[六日目 10時47分・現実世界]

『高橋圭太郎が死亡』


病院との通信が回復すると同時に飛び込んできたその一報に、対策本部は混乱に叩き込まれた。


わずかな時間で秩序を取り戻したのは、人員の優秀さもさることながら、竹内本部長の指揮力によるものが大きい。


衝撃的な報告に揺れる中、竹内本部長はただちに命を下した。処理すべき事柄の優先順位を確認し、そのために人員を再編成する。高橋圭太郎の現状把握のためのチームが作製された。即座に指示を出す。同時に官邸へ情報を流し続ける。


報告が間違いであってくれ――という内心の祈りをまったく出すことなく、竹内は岩のような顔で高橋圭太郎の状況把握につとめた。


死亡の事実が改めて確認された。


一方、ゲーム内の彼はのんきにケンカを売りにいっている。


配信は進行している。しかし別れを告げた後、『運営』はメッセージを全く発していない。もちろん、こちらの問いかけにも応じる気配はない。


ネットでは、『運営』の最後のメッセージについて無数の話が飛び交っていた。その中には可能性としてではあるが、高橋圭太郎の死について言及するものもある。


そしてそれは時間毎に増してきている。


現場に派遣していた部下から連絡が入った。宮内姉妹は無事ではあるが、かなりのショックを受けている。そして。


「……『高橋圭太郎氏の死亡公表について、両親からの承諾を得た』か」


竹内本部長はわずかにうつむいた。子供の死。それもまだ若く、そしてつい先ほどまでは、意識の回復は間違いないとされていた子を失った両親の気持ちを考え、同時に、そこから承諾を引き出した部下の苦悩を思う。


そして、その全てを飲み込む。

苦く、苦く飲み込む。


顔を上げると、竹内は官邸に連絡を入れた。


「竹内です。高橋圭太郎氏の死亡が確認されました。また、ご両親より公表の許可も得ました――ただちに高橋圭太郎氏が死亡したという事実を発表するべきと進言いたします」

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