[三日目 18時39分・ゲーム内]
画面越しでは見慣れたものでも、あらためて向かいあうと落ち着かない状況というものがある。
具体的にいうと、先ほどイベント戦闘を行った相手である狼系女子ちゃんと二人きりであるという状況。
うわぁい。かわいい女の子とお近づきに慣れてラッキーだなぁ――などと素直に思える男子高校生は、片想いをこじらせたりはしない。
正直、至近距離で向かい合うのはけっこうしんどい。
かくして圭太郎君は微妙に視線をそらしたまま鎧狼のイルヴァとお話をしていた。
先ほどの戦闘イベントは、結局時間経過による引き分けと判断されたらしい。勝利と違い、説得で仲間になるらしいのだが、問題は選択肢が表示されず、自分の言葉で口説かないといけないということ。
いったい僕にどうしろというのか。
「どうしてとどめを刺さなかったのかな?」
「いやぁ、間違って自分まで催眠ガスに巻き込まれちゃって」
大失敗、と頭をかく圭太郎に鎧狼のイルヴァは探るような瞳を向けた。無言の圧力にさらされること、約五秒。あっさりと陥落する。
「……人の形をとっていたので、攻撃できませんでした」
「どの形態をとっていたとしても、あたしはあたしだよ。それに、姿がどうであれ、あたしはデータ。戦闘後は再生されるのだから、問題ないと思うよ」
まあ、そうなんだけれどもさ、と圭太郎は空を見上げた。砂漠らしく、雲が一つもない。
「そう簡単には割り切れないよ」
「んー。相手があたしだったからよかったけれども、悪意のある敵が人の形をして襲ってきたらどうするの?」
「逃げることができるのなら逃げる。ダメなら……さっきと同じような戦闘をするかな」
「そして、また自分も煙に飲まれるの?」
可愛らしくも魅力的な笑みを見せると、イルヴァは立ち上がった。圭太郎のあごに手を掛け、強制的に自分の方に顔を向かせる。
「交渉成立。けー君、キミはあたしを仲間にする権利を得たよ。さあ、どうする?」
「これからよろしく」
「うん、よろしく」
いえーい、と手を出してきた。
い、いえーい、と手を合わせる。
でも残念だね、とイルヴァはわらった。
「あのまま戦闘に勝利しておけば、あたしを使役することができたのに。現在の関係は協力。服従ではなから、必ずしも指示に従うとは限らないよ」
その方が助かるよ、と言葉を返すと、圭太郎は立ち上がった。あらためて握手をする。今後の目的地を告げたところで、圭太郎は改めて目の前の女の子に改めて目を向けた。。うん、やっぱり落ち着かない。
「……その姿、変更することはできないの?」
え、なにか気になる? という問いかけに、気になる、と言葉を返す。
「うーん、それなら――」
イルヴァの身体を光が包んだ。鎧をまとった狼へと姿が変わる。
「どう?」
「砂漠で金属鎧をまとった毛むくじゃらさんが横にいるのは……ほかに形態はあるの?」
「残念ながらこの二択なんだよね。どちらがいいかな? ほらほら、ケー君の好みを教えて。女の子形態のあたしがいいのか、ケモノ姿の方がいいのか」
「まって。二択にそういう余計な方向性を付け加えないで」
狼姿のイルヴァが楽しそうにわらう。
「いいじゃん。別に心の奥底にある嗜好を暴露しろといっているわけでもないんだし。ねー、ケモノと女の子のどっちがいいの?」
「だから、その言い方をやめてってばぁ……」
うーむ、と圭太郎は腕を組んだ。
本能は、かわいい女の子の一択しかないだろう、と叫んでいるのだが、なんというか、それを選んだら負けな気がする。
なにに負けるのか不明だが。
「狼姿のままでお願いします」
「ふーん。それがケー君くんの選択なんだね」
「うん」
オッケー、わかった。それじゃあ出発しようか、とイルヴァは歩き始めた。
人間形態に変身して。
「え、あ、あの……」
「ん? なにかな? あたしは『どちらがいいか?』とはきいたけれども、その希望を叶えるとは言っていないよね」
魅力的な笑みを添えてそう答えると、イルヴァは元気よく歩き出した。
その後を、しぶしぶと圭太郎が追う。
かくして、二人の砂漠横断の旅が始まった。
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