【008】初仕事

「向こうからは干渉できる」

 その言葉の通り実害が出ていたらしい。この周辺の高校で下校中、あるいは部活中に何人か被害を受けていた者がいた。ただ、被害といっても物理的な傷ではなく、『いつもと感覚が違う』、『違和感がある』といったものによる二次災害らしい。それは決まって剣道部の生徒であり、来月に控える試合への参加取り消すか検討しなくてはいけないほどであるという。そして、その元凶の居場所は――


「まさか、うちの高校とはなあ……」

 放課後、『求む!新たな仲間ライバル』という貼り紙がある剣道場まで来た。

「一番手っ取り早いのはあの刺青が現れる瞬間を見ることだけど、葉凪くんにはまず、内情調査をしてもらおうかな」

 浅見のそんな言葉を思い出す。と言ってもどう調査すればいいのか、そう思っていた時だった。

「おっ、新入生か?! ようこそ我が剣道部へ!」

 鼓膜が心配になるほどの大声量が後ろから聞こえたため、おずおずしながら振り返る。そこには自分の背丈より数十センチ高い巨体の男が腕を組んで立っていた。

「新入生! 名前は?」

「は、葉凪と言います」

 新入生ではないが、その勢いに圧され、否定することはできなかった。

「そうか、葉凪か!! こんなところに居ないで中に入れ入れ!」

 彼はガハハと豪快に笑う。肩を掴まれ、半ば強引に部室に通される。

 中には準備運動をしている小柄な男と、こちらに気づかず、案山子相手に面を続けているやや細身の男がいた。

「押忍お前ら!! 今日は新入生の葉凪を連れてきたぞ!」

 その声で二人はこちらに目を向ける。

「あ、あの。俺は新入生じゃなくて……!」

「む?」

 巨体の男は肩から手を離し、あごに手を当て、こちらをまじまじ見つめる。

「部長、葉凪くんは僕らと同じ二年生じゃないですか……? バッチが新入生とは違いますし」

 小柄な男が口を開く。どうやらこの巨体の男は部長らしい。

「ホントだ、気づかんかった! すまねえすまねえ!」

 こんな至近距離でこの声量を何度も聞かされていると流石に頭がクラクラしてくる。

「なんでもいいですけど、とりあえず部長は着替えてきてくださいよ。練習相手になって下さい」

 もう一人の男が会話に加わる。ただ、こちらには興味を示しているようには見えない。

「ん、そうか! 葉凪もゆっくりしてけよ!」

 そう言うと彼は脱衣室に向かっていった。

「ごめんね、葉凪くん。うちの部長ちょっと強引なところあるからさ。僕は『アマスズ』、"天"に"鈴"で『天鈴』。あっちの彼は『アサギリ』くん、彼も二年生だよ」

 周囲を見渡すと部員の札が目に入る。『辷日向』、『天鈴梨寿』、『朝桐蒼斗』、 今までの情報から察するに部長は辷日向という名前で間違いなさそうである。

「それで、葉凪くんはどうしてここに来たんだい?」

 色々言い訳を考えていたが、最善の策は決まっていた。

「じ、実は剣道に興味があって……」

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