[六日目 05時55分・ゲーム内]
目的地まであと一時間。
ということで雪上船に乗る四人はコタツ部屋を出て、船の最上部にある見張り部屋へと移動した。梯子を上り、四方に窓を設けた部屋に入る。
「夜と雪の国」の名のとおり、窓の外にはただ夜が広がっていた。そこに際限なく雪が降り注ぐ。
ゲーム内のいい感じな補正のためか、吐く息は白いのに寒さというものはさして感じない。
「もしかしてあれかな?」
イルヴァが進行方向を指さした。
山のような影があり、その中腹部に青い光が見えた。
「そうですね。あそこです」
案内役のリズの言葉に、琴音は窓にひたいを張り付けた。姉のいる場所が情報ではなく、一つの景色として視覚に飛び込んできたとき、なぜか涙があふれてきた。
泣くようなことではないだろう、と自分でも思うし、実際に泣くようなことでもないのだが、それでも涙が止まらない。
感情のスイッチが変な方向に入ってしまったらしい。足に力がうまく入らない。この世界では、どんな無茶な動きも簡単にできるはずなのに、立つという単純なことさえできなくなる。
「あ…………」
膝が崩れた。
同時に。
「よっと」
後ろから伸ばされた手が、少女の身体を支えた。いまはデータ上の存在のはずなのに、身体のぬくもりが、鼓動がつたわってくる。
「…………せん……ぱい?」
大丈夫、とか、立てる、といったような言葉はなかった。ただ支えてくる。
やはり感情のスイッチがおかしくなっているらしい。
少しためらい、試すようにゆっくりと身体全体を預けていく。同じ部屋には、リズとイルヴァもいるというのに、その辺りはまったく気にならない。
息を吐く。白い。そうか、この部屋は寒いんだ、と思うと同時に、寒気が身体を包んだ。震える。それを気遣うように圭太郎が自分のローブをかけてきた。温かい。
少年の体温を感じながら、琴音はゆっくりと顔を動かした。圭太郎の胸元が見える。首筋が目に入る。あごのラインに沿って視線を上げる。
そこで初めて、少女は知った。
少年は、彼女のことを見ていなかった。圭太郎の目は、正面にある光に。自分の姉が、彼の想い人がいる地下迷宮の入り口をただ見続けていた。
少女は視線を落とした。
白く、重く、自分にすら理解不能の感情に彩られた息をこぼした。
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