[六日目 07時00分・ゲーム内]

雪上船は目的地に着いた。

いよいよ迷宮へと踏み入る。


隊列はプレイヤー二人が先行。それに案内役のリズが続き、最後尾は鎧狼のイルヴァが固める。


迷宮へ入る。

そしてすぐに止まる。


迷宮の入り口は、岩山の中腹に位置し、洞窟のような形をしていた。


普通ならばその奥にあるのは、先の見えない暗闇と、凍り付くような冷気、そして不気味な怪物の声――とくるはずなのだが、そのようなものは一切なかった。


代わってそこにあったのは、ちょっとおしゃれなマンションのエントランスのような空間であった。そこそこ広く、清潔なスペースの奥にはエレベーターの扉が見える。


二人のプレイヤーは顔を見合わせた。


とえりあえず圭太郎が先頭にたったまま、奥に進んでみる。エレベーター前まできたところで、空中にメッセージが表示された。それを音声が読み上げる。


『ここまでの長い旅路、おつかれさまでした。数多くの苦労があったかと思われます。さらなる旅と困難をお求めの方は、右手奥の扉を開け、迷宮へとおすすみください』


二人は揃って右を見た。


わかりやすく「迷宮入り口」というプレートが掲げられた扉がそこにある。


再び揃って視線をメッセージに戻す。朗読が再開された。


『もう冒険は面倒だ、ショートカットをしたい、という方はこちらのエレベーターをお使いください。最奥階、またはお望みの階まで安全にお届けします


エレベーターの扉が開いた。


中は小さな応接室のようになっていた。ソファーにローテーブルに小型の冷蔵庫。壁には液晶ディスプレイっぽいものがあり階数が表示されているので、たぶんエレベーターなのだとは思うが、なんというか、うん。


なんというか。


「どうする? ケー君」


「いや、どうすると言われても……ねえ」


圭太郎は横にいる少女に声をかけた。


「これ、乗る以外の選択肢はないですよね……」


二人が乗ろうと足を踏み出したときだった。


突然、警告音が響いた。新たなメッセージが表示され、読み上げられる。


『申し訳ありません。あなた方は、このエレベーターに乗る資格を有していません』


なんだそのクソ展開は、と言いたくなる通告に、さらなるメッセージが重ねられる。


『ただし、このエントランス内に隠された鍵を使えば、使用することが可能です。どうしてもエレベーターを使用なさりたい場合は、鍵をみつけてください』


なんだそのクソ展開は。


 ・


展開を見守っていた現実世界でも『運営』への罵詈雑言があふれたのだが、それを補うようにあらためて一つのアンケートが実施された。


一時間以内に鍵を発見できなかった場合は、そのありかを自動的に教えるようにするか、というものである。


アンケートの締め切りは三十分後。


圧倒的な「イエス」がこのアンケートには集まった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る