[三日目 13時15分・現実世界]

発端の――世間的にはこの「ザ・ゲーム・ショー」を初めて認知をする三日目に入った。



昼過ぎの13時15分。


リークを受けたマスコミからの要請により、記者会見が開かれた。質問には、中央省管理局第四管理部第二課の梶原が応じることになった。


質疑応答の形で公表されたのは、三名の少年少女が意識不明の状態にあること。氏名等の詳細についてはプライバシーの観点から控えること。原因は不明であること。


当然、リークされた内容を知っている記者からは次の質問がなされた。


――三名が、意識を失った際に、同じゲームを行っていたという情報があります。


「現在、調査中です」


――もしも、このゲームが原因であった場合、被害が拡大するのでは?ただちになんらかの措置をとるべきでは?


「現在のところ、原因は特定されていません。特定された場合は、相応の措置をとることになるかもしれませんが、仮定の話にはお答えできません」


定型的であり、なんの面白みもないこの会見自体にはさしたる意味はない。重要なのは、この会見の終了間際に起こった出来事による。


他に質問はありますか、という問いかけをした梶原の前で、記者たちの口からざわめきが漏れた。全員の視線が会見をおこなっている自分から、背後にあるモニターに移るのがわかった。


振り返った梶原の目が一瞬大きく開かれた。


「会見を一時中断します」


会見開始時、梶原の後ろに設置のディスプレイには、中央省のマークが表示されていた。


それが、いまはない。


消えたのではない。異なるものが表示されている。


そこには、意識不明となった三人が最後に遊んでいたゲーム会社のロゴが表示されていた。


『ゲーム「ワン・ワールド」からのお知らせです』


声と、それに応じた字幕が流れる。


後ほど判明したことであるが、この映像はほぼすべてのモニターを通じて全世界に届けられた。


テレビも、パソコンも、そして各人の有する携帯端末も含めた全世界である。言葉は見る人の使う言語に、文字もそれぞれの使用するものに変換が行われた声明は続く。


『現在、サービスを停止している「ワン・ワールド」でありますが、諸事情により、本日をもってこれまでのサービスを停止いたします。ご利用いただき、まことにありがとうございました。代わって「ワン・ワールド」は新たなライブ映像を配信いたします』


とまどったように辺りを見回す少年の姿が映し出された。


梶原の口から、驚きの息がこぼれる。


『この少年の名前は高橋圭太郎。日本国東京の光が原高等学校に通う生徒です。現在、彼は意識不明の状態であり、彼の身体は病院にあります。その理由は、彼の意識がこのゲーム内に閉じ込められたためです』


梶原の端末に電話がかかってきた。記者の前である。


が、取る。相手は藤川議員。


「見ているな」という言葉に、「ああ」とだけ答える。二人にはそれだけで十分であった。電話を切り、映像に集中する。


『この世界に閉じ込められた人間は、彼のほかに二人います。彼らがこの世界から脱出するための方法は二つ。一つは「破竜グリド」を倒すこと。もう一つは彼に与えられたスキル「ログアウト」を使用すること。さて、彼はこの世界でどのような冒険をするのか。スキルを使い、一人で帰るのか。それとも、他の二人を助けるのか。「破竜グリド」を倒すのか。それとも敗れるのか。彼の冒険はリアルタイムで配信が行われます』


画面が黒一色で塗りつぶされた。そして新たなタイトルが浮かぶ。


『ザ・ゲーム・ショー』


のちに世界を揺るがすこととなる、その言葉が表示された。


『新たな未来が切り開かれます。ご期待ください』


最後にサイトの情報が表示され、画面は通常のものに戻った。


梶原の判断は早かった。


「ご覧のとおり、緊急事態が発生しました。会見は一時中断します。再開は十八時の予定です」


記者が声を上げるよりも早く、梶原は早足で会見場を出た。部下に命じ、会議室を抑える。


端末を取り出す。幼馴染の国会議員に電話を掛ける。


『ばあさんの勘が当たったな』


「そうだな。会議室を抑えた。十四時だ。出られるな」


『まかせろ』


梶原にとっての長い一日が始まった。

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