【015】開戦の狼煙

「能力の暴走が始まった。反応の中心地は詩藍しらん高校。そして学校の周囲にも同様の反応が確認された。おそらく例の怪物が湧いているのだろうね。葉凪くん、今日は何かあったのかい?」

「えっと、今日は他校との練習試合があって、その後辷部長と、他校の角ノさんと夕食を摂っていました」

「貴方の報告通りなら、有り得るのは天鈴と朝桐の二人ね」

 遂にこの時が訪れた。心臓がうるさいくらいに鼓動する。

「今までは物理的干渉が起きた例は少ないが、これから先はどうなるか分からない。未守さんには周囲に出現した個体を各個撃破、葉凪くんは本体の方をよろしく頼む。もしかしたらまだ説得ができる状態かもしれない。ただし、無理だと思ったら撤退すること。良いね?」

「はい、何とかしてみます」

「出現個体の位置データの転送よろしく頼むわ。じゃあ」

 未守は窓から颯爽さっそうとその場を去る。それに続き、自分も学校へと駆け出した。


 間もなくして明かりがほとんど消えた学校に着く。肝試しであればぴったりであろう、おどろおどろしさをひしひしと感じながら、一目散に剣道場に向かう。剣道場はまだ煌々こうこうとしており、まだ誰かがいるのかは明らかであった。

 あの禍々まがまがしい怪物を思い出す。ここから先は危険かもしれない。校舎の陰に身を潜めて、じっと観察する。剣道場からは何かを叩きつけるような音が鳴り響いており、それに混じって誰かの声が聴こえる。

 熱心な練習と言えば納得してしまいそうだが、そうでないことははっきりしていた。

 より詳しい状況を把握するために剣道場の入口付近まで近づく。高鳴る心臓、緊張による震え、喉がつまるような息苦しさ。意識しないと呼吸を忘れてしまいそうだ。自身をなだめるように深呼吸をし、中を覗き込もうと――

「あれ、葉凪くん? どうしたの?」

 急に名前を呼ばれ、心臓が跳ね上がる。声のする方に向き直ると、そこには天鈴がいた。

「あ、天鈴。まだ残ってたのか」

 ということは中にいるのは朝桐で間違いなさそうだ。しかし、まだどちらかまでは分からない。変に刺激してしまわぬように言葉を探る。

「そういう葉凪くんこそまだ帰ってなかったんだね。どうしたの?」

「部長たちと飯食いに行ったんだけど、忘れ物をしたことに気づいて取りに来たんだよ」

 自分でも声が震えていることが分かる。咄嗟とっさについた嘘による動揺か、極度の緊張感からくる震えかは定かではない。

「そうだったんだ、僕も土手へのランニングから今帰ってきたところなんだ。走り始めてからスマホの充電切れてることに気づいたから連絡できなくてごめんね」

「待ってくれ、、帰ってきたのか?」

「え、そうだけど。やっぱ連絡しそびれたのは悪かったかな……?」

 天鈴は申し訳なさそうな顔を見せる。しかし、そんな姿をよそに自身の頭の中では一つの結論に至っていた。

 彼の話を信じるのであれば、反応が確認された時点で天鈴は学校にいなかったということになる。つまり、今回の元凶、他校剣道部の負傷者の原因にして怪物の親玉は――

「朝桐……!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る