[四日目 12時00分・ゲーム内]

圭太郎君は、もう一人のプレイヤーと会うために砂漠を渡っていた。


目的地は「鉄鋼浮遊都市アオ」。


昨日の狼系鎧少女との戦闘後、ひたすら歩き、なんとなく精神的に睡眠が欲しくなったので野営し、そして本日も延々と徒歩移動。


本日も砂漠にはいやになるくらい陽の光が降り注いでいる。


「あのさ」


知らぬうちに片想いを世界中に暴露されてしまっている圭太郎くんはため息をついた


「人の寝顔を見るのはやめてくれない?」


「どして? そんなに恥ずかしい?」


「……まあ、そんなところ」


寝起きに、というか寝起きでなくても女の子の目とか唇が近くにあるのは、なんとも言いがたい気持ちになる。それを見透かしたように鎧狼の女の子はわらった。


「ケー君は形というやつを重視しすぎじゃないかな? 狼型でも、人型でも、あたしはあたしなんですけれど」


「うん、それはわかっている。わかっているし、それに慣れるように努めるから、そうなるまでの間は協力して――」


圭太郎は足を止めた。銃を構える。


「可愛い女の子のお手伝いは必要でござるかな?」


「必要になるかもしれないでござるけれども、まずは優しく見守っておくれでそうろう」


引き金を引いた。


わずかに盛り上がった砂の中に銃弾が吸い込まれる。砂が跳ねた。そこに麻痺効果のある弾丸を打ち込む。効果あり。あとは攻撃力の高い弾丸を選んで撃ち続ける。


一方的かつ面白みのない戦闘はすぐに終わった。モンスターの姿が分解され、カードに変わる。


「お金かぁ」


あっても困るものじゃないからいいけれども、とカードに手を伸ばす圭太郎の横でイルヴァちゃんは聞こえるようにため息をついた。


「なに、その反応は」


「面白くないなぁ、と思っただけだよ」


心の底からがっかりしたような顔をする。


「この砂漠に入ってすぐの戦闘。ああいうのが見たいの。大口砂蛇に上半身を飲まれ、さかさまの態勢で足をバタつかせながら、必死になって助けを求める。あたしが見たいのはケー君のそういう姿なのに……」


こんなつまらない戦闘をするなんて、とまた大げさなため息をつく。


「僕の間抜けな姿なんて、この先いくらでも見られるよ」


「本当に? 本当の本当に? 見せる前に帰ったりしない?」


「しないしない。約束する」


言いながら圭太郎はこれまで歩いてきた砂漠を振りかえった。


足跡はすでに風に消されている。どこまでも続く砂に、どこまでも続く空。再び視線を前に戻す。地平線の向こうに岩山の先端と、その上に浮かぶ空中都市が見えた。


鉄鋼浮遊都市アオ。あそこでプレイヤーの一人とで会えるはずだ。


会えるはずなのだけれども。


「……こっちから行くと、あの山を登らないといけないのを忘れていた」


「いいじゃない。別に疲れるわけでもないし」


「精神的にしんどいの。なんで移動関係のスキルが全部封じられているかなぁ」


延々と愚痴りたくなるが、それをしたところで距離が縮まらないのもまた事実。仕方なく歩みを再開した。


そして。


『応援のプレゼントが届きました』


突然、メッセージが目の前に表示された。


システムを呼び出す。『プレゼント』という項目があった。差出人の名前はない。開く。青色の羽が現れた。


「もしかして、これって……」


アイテム名を確認し、『詳細』を選択する。『移動先・鉄鋼浮遊都市アオ』の文字を確認する。


「っっっしゃぁぁっっっ! ありがとう!誰だか知らないけれども、ありがとう! 聞こえてないとは思うけれどもありがとうぅぅ!」


なにを突然叫びだすのか、というイルヴァの視線を受けながら、移動アイテムを得た圭太郎は、両手を高らかに突き上げた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る