-9- 遊園地、そして

目覚まし時計が鳴った。木村はしばらく寝返りをうち、ようやく止め、パジャマ姿のままリビングに行った。

母が木村に気付き、声をかけた。

「今日は、朝早いじゃない。まだ起きないと思って、朝ごはん用意してないから勝手にやって。」

木村は、牛乳を出し、パンにチーズとハムをのせて焼き、パンにかぶりつく。手慣れたものだ。

テレビではニュースが流れている。天気予報では晴れだと、お姉さんが笑顔で告げていた。

木村が、

「晴れか。」

と、つぶやくと、木村の母は、

「あんた、どっか出かけるの。」

と、言った。

「遊園地。」

「あんた、友達いたんだ」

と、母。

木村は、デジカメを指差す。

「本当にカメラだけは積極的なんだから。少しは他のことも頑張ってもらいたいわ。」


遊園地の入口で、紗良が木村を待っていると、スマホの通知音が鳴った。

木村からの、

「今日、ちゃんと起きられた」

というメッセージだったので、紗良はくすりと笑い、

「遅刻の連絡かと思った」

と、返信した。

待ち合わせ時間の10分前に、木村が遊園地の入口に着いた。

「早いね。」

と、木村。

「楽しみで、ワクワクしちゃって。」

と、紗良。


はたから見れば、二人の風景は、撮影というより、デートにしか見えなかった。


あっという間に夕方になった。

「最後に観覧車、乗らない?」

と、紗良。

木村は、うなずいた。


二人が乗った観覧車が、上に上がっていく。

「実は私、観覧車怖くて苦手なんだよね。」

「え、じゃあどうして。」

「乗るまで忘れてた。」

吹き出す木村。紗良も釣られて笑う。

「笑わないでよ、本当に怖いんだから」

木村は、笑顔でカメラを回す。


遊園地からの帰り道で、紗良は、

「ああ、怖かったー。でも、今がずっと続けばいいのになんて、本気で思っちゃった」

と、ぽつんと言った。

「映像にするよ、いつでも思い出せるように。」

「出た、木村健の甘いささやき」

木村が頭をかき、紗良は思わず笑った。

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