第13話 闘いとは格別な時間


「ブラストスピアッ!!」

ソウトゥースがそう言い放つと同時に彼の腕を包んでいた黒い煙が大爆発を起こす。


「ッ!!タケミィッ!!」

そして次の瞬間タケミは血を吐いて宙を舞っていた。


「なんだよ今の攻撃……」

「全然見えなかった、何が起きたの!?」

ネラとユイが後ろを振り向く。


突きの軌道上にあったものは、岩だろうが家屋だろうが関係なく大穴が開いていた。


宙に飛ばされたタケミは意識を取り戻し空中で体勢を立て直し、地面に着地。


「あっぶねぇ」

タケミの身体には胸部の左から右にかけて横一線の大きな傷が付いていた。


「さすがだぜ、ちゃんと反応したな。でなきゃ今頃体のど真ん中に風穴だったぜ」


「自分の腕を爆破して攻撃を加速ってか?まったくスゲェ事考えるな、腕は大丈夫なのか?」

身体についた傷を撫でながら相手の腕をみるタケミ。


「ああ、まあ無事じゃねぇさ。オレが出来る唯一の魔法、それがこの強烈な爆発を生み出す砂、【ブラストサンド】を生み出す魔法だ。その爆発は自慢の身体すら完全に耐える事は出来ねぇ。だからあまり使わねぇように言われてるんだ」

ソウトゥースの腕の外殻はひび割れていた。


「だけど赤くなったお前にはオレの外殻は意味がねぇみたいだしな。こんなでけぇヒビが入ったのは久しぶりだぜ。だからオレが出来る一番の技を使う事にした。この技は女神だってぶっ貫いてやったんだぜ?」


「へぇ~女神ってのがいるのか。死神に女神色々いるんだな」


「まあアイツらは真っ二つにしてもすぐにくっついて再生しちまうから倒せなかったがな。でも女神はやめとけ、アイツら強いのもいるがなんつーか気持ちわりぃ連中でよー。そんなのよりもオレとこの人達の方がずっと強いしいい奴らばっかだぜ!」


腕を戻し、胸を張ってそう自身満々に話すソウトゥース。

彼はよっぽど仲間の事が好きなようだ。


「みんなオレと闘ってくれるからなぁ。全力をぶつけてもへっちゃらな、すげぇ人達さ!」


ソウトゥースよりも更に上の存在がいるという話、彼の口ぶりを見るにそれも相当の実力差がある事が伝わる。


「アイツよりもずっと強いって……そんな」

ユイが顔を引きつらせた。


(バアル・ゼブル、配下含め魔神軍トップの実力を持つ。だからこそ、こことはさっさと潰しておかねぇと……)


ネラの武器を握る手に力が入る。


「まじかよ!こんな強いお前よりももっと強い奴がいるのかよ!!」

タケミは驚きつつも何故か無性に嬉しくなり、声にその感情が出てしまう。


「ハハハッ!!すげぇ嬉しそうな顔してんじゃねぇか!おい!今はオレと闘ってんだろぉ!もう次の闘いの事考えてんじゃねぇよぉ!!」


ソウトゥースも嬉しそうな顔をしてそう言った。



「さぁ、そろそろ続きやろうぜ」

「そうだな。お互いもう奥の手はねぇ、全力の闘いだ」


最初に仕掛けたのはタケミ、体から立ち上がる蒸気が一層多くなる。


(今の会話の間にこの状態にだいぶ慣れてきた!更に出力上げていくか!)


「さっきよりもまた一段と早くなったな!成長が止まらねぇなッ!」

爆発と共に突きを放ち、タケミを迎撃しようとするソウトゥース。


爆発により加速させられた突きを避けるタケミ。

しかし連続で放たれる全ての攻撃を見切れている訳ではない。


攻撃の一つが腹部を捉えた。


タケミは刺さったタイミングで腹筋に力を加え、両手で相手の腕を掴んだ。これにより間一髪、貫通される事を防いだ。


「おー!ギリセーフ!」

しかし、傷口からは血が噴き出す。


「デス・ファングッ!!」

「フルグル・グラディウスッ!!」

ネラとユイが攻撃を放って援護する。


「おっと!アブねぇ」

ソウトゥースは瞬時に腕を縮める。



「ふー、ふぅ、結構しんどいな」


「おい!大丈夫かよ、って出血やばくないか?!」

「早く助けないと!」


ネラとユイがタケミに駆け寄る。

タケミの傷口から出血が、それも先ほどまで塞がっていたはずの部分までも。


「早くその傷何とかしないと!治療はそこまで得意じゃないけど止血ぐらいならできるから」


タケミの傷口から血が止まらずに流れ出ている。


「いや、この状態は心臓をいつも以上に動かして血の流れを加速させてるんだ。一時的に塞いでも、動いたら傷口が血流量に耐えられずに開いちまう」


「じゃあその状態やめないと!何してんの!」


ユイがタケミの前に出て彼の傷口を防ごうとする、しかしタケミは彼女の腕の上に自分の手を置く。


「なぁ、二人とも。この闘い、おれに任せてくれねぇか?」


「え……?」

「何言ってんだタケミ!そんな事……!」


「頼む、アイツに挑んでみてぇんだ」

タケミはそう言ってユイを避けてソウトゥースの方に進む。


「ハハハハハ!大丈夫かタケミ?腹から血出て、ハラワタが飛び出ちまうぜ?」

「なに、そん時はすぐに腹ん中に押し戻すさ」


この時タケミの身体から上がる蒸気は汗が蒸発した白い半透明なものではなく、濃く赤いものに変わっていた。


「ね、ねえ!ネラ!タケミ行っちゃったよ!良いの?!」

「……今回だけだ、本当にヤバくなったら私が何とかする」

「何とかするって……」

ユイとネラはタケミの真っすぐな気持ちを折り曲げさせる事かなわず、もどかしい気持ちで彼の背中を眺めるだけだった。



タケミは当然ながら、ソウトゥースも無事という訳ではない。タケミから受けたダメージに自身のブラストスピアによるダメージ、彼もまた体の至る所から青い血を流していた。


ソウトゥースの前でタケミが立ち止まる。


「そうだ、この赤くなる状態、何か名前つけようかな。ネラやユイも必殺技の名前つけてるし、ソウトゥースのブラストスピアも良いよなぁ」


突然そんな事を言いだすタケミ、後ろでネラとユイがこけそうになる。


「おー!そうだな、せっかくだしな!うーん、赤い、そうだ!昔バアル様が本を読んでくれたのにそんなのが出て来たぞ!赤い鬼だ!そいつも相当強いって言われてたな!オレはまだ会ったことねぇけど、きっとお前みたいな感じだぜ!」


だがソウトゥースはノリノリだ。


「赤い鬼……赤鬼……良いな!それにしよう!よし!この状態は【赤鬼】だ!」


手を叩いて自身の新しい技に命名するタケミ。


「いいねぇ!【赤鬼】か!カッコイイじゃねぇか!」


ソウトゥースも手を叩いてタケミの新技命名を喜んだ。


当然この間もタケミの腸は飛び出そうだし、ソウトゥースだって血まみれだ。


恐らくこの二人にとってこの闘いは格別な時間なのだろう、だからこそ心から愉しむ。その為には仲間に手出しをしないよう伝えるのも、満身創痍の状態で名前を考えるのも当然な行動なのかもしれない。


傍から見れば能天気というか、逸したこの行動も二人は共に楽しんでいるのだ。


「さぁ、そろそろ最後だな」

「それじゃあ再開だッ!!」


直後二人の攻撃が激しくぶつかる。


タケミは拳を繰り出す。

ソウトゥースは爆発と共に突きを放つ。


ソウトゥースは突きを放つ際、そして腕を戻す際に爆発を起こし腕を高速で引き戻す事で次の攻撃までの感覚を短縮していた。当然その分腕へのダメージは蓄積されていく。


(ハハハッ!流石にブラストサンドを使い過ぎたか?もう殆ど腕の感覚がねえ)


当然この時のタケミも尋常ではないダメージを負っていた。


(この赤鬼、攻撃の回転速度が上がるけど、まだおれの身体が追い付けてねぇッ!一撃うつ度に体がねじ切れそうだ!)


(だがそれでも今はこれがおれの全部だ!ぶつけてくしかねぇッ!!)


激痛が全身を襲うがそんなもの構っている暇はない、と言わんばかりに攻撃を繰り出すタケミ。


すると互いの攻撃が直撃し、両者距離が離れる。


「ぐぅッ!最高だタケミィィッ!!オレを討ち取ってみろおおおッ!!」

「やってやるぜッッ!!」


ソウトゥースは両手を構える。

両手には黒々とした粉が一層濃く纏わされている。


「コロッサルブラスト・スピアッッ!!」


その爆風だけで街ごと吹き飛ばされてしまいそうな程の大爆発、その爆炎を切り裂いて射出される彼の全身全霊の突き。


タケミはその突きを避けるでもなく、防ぐわけでもなかった。


「勝負だァァッ!!!」


これに対し、タケミは右拳を突き出した。


黒煙を纏う突きと赤煙を放つ拳が衝突する。

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