No.8 鬼丸ユキチカという男
路地裏でアンドロイド達に襲われたユキチカ達はジーナの助けもありそのもの達を撃退する。状況を整理するため、みんなはユキチカの家でケーキの前に座っていた。
「今日もありがと!」
ユキチカがニッコリと笑ってジーナに礼を言う。
「……あ、ああ、どう致しまして。にしても男子ってこんな大変なの?昨日は強盗で今日はアンドロイドに誘拐されそうになって」
彼女はチーズケーキをユキチカに貰ったようだ、しかし弱々しくフォークを持った手は止まっており一口も食べていない。
「確かに男性を狙ったテロリストもいるという話が海外ではありますからね。ですが流石にここまでの短期間ではないかと。今回は……ユキチカ様と私が警備を置いて外出してしまったのが良くなかった事なのですが」
「だよねぇ……ただの誘拐犯じゃなかったし」
二人は黙って下をみる。
「武装したアンドロイド。知らない間に私もその一部になっていましたが……本来は存在しない筈なのです」
ウルルが自分の指を見てそう言った。
ウルティメイト社の全製品の詳細なカタログが登録されている彼女のデータベースには、一切存在しない機能、【ビリビリショット】がその指先には備わっていた。
「改造したりするのは?」
ジーナがウルルの指先を同様に眺めて言う。
「非常に高度な技量とウルティメイト社のシステムに精通している者でないと難しいですね。私達に武器を取り付けるだけでなく、それを利用する為にプログラムに深く入り込んで内容を書き換えないとなりません。当然そのような不正アクセスを防ぐためのセキュリティもあります」
彼女の返答を聞いてうーんと唸るジーナ。
「それで行くとそれこそウルティメイト社がすごく怪しくならない?」
「そうですね……これ程の技術を持っている団体と考えれば最有力候補ですね」
ウルルは下を見る。
「あ!で、でも確定した訳じゃないし!ほら!警察の人もとりあえず第一発見者を第一容疑者にするみたいな!そんな感じだから、そんな気にしないで!」
分かりやすく落ち込んだ様子をみて必死にフォローするジーナ。
「まあ、それで言ったらウルルちゃんを勝手にいじったどっかの誰かさんもそれに当てはまるって事だし。というかそもそもの本人が……」
「ええ、私の事も色々とお聞きしたいですが。それよりも……」
二人はユキチカの方をみる。
「ウルルこれ食べて良い?」
「え?ええ、どうぞ召し上がってください」
どさくさに紛れてウルルからタルトを貰い、それを頬張るユキチカ。
その様子をじっと見つめる二人。
「ジーナも食べる?」
「これは、タルト美味しそうだな~私も欲しいな~って顔じゃなくて、色々と起き過ぎて情報に頭が追いついてない顔」
呆れた様子でジーナは言う。
「ぼくのカラダのこと?ウルルとおなじ!」
「ですが、いえ、それよりも、ああ聞きたいことが多すぎます!そもそも何故私はそのことに気付けなかったのですか?先程の方々もそうですし」
「んー、さっきの人たちはウルルが取得する情報をいじっててー。ぼくはこれ使ってるから」
ユキチカは彼の荷物の中から一つのチューブを取り出した。その中から半透明なジェルを取り出す。
「塗ると人のヒフになるの、それとぼくのカラダの情報を読み取られた時にフツーの人のカラダってことにしてくれる」
「最初から機械の体じゃなかったんでしょ?一応人だよね?」
「そうだよ!でも盗られちゃった、これも便利だけど前のも大事なんだー。だから探してるの」
タルトを嬉しそうに食べながら、ユキチカは答える。
さも当たり前かのように非現実的な内容を話す彼に戸惑いを隠せない二人。身体が盗まれた、嘘のような話だが彼の体を見るからに嘘ではない。
「盗られたって、今夜外出してたのも探してたの?」
「うん、それとケーキ!」
「ああ、はい、ケーキはごちそうさまでした。で、今後もそれを続けるの?」
「うん、続けるよ!」
ユキチカは頷いた。
「ユキチカ様……」
「大丈夫!」
不安な顔をするウルルを見て、ユキチカは彼女の肩に手を置く。
「畏まりました!元よりこの身はユキチカ様にお仕えする為に、最後までお支えさせて頂きます!!」
一呼吸してウルルは意思を示した。
「よーしじゃあもっとスゴイ機能つけよー!」
「それは今度から事前に教えてくださいね。それといつの間にこの機能つけたのですか?」
「それはねー」
再びウルルが自身の指先の話をする。
「……それ、私も手伝う」
そんなやり取りをしているウルルとユキチカを見て、ジーナはそう言った。
「え?!私を改造する事をですか?!」
「違う!カラダ探しの方!」
この事を聞いてユキチカは喜ぶ。
「いいの!?」
「ジーナ様?!」
「だってさあ……そんな話聞いて。あっそうですか頑張ってくださいって、部外者決め込むなんて事、私には無理!そもそも勝手に首突っ込んだの私だし」
ジーナは立ち上がって力強くそういった。
「やったー!よろしくね!」
「うん。あ、それと体が機械なのはみんなに内緒だからね」
「りょーかい!」
こうしてジーナはユキチカの身体探しを手伝う事となった。
「うっう、このケイ、ジーナ様を確実に安全にご自宅までお送り致しますっひっう」
「なんでこの警備の人泣いてるの?」
「あまり聞かないであげてください」
ジーナを自宅まで見送るということでケイ達が護衛につく。
どうやらまた自分の不甲斐なさに嘆いているようだ。
「ひっぐ、また、鬼丸ユキチカ様を危険な目に!」
(苦労してるんだろうなー)
ケイをみてそんなことを思うジーナ。
翌日の学校で、ユキチカとジーナはクラスメイトと話してた。
「昨日はウルルにケーキ買ってもらったんだー」
「えーいいねー!どんなケーキ食べたのー?」
昨日のケーキの話をしているようだ。
「あれ、袖すこしほつれてる」
「うそ!どっかに引っかけちゃったかな?」
ジーナが女子生徒がほつれに気付く。
「さいほーセットあるよ!」
ユキチカが腕を展開し、裁縫道具を取り出す。
「ッ!!!ばか!!」
咄嗟にジーナがそれを隠す。
「何してんの!!体が機械って事は隠すって話したでしょ!」
「あ、そうだった」
小声でユキチカにジーナがそう言う。
「今ユキチカ君の腕が……」
「手品!そう!手品なんだよね?!うわー器用だなー!」
(なるほど、これは気合い入れてやらないと)
その場をなんとか誤魔化しつつジーナはそう思った。
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