第15話 動き始める者達


タケミとソウトゥースの戦闘があったその日の夕暮れ時。


日が落ち始め、淡い光が照らす廊下を進む一人の者が。


その者は角を生やし一つの大きな目玉をその顔に持っていた。


「バアル様、お伝えしたいことが」

大きな部屋の扉を優しくノックした。


声からして女性のようだ。


「いいぞ入……」

彼女は部屋の中の者が許可の言葉を言い終える前に扉を開けた。


「こらこら、物事には形式や順序というものがあるといつも言ってるだろう。せめて私の声が聞こえて一拍開けてから入るものだ。分かっているからと言っても形式は大事だ」


バアルと呼ばれる者は大きな部屋に見合うデスク、そしてイスに座っていた。そのデスクの上にはいくつかの書物と綺麗な羽のついたペンが一つ置いてあった。


「申し訳ありません。以後はちゃんと貴方様の声を聞き終えてから扉を開けますね」


「この私の声だぞ。まあ優れた能力故の行動だから致し方無いこともある、だが他処に赴いた際に相手に無礼な行動はとらぬように気を付けねばならない。魔神王様の名に泥をぬってしまうからな」


バアルは相手の謝罪を受けて頷きそう言った。


「で、報告だったな。少し話が脱線したが、よろしく頼む」


「はい、わが軍の第二部隊隊長、百節のソウトゥース殿が先ほど戦死したとの情報が入りました」

一つ目の者が大領主というものにそう伝える。


「奴の魔力が先ほどより感じられなくなったな。一体誰だ?そんじょそこらの女神や勇者相手ではあるまい」


バアルがそう聞くと一つ目の者は返答をした。


「それが勇者と思われる者と戦闘の末敗れたとのことです」


「勇者と思われる?」

「ええ、共にいたのはあの”死神”です」


それを聞いたバアルは目を細める。


「ほお、死神か」

「本来は死ぬはずのない女神達を狙い、狩り続けている死神……」


するとバアルは小さく笑う。


「まあ、その件にはじきに手をつける事になる」


大領主はそう言うとテーブルの上にあった瓶をとり二つのグラスにその中身を注ぐ。


「最近では女神と勇者たちの活動も活発になっている、近いうちに大きな衝突があるだろう、それをソウトゥースの奴は楽しみにしていたが。そうか、それよりも先に闘いで死んだか……」

大領主はグラスの一つを手に取った。


「その相手は素手だったそうですね。あのソウトゥース殿に素手で闘えるものがいるとは……なんて素敵な話しなのでしょう」


「奴は常々言っていた、自分の最後はとびっきり闘いをして終えたいと。きっと満足して死んだだろうな、ふふっアイツが笑顔で最後を迎えたのが容易に想像できるな。ならば祝わねばな、そうだろ?」


そう言われた一つ目の者はグラスを受け取る。


「百節のソウトゥース、栄光に満ちた生涯とその最後を祝して、乾杯」


そう言うとバアルはグラスを口にあて、傾け中身を飲み干した。


「ええ、乾杯」

一つ目の者も大領主に続きグラスを傾けた。


「ようやく動き出したか、死神よ」

と大領主はつぶやいた。




タケミ達が目指す次の街の名は【オスティウム】。

そこでは多くの商いが行われており、多くの人々が方々から訪れ様々な商品を売買していた。


そんな活気あふれる街に多くの勇者達が訪れていた。


「なあ、最近また勇者が増えてねぇか?」

「そう言えば昨日またどっと街に来たな。あの人たちがいると傭兵稼業の俺たちの仕事が取られるんじゃないかってひやひやするぜ」

「まあ客が増えてこの街が潤えば、おれらもそのおこぼれにあやかれるってもんだ」


街の広場の酒場で酒を飲みながらそんな話をする者達。


「なんか、この前魔神が出たんだってよ、それも百節のソウトゥースが」

「え?!あいつが?どこに」


街中をほろ酔いで歩く二人の青年、立派な鎧や武器などを携えた勇者達だ。


「ほら、あの流れ者が集まる吹き溜まりの街だよ」

「ああー、あの流浪の街か。あんな所に?なんもねぇだろ、うちの貪欲女神でもあそこは手を出さないぜ、不潔極まりないって」


酒を片手に二人は歩く。


「いや、それがよ。あそこでどうやら魔神に破れた【はぐれ】が闘技場まがいの場所で戦わされてるんだってよ~」

「なんだそれ、あわれだねぇー。まあ確かに魔神の強さはとんでもねぇけどさぁ。それあれじゃねぇか、奴隷が闘技場で戦わされるみたいな、歴史の授業で聞いたことあるぜ」


話始めた男が声のトーンを少し落とす。


「でもその魔神が倒されたらしいぜ」

「ソウトゥースが倒された!?だってアイツ勇者を100人以上は殺したって話じゃねか。それに女神だってアイツに散々手を焼いてるって」


「ああ、でも一緒に行動してる魔法使いがさ、魔人の魔力が消失したっていうんだよ。あいつ魔力探知にたけてるからさ間違いないと思うんだよな」

「だからかー、いきなりこの街にかき集められたの。もしかしてソウトゥース倒した化け物と戦う事になるのかな」


男達はそう言うとなぜかいきなり上機嫌になる。


「だけど大丈夫だよな!」

「ああ!これだけの実力者を揃えて敵わねぇものなんていねぇさ!!よーし景気づけにもう一軒いくぞ!!」



そんな喧騒満ちる街を見下ろす1人の女性がいた。


「全く、あなたの勇者達は随分と呑気なのですね。少し精神操作をし過ぎでは?」


白く美しいドレスを着た女性は街を一望できるベランダでそう口にする。


「ビビッて仕事を放棄されたら嫌じゃない。まあ、例え連中の頭がおかしくなっても替えなんて幾らでもいるし」


彼女の後ろでは嫌味な程豪華なイスに座った女性がいた。


「【はぐれ】を生み出すようなあなたが用意できる”替え”なんて如何程に信用できるかは疑問ですが……まあ私からみても貴女がちゃんと私達から言い伝えられた任を全うしてくれればそれで良いとしますが」


白いドレスの女性はそう言った。


彼女も女神なのだろう、その話しぶりからして豪華なイスに座っている派手な女神よりも上の立場という事が伺える。


「くっ、わざわざそんな嫌味を言う為にここに来たのですか?グリーディ”様”」


「いえ、今回少しばかり報告がありましてね。あの魔神軍の1人ソウトゥースが倒された事は知っていますか?」


グリーディと言う白いドレスの女神は相手の嫌味満々な態度も気にせずに話す。


「聞いてますよ。それが何か」


「倒した者の中に死神がいたそうです。どうやらその死神の部下が今回のソウトゥース討伐を行った者のようです」


グリーディの話を聞いて目を見開く女神。


「死神……」


「彼女たちが次に来るのはこの街でしょう。なぜか偶然にもあなたは方々に散らばらせた勇者達を招集していますね。丁度良い、ここでその死神を討ち取ってください」


そう言ってグリーディは女神の耳元まで顔を寄せる。


「そうすればあなたが魔石を我々に申告せずに隠し持っているのは不問にして差し上げます。せいぜいそのため込んだ魔石と勇者様達でこの状況を乗り切ってみせてくださいね。もし逃げるような事をしたら……分かってますね」


この事を伝えるとグリーディは小さく笑い後ろに下がる。


「それでは、次合う時は良い報告が聞けるのを楽しみにしていますよ」

彼女はそう言い残し、光と共に姿を消した。


「……クソッ!!あいつ、私を馬鹿にしやがってッ!!死神、絶対この街で殺してやるッ!そして私は更に上へと昇るんだッ!!」


女神が憎悪や野望に満ちたその眼を街に向ける。


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