第8話 一稼ぎいこうぜ!


はじめての街、そこでこれからの旅に備えた準備をする事になったのだが。


連れてこられたのは地下闘技場だった。


「稼ぐってギャンブルかよ」

「堕落の極みね」

「誰が落伍者界の底辺だッ!!ちげぇよ、ギャンブルじゃあねえよ。確実に稼げるいい方法があるんだ」


ニヤついた顔でネラは話す。


「トーナメントがあってな、それに参加して優勝景品と賭けの儲けそうどりよ!更に男女でトーナメントが分かれてるから、2重どり!どうだ?!」


ネラはここでの稼ぎ方を説明した。


「どうだって、それ私も参加するの?」

「いや、それだと両方が決勝前でぶつかるし、わざとらしさが出るからな。私が出る。その代わりなんかあった時に備えて控えておいてくれ」

ネラはユイに待機しておいてもらうよう頼んだ。


「じゃあ私は何か食べて待ってるよー、すいませーん注文良いですか」

ユイはてきとうに見つけた席に座る。



受付に向かうネラ。

「おう!ネラじゃねえか、誰に賭けるんだ?今日はキングとクイーンが出るんだ、優勝はその二人に確定だから皆準優勝は誰かって予想で盛り上がってるぜ」


「いや、私とこいつに賭ける」

ネラはそう言って自分と後ろにいるタケミに指を差す。


「ほぉお前が出るのか!そいつぁ面白れぇ!」

受付の男はそう言ってネラから袋を受け取った。


「よく来るんだな」

周りの人間がネラに接する様子をみるとかなり彼女はここに馴染んでいるようにタケミは思った。


「まあ時折な、この街で娯楽つったらここで賭けるか酒場で酒飲むかしかねぇからな。ここの連中は色んな所から流れてきたから情報も結構集まるんだ」


「とか言って、本当はただ賭け事楽しんでるだけじゃねえのか?」

タケミにそう言われるとネラは鼻をならす。


「ふん!失礼な。ここには週6しか来てねぇよ」

「中毒者め、残りの1日は何してんだ」

「勝った分、酒場で使って一日中飲んでる。おい、なんだその目は?人をクズをみるような目で見るんじゃありません」


そんなクズのネラとタケミはトーナメントに出場登録をした。


しばらくすると出場者の登録が締め切られ、いよいよ開始の時間を迎える。


『さあ!!始まりましたキング&クイーントーナメント!!』

場を盛り上げる為に男が声を張る。どうやら実況をする役のようだ。


『果たして新たな王と女王は誕生するのでしょうかッ!!』

ツギハギスーツの男はそう言ってステッキをマイク代わりにして話す。

男の煽りによって観客は怒号とも言えるような歓声を上げる。集まった観客でごった返す地下闘技場は熱気に包まれていた。



『さあ、では早速参りましょう!!キングトーナメント!第一回戦ッッ!!』

金網で囲われた闘技場が眩しく照らされる。


『青―コーナーッ!!本トーナメント初参戦、カヅチ・タケミッ!!実力は未知数だがその巨体刻まれた無数の傷が生み出すインパクトは絶大!』

青いペンキで雑に塗られた金網側からタケミがリングに上がる。


『赤―コーナーッ!!その鍛え上げられた鋼の手で数多の相手を貫いてきた男ッ!!現キングが現れる以前はトーナメント優勝回数最多を誇っていたレジェンド!!今回でキングの座を奪還する事が出来るのかッ!!マスターランスの登場だッ!!』

赤いペンキで塗られたサイドからは拳法家の格好をした男が入場してきた。


突きを放つパフォーマンスで観客を沸かせる。


『では闘技開始ッ!!!』

実況がゴングを鳴らす。


「よろしく、おじさん強そうだな」

タケミは構えた。


(無骨ながらも力強い構え、それにこの威圧感。ただものではないなこの男、油断せずに行くか)

相手の男は先手をうってきた。


「ハッッ!!」

いきなり相手は全力で突きをタケミのみぞおち目掛けて放つ。


指を伸ばした状態で放つ突き、空手でいう所の貫手と言われる技である。


「直撃だッ!!」

「終わっちまったか?!」

観客はそう声を上げる。


しかし、クリーンヒットした際に相手の脳内はパニックを起こしていた。


(なんだ?俺は人に向けて突きを放った筈だ。それも急所を突いた筈だ。それなのに……なぜ、鉄の塊に向かって突きを放ったような感覚が?!)


彼が自分の放った手に目を向ける。

するとその手先にあった指が折れ曲がっている事に気付く。


「っ!!?ぐッ!!」


「そんじゃあ次はおれから」

タケミは左手で相手を横から殴った。


「ぼはっ!!」

相手は回転しながら金網に激突し、白目をむいて気絶する。


『け、け、決着ぅぅぅぅッ!!勝者、カヅチ・ユキチカッ!!これは最初から大番狂わせだッ!!』

実況がゴングを何度も鳴らす、会場がどよめく。


「指を伸ばしたまま突きか、なるほどなぁ。でも鍛えないと突き指しそう」

指先を伸ばした手で自分の胸を突くタケミ。


「つよっ、もぐもぐ」

鶏の丸焼きをフォークとナイフで頬張りながら、ユイはタケミの圧倒的なフィジカルに関心していた。



『さあ、お次はクイーントーナメントの第一回戦ッ!!』


『青コーナーッ!!ネラッ!!この地下闘技場にはよく現れていましたが、参戦は今回が初!果たしてその実力は如何に?!』

次はネラの番だ、リングに上がって軽くその場で跳んでステップを踏む。


『そして赤コーナーッ!!こちらは地下闘技の常連!その実直な戦い方が観客を沸かせるッ!頭の傷は戦士の証!!ワイルドホッグの登場だッ!!』

額にいくつもの傷を持った女がリングに上がった。


『ではぁ!闘技開始ッ!!』


ゴングがなってもネラは観客に向かって手を振っていた。

「いえーい」


「こんの!よそみしてんじゃねぇッ!!」

ワイルドホッグが上体を大きく前に倒した状態で駆け出す。


『おおっ!!!出たッ!!ワイルドホッグの突進だッ!!!』


勢いよく彼女はネラの背中目掛け突撃。


「ふんっ、そんなもんか」

「え?」

背を向けたままネラはそう言い放つ。


するとネラは即座に振り向き、鋭い回し蹴りを突っ込んで来たワイルドホッグのこめかみに打ち込んだ。


そのまま相手は大きな音をたて、地面に叩きつけられる。


『な、なんという蹴りッ!!まるで死神の鎌のような蹴りが炸裂ッ!!ワイルドホッグ選手地面に倒れたまま動きません!!勝者ネラッ!!こちらも大波乱の予感だァァッ!!!』

ゴングを勢いよく鳴らす実況。


「よーし、一勝ッ!」

ガッツポーズをとるネラ。


路銀に向けて快調なスタートを切る2人だった。

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