第7話 はじめてのまち


山修行の最終試験を終えておれは山を降りた。


山の麓に近づくと高さ20mくらいの巨大な壁が見えてきた。

どうやら街から見て山側だけに建造されたものみたいだ。


(外国のお城にこんなのあったよな?あれは街全体を覆う形だったと思うけど)


この世界に来て初めてみるまともな人工的な建造物。

今自分が歩いている道もその壁に向かって伸びている。


近づくと壁には無数の損傷があり、それをテキトーに板を合わせたりして補強している箇所がいくつもあった。

(古いのかな?)


壁にそって歩く、これだけボロボロの割にどこかに穴が開いている訳ではない。壁の向こう側に入れる門を探す。


(これくらいの高さなら跳び越えられると思うけど、まあ門から入った方が良いよな。関所とかあるかもしれんし)


「おい!お前さんどこか来たんだ?」


門をくぐると高齢の男に声をかけられた。

ボロボロな服を着ていた、物乞いかな?


「ごめん、あげられる物ないんだ」


「毛皮腰巻きオンリーな奴に、物乞いなんてするかッ!」

ん、確かに言われてみれば今のおれの方がみすぼらしい恰好かも。

慣れってすごい。


「お前さんもしかしてあの山から来たのか?」

「そうだけど?」

そういうとその男は目を見開く。


「そうだけどってお前さん凄いな。あんな恐ろしい山をよく通ってこれたもんだ」

「通るってか、まあ暮らしてたな」


男はまた驚いた表情になる。


「く、くらす?!あの呪われた山で?!お前さん一体……」


「おー!!来たか!!」

男の後ろの方から今度は聞きなれた声がした。


死神のネラだ。


「よー!なんだ門番のおっさんと話してたのか。てかやっぱりその格好で来たのか。まあ服は後で探すか」

彼女はそう言っておれの目の前まで歩いて来た。


「なんだ、この兄ちゃんネラの知り合いか」

「まあな」


「ネラ」

そう言っておれは右手を差し出す。


「え?なんだよ握手なんて、改めてよろしくってか?」

彼女はそういって同様に右手を出して握手をする。


「これからよろしくな、タケミ!」

「ああ、よろしく。でもその前に……」

彼女の手をしっかりと握った。


「えっ、ちょっと、いててて!ま、まてっ!!」

おれの左拳が彼女の顔面を捉える。


「ブガァアアアッ!!?」

吹き飛ぶネラ。


「ふんっ!色々と言いたい事があったがこの一発で勘弁してやる」


「グッ、出会って秒でぶん殴るとは……かわいい照れ隠しじゃないの」

ふらつきながら立ち上がるネラ。


「で、これからどうするんだ」

「切り替えはや!まあいいや、ついてこい」

そう言って歩き出す彼女について街の中へ向かう。


「……なんだっただ、アイツら」



「この世界の街はどこもこうなのか?」

周囲を見渡しておれはネラに聞いた。

家屋は修繕はされているものの明らかにボロ屋ばかりだ。


道を歩く人々も普通の人ってよりは訳ありそうな人ばかり。


「まあそうビビんな、ここは流れ者が行きつく街だ。街の機能は殆どねぇけど、商売は行われてるしメシも食える」


歩いてると1人の女性が話しかけてきた。


「よおネラ!どうだ?今日のはとびっきりの上物だぜ?最高にぶっ飛べるぞ。後ろの兄ちゃんはどうだい?」


「何度言えば分かるんだよ、私はそういうの効かないの。コイツもこれから大事な仕事があるんだ頭お花畑にされたら困るんだよ」


その女性はパイプタバコのようなものを吸って溶けたような顔で去るおれ達の姿をみていた。


「あれが、商売か?」

「ま、色々あるからなぁ。特にここじゃあ危ないもん管理する奴もいねぇし。あいつあれでも医者でここじゃあ一番稼いでるんだぜ?まあその稼ぎの殆ど大好きなお薬に使って、脳みそは溶けきってるけど」


タフな街だな。


「で、これから旅の支度でもするのか?ネラの手紙には下山ぶんの食糧と水だけあればいいって書いてあったから、それしか持ってねぇぞ」


「支度は勿論する、がその前に待たせてる奴がいるからそいつに会ってからだな」



ネラについて行くと建物の前で止まった。

「この街唯一の酒場だ。ここで待ってもらってる筈なんだが……」


「おい!ネェちゃん、ちょっと俺と遊ぼうれ~?へへへ、まあ逆らっても遊んでもらうがなあ」


店内に入ると酷く酔っぱらった男性の話声が聞こえて来た。

男性はカウンターに座っているフードを被った女性に絡んでいるようだ。


「……」

「おい!無視してんじゃれぇ!大変な目に会いたくなけりゃあ……ッ!」

男性が女性の肩に手を伸ばす。


するとその時、彼が持っているジョッキの中身がふわふわと浮き始めた。


「ん?なんらぁ、これ?」


「な、なんだ!?酒が宙に浮いて」

周りでも同様に客全員の酒が浮いていた。


宙に浮いた酒は酔っ払い男の顔目掛け飛んでいく。


「ガボ!ガボババッ!」

あっという間にその者の顔をボール状に包んだ。


「早くそれ飲まないと窒息しちゃうんじゃない?全く大変な目に会っちゃったね」

相手の女性はそう言って振り向く。


「あ!ネラ!」

女性はフードを外してこちらに向かって手を振った。


「ははは!さっそく騒ぎかぁ、ユイ?」

「違うよ、この人が絡んで来ただけで……あ」

ユイと呼ばれる女性がこちらをみる。


彼女は毛先からオレンジ色そして赤色とまるで炎のような髪をしていた。


おれは彼女に挨拶をした。

「はじめまして、カヅチ・タケミだ、よろしくな」

「え、ああ、はい。初めまして、よろしく」


軽く会釈するユイ。


「それじゃあ早く行こう、この街調子があんまでなくて。マスターこれお代」

そして足早に酒場から出て行く。


「なんかおれ避けられてる?」

「え?ああ、まあ初対面なんだろ?ああいう態度になってもしょうがねぇだろ。というかその格好を見て引かれたんじゃねぇか。この街でもみねぇぞ」


他が理由な気もしたが、なるほどこれのせいか。



彼女に案内された先は異常な熱気が満ちた場所だった。


「行けーッ!!」

「おらおら!何ビビッてんだ!お前に賭けてんだぞッ!!」


その場にいる者達の視線の先には、金網に囲われた場所で殴り合いを繰りひげる者達がいた。


「はぁ……」

「ここで何すんだ?」


「ふふーん、時間は有限なんだ、短時間で稼げた方が良いと思ってな」


彼女が連れて来たのは薄暗い地下にある闘技場。

そこでおれ達は一稼ぎする事になった。

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