【003】握った拳
「じゃあ、話を戻そうか。君の力は戦闘時に有用なものではないし、前回のように都合良く増援が来るとも限らない。それは常に念頭に置いておいて貰いたい」
その言葉にこくりと頷く。
「ただ、君の能力はその性質からかなり有用である可能性が高い。だからこそ、君にはその能力の制御を学んで、いつでも発動できる状態に仕上げておいてくれ。まあ、無理難題かもしれないがね」
自分の能力にはまだ自分が理解しきれてない何かが秘められている、そんな予感がする。自身の左手を見つめ、握りしめる。
「それで、十梨に調査を依頼していたってことは何かしら面白いことでもあった?」
ドライヤーで髪を乾かしながら、未守が会話に介入してくる。
「うーん、どうかな。今回の件は未守さんには合わないかもしれないね」
「なあんだ、つまらないわね。もっと歯応えがある奴、いないかしら」
浅見の言葉によって、今回の相手へと関心を失った彼女は再び、ぷいっとそっぽを向く。
「あの、未守に向かないってどういうことなんです?」
浅見に単純な疑問を投げかける。
「『Desire』は総じて人間の心が大きく関係し、そこから肉体的に作用するか、精神的に作用するかは人によって異なるんだ」
浅見は未守の背中に視線を移す。
「彼女の場合は前者、朝桐くんのケースも同様だね。ただ、今回の場合は少し事情が異なる」
「つまり、今回は後者ということですか?」
「ご名答。未守さんは戦闘に特化しているからそういう時は頼もしいが、それ以外はそもそも興味をもたないからね」
浅見は肩を落とし、苦笑いをしながらそう言う。未守の扱いに相当手を焼いているのが見て取れる。自分もつられて苦笑いをする。
「そのような意味で言えば、今回の件は十梨くんや葉凪くんの方が適任だと言える。でも、今回のは少し厄介で、情報もまだ不十分だから明確なことも言えない。先入観というのは時に刃となって襲いかかってくるからね」
コーヒーを飲み干した浅見はデスクの椅子に腰掛ける。
「まあ、今日のところはこのくらいにしておこうか。葉凪くんは明日も学校があるだろう?」
「……はい、じゃあ今日はこの辺で」
帰りをやんわりと促されたため、一礼した後家に向かう。ただ――通い慣れた事務所から静寂に包まれた家に帰るのもなんだか物寂しい気もした。
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