[一四日目 13時02分・現実世界]
大先生と呼ばれる老政治家の秘書である立花は本部長室を出ると、ロビーの片隅に置かれたソファーに腰かけた。携帯端末を取り出し、彼女の雇い主に連絡を入れる。
「立花です――はい、竹内本部長ですが、やはりおつかれです。お言いつけに従い、強制的に休みをとるよう手配しました。被害者のご家族、ご遺族ですが……ありがとうございます。引き続き、お世話を務めさせていただきます」
手帳に記された報告事項を指で追う。
「各国の対応については、別途報告がいっているかと思います。私の方から、付け加えることはありません――はい。この後、本件でお世話になった各病院を回ります。あの場に居合わせたもののケアですが……はい、よろしくお願いします」
さらにいくつかの案件について、一通りの報告を終える。
そして雑談の時間になったときに、立花は大先生のお気に入りである一人の政治家の名を挙げた。
「それで、藤川くんの今後はどのように?」
電話越しの返事に、秘書は眉をひそめた。
「はい。引退をさせないというのはわかりますが、政務次官に就かせたあとに大臣ですか……あの子は、椅子に座ったまま大勢の人を指揮するには向いていないと思いますが――ああ、なるほど『大臣経験者』の肩書ですか」
通話を切ると、立花秘書は小さくわらった。
「あの子も苦労しますね」
とはいえ、という言葉で独り言をつなぐ。
「仕方ないですね。優秀かつ有能な人間は、どの時代でも無茶な仕事を振られるものなのですから。運が悪かったと思って諦めてもらいましょう」
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