【004】夢占い

「夢占いを信じるか?」

 次の日、授業前の教室で天鈴と談笑していたら、彼がそう尋ねてきた。

「そう、自分が見た夢を元にして、自身の心理状態やこれから起こる出来事を予想するってやつ。やったことある?」

 彼とはクラスは違うが、選択授業が同じのため、授業前にこうして話す機会があるのだ。

「最近妹の高校で流行ってるんだって。そういうのは今まで一切触れてこなかったから僕は信じていないんだけどね」

「占いかあ。俺も特に信じたりはしてないかな」

 自分も最近知った話だが、天鈴には双子の妹がいるらしい。ただ、この詩藍高校に通っているという訳ではなく、彼女は女子校に通学しているとのことだ。

「でもまたなんで急に?」

「それが、百発百中の子がいるんだって。妹の親友らしいんだけど、抜き打ちテストの日と問題をピタリと当てたとか」

「そんなこともあるんだな」

 少し感心した一方で、なぜか違和感を覚えた。その正体を考えようとしたが、それは目の前の出来事によって簡単に阻まれた。

「セーフ……?」

 寝癖をつけたままの朝桐が教室に到着する。本来なら歓迎したい所だが、そう言ってもいられない。

「朝桐、物理選択者は上の教室だし、その手に持ってる教科書は化学だぞ」

 朝桐の顔が青ざめると同時に授業開始のチャイムが鳴る。

「やべえ!!」

 大急ぎで駆け出していく朝桐を見送る自分たちはお互い苦笑いだった。

 喜ばしいことに、あの一件以来疎遠になるということも無く、時折三人で集まって勉強会や遊びに行くような関係になった。今日も中間テスト間近ということで天鈴の家にお邪魔してテスト対策をすることとなっている。

「寝癖ついてるってことはさっきまで寝てたのかな」

「五限で眠くなる気持ちは分かるが、あいつテスト大丈夫かよ……」


「じゃあ先に行ってるね」

 学校も終わり、ひと足先に自宅に向かった天鈴を見送る。流石に手ぶらという訳にはいかないため、朝桐と割り勘でお菓子を買いにスーパーに向かう。朝桐は駄菓子がお気に入りらしく、毎度両手いっぱいに抱えてやって来る姿も見慣れてきた。早々に買い物を済ませ、自分たちも天鈴の家に足を運ぶ。

「朝桐、お前テスト大丈夫なのか?」

「あー……」

 この様子から察するにあまり調子は良さそうではないが。

「……ん?」

「どうしたんだ、朝桐?」

 彼が前方を指さす。その方向を見ると、女子高生らしき二人が天鈴の家に入って行くのが見えた。

「もしかして天鈴の妹かもな。ほら、双子の」

「そういやそんなこと言ってたな。こんなことならもうちょい買い込んでも良かったかもな」

 口数が少なく、無愛想な彼だが、こういう気回しができる所は素直に尊敬できる。友達になれたことが少し誇らしい。

「んだよ、その顔は。気持ち悪いぞ」

「はいはい、悪かったな」

「おーい、二人とも入っていいよ!」

 二階の窓から手を振る天鈴に呼ばれ、自分たちも玄関の扉に手をかけた。

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