[六日目 09時50分・現実世界]

宮内香織が現実世界に戻ったときに目にしたのは病院の天井であった。


そこに両親の顔が飛び込んでくる。


「おとうさん……おかあさん……」


二人が手を握ってきた。


「ごめんね。心配かけて。ただいま……あ、これだと話がわからないよね……あのね、わたしとお姉ちゃんは……」


「わかっているよ。ゲームの中にいたのよね」


母親が涙をうかべながら、握った手を頬に当てた。うん、と答えてから、その言葉の内容に気づく。


「……ちょっと待って、おかあさん。なんで知っているの?」


「なんでって……」


母親は夫の顔を見た。許可を受けて持ち込んだ端末の画面を、父が見せる。


「高橋圭太郎君と一緒にいただろ? 彼を中心に、ゲームの中の様子が配信されていたんだよ」


「配信?」


ん、と思考が一瞬止まる。配信といいましたよね、おとうさん。えーと、配信というのは、つまりあれですか。もしかして先輩と一緒の行動が筒抜けになっていたということですか。


そばに控えていた医者がやわらかい声をかけてきた。


「気分はどうかな? 身体にどこか変なところはないかな?」


「身体は大丈夫です。気分はなんだか、これから悪くなるようなきがします」


両親に問いかける。


「『配信』だけれども、その、お父さんとお母さんだけとか、関係者限定の……」


全世界に向けてだよ、という無情な事実が告げられた。


「ふぁぁあああっっっっ!」


奇声とともに、琴音は手で顔を覆った。つまりあれですか、先輩を中心に配信がなされていたということは、先輩と一緒にいた自分の姿もまた世界中に見られていたということであり、すなわち、あんなことやこんなことも……


琴音はそっと両親を盗み見た。


安堵と理解と諦観を絶妙の割合で配合したほほえみが返ってくる。


続いて室内を見回したときに、ようやく自分が数多くの人に囲まれていることに気付いた。


そんなに人数いらないだろう、というほどのお医者さんたちと看護士さん。それからガラスの向こうには男女問わずスーツをきた方々がこちらに目を向けている。


あとなにやら記録関係の機器もたくさんならんでいた。レンズが全てこちらに向けられている。


もう一度、叫びそうになったところで、琴音はもう一つの事実に気付いた。


配信は現在も進行中である。

ということはつまり。


慌てて琴音は父から端末を奪った。画面に目を下ろす。


本当だ。


そこには先輩の――高橋圭太郎と自分の姉がいた。しかもなんか雰囲気が、うん、あれで、このままだと圭太郎くんがなにやら口走りそうな気配がただよっている。


「先輩! だめですよ! 全世界に見られているんですから!」


琴音の言葉が届くはずもなく。


画面の中の圭太郎君は、想い人の詩乃に顔を向け、ゆっくりと口を開いた。

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