお前ら力使ってたんじゃねぇか!!」
「ああ、あの闘技場にしか私達の場所しか無いからな。だからあんな手でも、たとえ自分の寿命を縮めようとも力を使うしかないんだ」
クィーンはそう声を落として言う。
「だけどそれも今日で終わりだ」
彼女の肩を叩いてキングはそう言った。
「お前らこれからどうすんだ?」
タケミがきく。
「どうせ外にいった所でな。俺じつはこの世界に来る前にギャンブラーだったんだ、海外の番組とかにも出て活躍してたんだぜ。だからそうだなぁ、この街にはなんだかんだ思入れがあるからな。ここでもう少し色々と賭けの種類でも増やしてみるか」
「そっか、お前らもやりたい事見つけたのか!良かったな」
「頂きまーーーす!」
「頂きます!」
タケミとユイが酒場で大皿にのった料理を片っ端から取ってかきこんでいく。
「そんな大怪我でよくもまあ、かきこめるな。もっと落ち着いて食えよ、塞いだ傷口から腸飛び出るぞ。というかユイもその見てくれで良く食うよなぁ」
二人を見てネラが注意した。
「この街にいると魔力が安定しないの、だからスゴイお腹減るんだよね」
「まあそのせいでソウトゥース戦だとあんまり魔法使えなかったな」
「うッ……」
ユイは勢い良かった手の動きを弱め、静かに食事を口に運んで咀嚼する。
「そうなのか?普通に使ってたじゃねぇかあの雷の剣」
「あれは比較的簡単な魔法、私が本来得意なのはもっと大規模な魔法なの」
「へぇ~そんなもんなのか」
「お前らそんなに食うならもう次の街まで食料要らねぇんじゃ……」
「いや!」
「むり!」
ユイとタケミが食い気味に否定する。
二人の食い意地はかなり近いものがあるみたいだ。
一方その頃、商人のダイゲンはタケミ達に渡す為の荷物と他にもなにやら荷物をまとめていた。
「ん?おや、今日は来る人が多いねぇ。それも勇者様じゃねぇですかい」
「おい!ジジィッ!!ここにある魔石を全部寄こせ!あいつらから貰った魔石があるだろ!」
武器を携えた3人が現れた。
「なんだい、随分と怖いねぇ。面食らっちまうぜ、まあ面見えねぇんだけどよ」
「はぁ!?なにわけわからねぇ事言ってんじゃねぇぞ!」
「さっさと魔石出せ!」
相手は武器を抜いて構えた。
「なんだい、太客の次は強盗かい」
そう言ってダイゲンは杖をつきながらその集団に近づく。
「それじゃあ……斬っちまうかねぇ、先に剣向けたのはあんたらだぜ」
いつの間にかダイゲンは刀を手に持っていた。
それは杖に仕込まれていた真っすぐで黒い刀身の刀。
「へ……?」
相手の鎧が真っ二つに割れて地面に落ちた。
「な、なんだこのジジィ!」
「く、クソ!覚えてろ!行くぞ!」
「ま、待ってくれよ!」
3人は慌ててその場を去って行く。
「まったく、魔神様が出たら縮み上がって片隅で震えてた癖によぉ」
ダイゲンは後ろに振り向き、刀を杖戻し始める。
「はぁ、はぁ、はぁ!」
「くそあのジジィ、次は有無も言わさずやっちまおう」
「そうだな、なんなら夜に忍び込んで寝首かいてやるか」
三人は呑気にもそんな話をしながら走っていた。
「そういえば変な事言ってたなぁ。覚えてろって。妙だねぇ、その言葉は明日ある者が言うもんだ」
刀は短い金属音と共に杖にしまわれる。
「あれ……?」
「え、おまえ、体、が」
「お、まえ、も」
勇者達の身体はバラバラになり、鈍い水音をたててその場に散らばる。
「さぁて、この店もそろそろ閉じねぇとな。次はどこに行こうかねぇ」
ダイゲンがそう言って杖を二度地面を叩く、部屋を照らしてたロウソクの炎の部分だけが斬れ部屋が暗闇に包まれた。
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