レールガンへの誤解は絶対に某超電磁砲のせい


「ふははははは! いつまで無駄なことを繰り返すのかね? わたしは一向に構わないが」


 敵に蔑まれているが気にしない。

 無駄とわかっている弾をばら撒き、空になった弾倉マガジンを交換しながら走る。


 アイツのバリアを貫くには、俺の切り札を使うしかない。

 だが威力が強すぎるから、場所を考えないと……深夜とはいえ住宅地の中でぶっ放したら、いらぬ犠牲者が出てしまう。


 そうして散発的に銃を撃ちながらおびきよせて――運動公園に着いた。

 距離はちょっと不安だけど、人が住んでる家からは離れてるし、これだけ開けた場所なら大丈夫だろう。


「鬼ごっこはもう終わりかい?」


 足を止めた僕に、敵は余裕の言葉をかけてくる。


「あぁ――」


 対して僕は、これまでと同じように銃を向ける。

 ただし銃口の延長線上に、異能で磁力線レールを形成する。


「終わりにしよう」


 引金を引くと、ビームのようにマッハ五まで加速した弾が放たれ、バリアごと敵を粉砕した。


………………

…………

……


 ……うん。まぁ、ね?

 雷使いはこの手のことよくやりたがるけどね?


 最新技術として情報番組でも取り上げられることがあるレールガン。

 火薬の炸裂を利用したこれまでの銃や砲とは一線を画し、電磁力で投射する超高速・長射程の砲。ミサイル迎撃にも使用でき、しかも砲弾は小さいため迎撃は不可能。

 少し前までフィクションの領域を出なかった兵器だが、試験用は既に完成し、実用化のための開発が行われている。アメリカ軍は開発から手を引いたけど、日本は継続している。

 砲弾・砲身部分は実用化レベルにあり、問題なのは電源部分という話も聞く。


 フィクション内で登場する場合、実際に兵器として存在するなら問題ない。


 だが、なんらかの不思議パワーで再現する場合、レールガンは不可能と考えるしかない。ここで触れるのはこちら側だ。



 〇 〇 〇 〇 〇 〇 〇


■レールガンとリニアモーターカーと同一視してない?■


 リニアモーターカーをなんだと思ってる?

 『磁石の力で宙に浮いて走る高速列車』って思ってない? 

 それ、間違ってないけど間違ってるから。

 レトロフューチャーな乗り物みたく、終止浮いてるイメージを抱いていない?

 リニアモーターカーにも車輪がある。停止時、低速時には普通の電車と同じように車輪で走る。安定した高速走行ができるようになったら車輪を格納し、浮遊して摩擦レスで走る。



 さて。いきなり関係ない話をぶっこんだと思われるかもしれないが、ちゃんと関係している。


 レールガンってさ、ロボットアニメの発進シーンみたいなの想像してない? カタパルトであろう筒の前にロボットが運ばれて、宙に浮いて、高速で発射されるみたいなの。


 根拠ないが、実物をよく知らない方は、なんとなーくそんな風に想像している節を感じるのよ?

 しかも設定集とか見ると、そのロボットを射出する装置を『リニアカタパルト』とか書いてあることが結構あるし。


 なので、『電磁力』で『高速』という共通キーワードを持つ、リニアモーターカーを例に出して、レールガンへの確認してみたわけだが。


 違うから。根本的に違うから。


 まず簡単に『電磁力』という言葉をおさらいしよう。

 小学生の時に電磁石なるものを見せられて、高校物理でフレミングの左手の法則を学んで、テストでラッパーみたいなポーズを取りながら解答欄を埋めたはずだ。

 その時の記憶で、電力と磁力は密接な関係にあり、力が発生する。モーターや発電機はそれを利用したもの……とざっくばらんに認識しているだろう。


 でだ。リニアモーターカーには超伝導電磁石が使われているので、電磁力を利用しているのは間違いないのだが、原理的には利用しているのは磁力のみ。磁石のS極とN極の反発力・引き合う力で、車体を浮遊させて進む。


 対してレールガンが使っているのは電力だ。電磁力を利用しているのは間違いないが、瞬間的にとてつもない磁界の強さが必要で、永久磁石じゃ用を成さないから使っていない。


 ついでに言っておくと、あのロボットの発進シーンも結構謎だったりする。


 電磁カタパルトは実在する。

 映画かなにかで、空母から戦闘機が発進するシーンはきっと見たことあるだろう。そこで空母の甲板に真っ直ぐ線が刻まれて、発進の際には白い煙 (蒸気)が上がるのに気づいただろうか。

 それがカタパルトだ。空母が大きいとはいえ、武装を施した戦闘機が発進するには、滑走距離が短く足りない。

 だから戦闘機の前輪を押して、初速をつけさせて離陸するための装置があるのだ。


 で。カタパルトの駆動法は何種類かあり、現在は蒸気式が一般的なのだが、最新式の電磁式が研究開発され、実用化された……という話もあるくらいに近しい技術だ。

 だが、リニアモーターカーと同じ駆動方式で戦闘機を押すだけ。押す部分――シャトルというのだが、電磁式ならその部分は浮遊走行するだろうが、機体そのものを浮かして射出するものではない。



 ○ ○ ○ ○ ○ ○


■レールガンに必要なのはレールだけではない■


 レールガンにはその名の通り、砲身となるレールがある……というのは、きっと誰もが想像してることであろう。


 だがもうひとつ、電機子という部品を必須としている。

 

 仕組みは違うが一般人の認識内であれば、レールガンの砲弾は、多段式ロケットのようなもの……とイメージするのが手っ取り早いと思う。

 弾体を加速させるのではなく、土台ロケットを点火して加速し、途中で切り離して先端のみを飛ばす、といった感じで。

 そのロケット部分に当たるのが、電機子という部品だ。


 電機子とはなにか?

 モーターを分解したことあるだろうか? その中に入っている、銅線がグルグル巻きになっている部品が電機子だ。レールガンで使うものは全く違う形状だが、電流を動力に変える物体という意味では変わらない。

 

 電気回路は輪のように、ひと繋ぎになっていないと機能しない。

 レールガンのレール2本は独立しているため、それを繋ぐ部品が導体……電流が流れる部品を必要となる。

 しかも投射するには、固定されておらず、前へ動かないとならない。

 電機子はその条件を満たす部品だ。


 ロケットのエンジンしかり、船のスクリューしかり、航空機の翼とエアインテークしかり。高速かつ大出力の機械において、動力に直結する部品はキー・テクノロジーだ。

 レールガンの場合は、レールの耐摩耗性と、電機子の出力がこれに当たる。抜きでは語れない重要部品なのだ。



 なのだが。

 不思議パワーでレールガンを再現するとしたら、前述のようにレール部分だけしか考えていないように感じる。

 物質的に存在しなければならず、導体でかつ動く電機子までは、考えているとは思えない。



 仮にレールガンの原理を魔法で忠実再現するとしたら、雷魔法と念力のようなもの、二系統が必要となるからだ。発射まで弾を宙に固定し、押し出す力がないとならない。

 で。電流を流すことで念力が前に動く、という理屈になるのが……それ意味ある? 電気流れないと念力が動く理屈も必要性も自分には理解も想像もできないのだが?

 しかも超音速で弾を飛ばせるくらいにその念力が強力なら、雷魔法の必要がない。最初から念力オンリーで飛ばせばいい。



 さすがにここまでの専門的内容は自分もわからないが、あくまで可能性としては、電機子なしで砲弾に電流を流すことで、電磁投射が可能かもしれない。

 もしも可能ならば、強力な雷が使えるなら、レールガンが再現できることになる。


 だがそのためには、電機子の特性を砲弾にまとめなければならない。莫大な電流に耐える導電性を持ちながら、超高速で飛んで目標を破壊できる素材で砲弾を作る。

 ……そんな都合のいい両立、できるの? それが不可能だから、実物のレールガンは今の形なんだと思うけど?

 しかも可能だとしても、専用砲弾が必要になる。

 つまりコインやメダルを即席で砲弾にするのは不可能ということだ。



 〇 〇 〇 〇 〇 〇


■それはレールガンじゃねぇ■


 不思議パワーによる電磁力のみで弾を飛ばしたいなら、前述のようにレールガンは無理。


 ありえるとすれば、コイルガン、あるいはガウスガンと呼ばれる電磁投射装置だ。これこそリニアモーターカーに近い。

 小学生の理科で電磁石の性質を学でいるはずだが、中心の鉄芯がないまま電流を流すと、鉄が吸い込まれるのだが、覚えておられるだろうか?

 コイルガンはこれを利用する。電磁石を複数並べてチューブを遠し、タイミングよく電源をON・OFF・逆転させると、磁性のある弾を加速されるか、加速させた棒で突いて射出する。


 ただしコイルガンは出力が低い。

 レールガンほどの高速弾は撃てない。

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