【013】衝突

「そうか、報告してくれてありがとな」

 部長に天鈴のことを報告をした。彼は少し寂しそうな顔を覗かせるが、すぐにいつもの調子に戻る。

「なあに、あいつもなんだかんだ負けず嫌いな所あるからすぐ帰ってくるだろ! それはそうと、次の試合は朝桐が出るから応援してやれ!」

 そう促され、座ることにした。天鈴のことは気にかかるが、今はそっとしておいた方が良いのだろう。眼前の朝桐の試合に注目することする。

 試合相手は朝桐と同じく二年生の鋸来のこぎと言うらしい。試合開始とともに竹刀の激しいぶつかり合いが始まる。緊張を肌で感じる。すると突然、鋸来が口を開く。

「お前、思い出したぞ、御庭みにわ中の朝桐だな。なんでお前みたいのが剣道なんてやってんだよ」

 先ほどまでの緊張感とはまた違う空気が漂う。その声色から伝わるのは明らかな侮蔑ぶべつである。

「お前には竹刀を握る資格なんてねえよ、ヤンキー野郎がよ!」

 鋸来が素早く竹刀を振り下ろす。それを朝桐がなんとか受け流す。しかし、一触即発の空気は依然として続く。

「部長は大会前に怪我、もう一人はお子ちゃま剣道ってか? 自覚もねえ、技術もねえ。揃いも揃って情けない野郎どもが、遊びで剣道やってんじゃねえよ!!」

「聞いてりゃ調子乗りやがって……!!」

 お互い竹刀を投げ、殴り掛かりそうになる。慌てて止めに入ろうとしたが、誰より先に彼は動き出していた。

「お前らそこまでだ!!」

 辷部長は片手にはめた小手とギプスで両者の拳を止める。すかさず角ノさんも駆けつける。

「馬鹿野郎が!! 鋸来、お前はもう出てけ、頭冷やしてろ!」

 朝桐をにらみつけ、舌打ちをしながら、荷物を持って鋸来は出て行く。その場はなんとか二人の部長の手で収まった。


「うちの部員がすまん。辷がいなかったらどうなっていたことか……!」

 練習試合の片付けが全て終わった後、改めて角ノさんは朝桐と辷部長に頭を下げた。

「いや、俺の方こそすみません。ついカッとなってしまって」

「だが、こちらの部員が暴言を吐いたことが事の始まりだ。本当に申し訳ない。然るべき措置は取らせてもらう。びと言ってはなんだが、飯をおごるよ」

 朝桐は辷部長を見て、首を振る。

「どうせお前の気が収まらんのだろう? 朝桐は残って練習するそうだしな、俺と葉凪の分をよろしく頼む。言っとくが遠慮しないからな!」

「相変わらずだな、そういえばもう一人はどうした? さっきから見ていないが」

 角ノさんに事の経緯を説明すると、少し驚いた顔をする。

「まあ、ここで立ち話もなんだから飯食いに行くか。ここら辺で良い所というとどこがあるんだ?」

 「そりゃもちろんあそこだろう!」

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