[二日目 16時52分・現実世界]

圭太郎と宮内姉妹が意識を失って二日目。


それぞれの家族は、各種手続きと心労により加速度的に疲弊していった。まだ身体は動くものの、疲労は着実に蓄積していく。原因が不明であり、先が見えないことが、精神面を削っていく。


そのため、諸手続きが一段落したところで、担当医はそれぞれの家族に、自宅に戻り休養を取るように勧めた。


「意識を取り戻されたときに、家族が元気な顔をしていないでどうしますか」


その言葉で家族を説き伏せ、玄関先まで見送ったところで、医師は一人の男に呼び止められた。


愛想のよい笑みを浮かべたその男は、国会議員の藤川と名乗った。正式な面会申し込みを経ずに呼びかけたことに対する謝罪の言葉をきれいな角度で頭を下げながら述べると、藤川議員は一歩距離を詰めた。


話の内容は大したことではなかった。


意識不明の患者三名の様態について、厚生省から定期報告を出すように依頼がきていた。そのことについて『お忙しいのに、申し訳ない。なにか困ったことがあったら、自分に申し付けて欲しい』とだけやわらかい口調で語り、名刺を手渡してきた。


最後に握手をして、藤川議員は明るい印象だけを残して立ち去った。


名刺をポケットに入れ、医師は集中治療室に立ち寄った。


容体に変化はない。まもなく厚生省への報告の時間であった。自分の机で『容体に変化なし』という短い一文を作成して送信する。


即座に、お礼を含めた受け取り確認のメッセージが返ってきた。


医師は立ち上がると、窓の外に目を向けた。

そして、予言となる一言をつぶやいた。


「大変なことになりそうだな、これは」

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