[五日目 11時20分・現実世界]
『運営』からの返信。
戻るなり議員が口にしたその言葉に、官僚の瞳は大きく開かれた。
秘書も動きを止める。
わずかな沈黙の後に口を開いたのは峰岸秘書だった。
「どのようなメッセージを送られたのですか?」
「愚痴だよ。『ヒントが少ない。とりあえず、あんたらが敵か否かだけ教えてくれ』とだけ」
官僚が苦笑した。肩から緊張を落とし、幼馴染の顔を見る。
「で、なんて返ってきた?」
「『我々は敵ではない。そして、あなたがたが考え続けることを放棄しなければ、我々はいつか同じ未来を共有できる』以上だ」
端末を官僚へと渡すと、政治家は自分のカップに水を入れた。精神的な意味で喉が渇いている。一杯分の水を飲み干すと、藤川は口を開いた。
「二人の意見は?」
秘書と官僚が視線を交わしあった。同じ結論に至ったらしい。峰岸秘書が、代表して口を開く。
「この言葉をそのまま受け取るのであれば、『運営』は敵ではないということになります。そして同時に、いまは味方でもない、と考えられます」
「『いつか』という言葉を考えればそうなるな」
官僚がうなずく。
「しかし我々の分析はあとだ。この情報はすぐに本部へと回そう」
ああ、そうだね、と議員はうなずいた。
「ロウちゃんから送ってくれ。んで、報告の際に、冒頭に俺からの意見を入れてもらえるかな。『本件の解決のためには、広い知見が必要となる。そのため、下記の「運営」との応答については、即時に他国の担当機関との情報共有を要求する。行われぬ場合、我々は本部の同意なくこれを公表する』」
梶原が顔をしかめる。
「内容はともかく、言い方というものがあるだろう」
「竹内先生にはわかってもらえるさ。文章を推敲する時間もないしね」
藤川は秘書に顔を向けた。
「峰岸ちゃん。三人が合流するまで、最短でどのくらいだと思う?」
「ダンジョンまで直通の移動手段が用意されました。合流に向けての展開は加速しています。その後のダンジョン攻略でも同様のものが提供される可能性を考えれば……早ければ、明日の朝ぐらいには合流するかと」
「余裕があるようにも思えるけれども、組織を動かすには時間がまったく足りないよね。というわけで、面倒ごとをお願いして申し訳ないが、いま言った文面で頼むよ。本部から文句があったら俺に回していいからさ」
それでね、と政治家はソファーに座り直すと、やや前かがみの姿勢をとった。
「せっかくのヒントだ。二人はさらに検討を進めてくれ。」
静かに言葉をつむぐ。
「敵ではない『運営』が、なぜこんな騒動を起こしているのかを」
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