【幕間】朝桐蒼斗という男

 気づけば自分は一人だった。元々の性格もあってか周囲に馴染めず、のらりくらり浮いて暮らしていた。別にそこに嘆きも悲しみもなかった気がする。今となっては曖昧な記憶だ。

 だが、群れる奴らにはそんな姿がよく映らなかったらしい。厄介事には何度も巻き込まれた。アイツらは縦社会らしく、下をあしらっても、だるま落としのようにまた別の人間が現れる。そして、それはさらに俺を孤立させていった。

「おう、朝桐! 剣道やろうぜ!」

 彼は太陽のような男だった。陰気臭い俺の影を鬱陶うっとうしい照らしてくる。

「朝桐くんって背高いし羨ましいよ。ほら、僕って小さいからさ」

 彼は隔たりを感じさせなかった。昔から見知った仲のように振舞ってくれた。

「よっ、期待のルーキー。俺らがいなくなっても頑張れよ!」

 事情を知りながらも、俺に期待してくれた。

 ここが無くなったら、彼らとの繋がりはどうなる? 彼らが俺と一緒にいてくれる理由はどこにある? 

 ならば、この場所は護らなければいけない。この手で、絶対に。

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