【011】不安
未守の警告から数週間、自分も元々運動神経も良い方であるため、基礎練習くらいではあれば問題なくついていけるレベルまで順応した。
依然として怪物の発生は相次いでいるらしいが、この剣道部には異常はなく、皆着々と力をつけているようにみえ、本当に元凶がこの中にいるのかと疑うほど平和であった。
――部長が腕にギプスを巻いて部室にやってくるまでは。
「こんな大事な時期にすまんすまん! バイトの宅配中にバイクが突然前を横切ってな、バランス崩してコケたらこのザマだ」
部長はギプスを擦りながら明るく振る舞う。
幸い骨折とまではいかなかったそうだが、それでも剣道ができないのは目に見えて明らかだった。来月に控える大会はもしかしたら部長は参加できないかもしれない。そんなことが部員の頭によぎる。
「次の練習試合にはちゃんと顔を出すからサポートは任せとけ!」
豪快に笑ってはいるが、空気は依然として重い。部長なりに心配をかけないようにしているのだろうが、天鈴と朝桐の表情は曇ったままだ。その日の練習は二人とも心ここに在らずであった。
「なるほど、そんなことがあったのかい。はい、コーヒー」
部活後、いつもの定期報告を浅見にする。
淹れたてのコーヒーを口に含むが、まだこの苦さには慣れない。
「それで君は今、誰が一番怪しいと思う?」
「それは……」
わからない、それが正直な感想である。『Desire』を発現しうるもの、それは多くの場合、自分、あるいは他者に対して大きなコンプレックスを抱く者であるとのことだ。しかし、そんなものは誰にだってある。ゆえに、至って普通に見える人間でも可能性はあるのだ。
「おおよそ君が想像している通り、誰にでも可能性はある。ただし、『Desire』は各個人固有のものだ。その能力は発現者に大きく依存する。それだけはよく覚えておくといい」
部員に疑いの目を向けるのは気が進まないが、そんなことを言っていても始まらない。浅見の言葉に静かに
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