瞳はまだしも現実にありえない髪の色はなんとかならんのか


 彼女の名前はヒロイン。

 生徒会長を務める上に、成績優秀でスポーツ万能、しかも性格良好とトリプル役満状態。ついでに父親は誰もが名前を知る大企業の社長。天は二物を与えずと言った誰かさん、ちゃんと調べてからそれ言った?

 ここまで来たら当然のように美人。綺麗な青い髪はバッサリと肩口で揃えられている。切れ長の茜色の瞳は初対面だとキツい印象に思えるかもしれないが、実際人柄はそんなことない。


………………

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……


 いや、ファンタジーやSFならば、別にいいんだけどね?

 だがローファン、現代社会を基準にした作品で、ごく普通の人間なのに、現実にありえない髪色のキャラを小説で登場されたら、違和感がものすごい。

 その中でも染色ならば気にならないのだが、その言及はなく髪色だけを説明――つまり地毛であるような書き方を小説内でしていると、ハッキリ言って気持ち悪い。


 これ自分だけの偏見ではなく、こういう読者、無視できない割合でいるからね?



 ○ ○ ○ ○ ○ ○


■なーんでそんなに髪の色が違うの?■


 現実に、天然で存在しうる髪の色というと、白・黄色(一般的には金)・赤・茶・褐色・黒の範囲に収まる。


 この違いとなるのは、日焼けやホクロと同じ、メラニン色素だ。

 ここまではなんとなーく想像できる人もいるだろうが、それだけだと色黒・色白のイメージしか湧かないから、なぜ黄色・赤なんて色になるのかは想像できないだろう。


 実はメラニン色素は2種類ある。ユーメラニンとフェオメラニンと。

 ユーメラニンが多いと黒、少ないと茶褐色の系統に。

 フェオメラニンが多いと赤、少ないと黄色の系統に。

 この配合で髪の色が決まる。


 だから天然で青や緑の髪は存在しえない。

 色の三原色CMYKで言うと、黄色と赤紫マゼンダはあるが、青緑シアンがない。だから青系統の色が発現するなどありえないのだ。


 あ。一応言っておくと、虹彩、瞳の色だと青や緑は存在する。

 しかし海が青や緑に見えるのと同じ理屈で、他の色の光波長を吸収しているからそう見えるだけ。

 色素を持っているのとは全く違う理屈なので、同一視しないように。


 メラニン色素に関しては人間に限った話ではなく、哺乳類で共通している。

 マンドリルみたいにカラフルな哺乳類もいるが、赤は血液の色が透けて、青は血管が青く見えるのと同じ理屈で、皮膚がそういう色に見えるのであって体毛がカラフルなのとは違う。



 『精霊の力が影響して云々』みたいな異世界人とか、地球とは違う環境に生まれた宇宙人とか、ファンタジー異能の使い手はこういう特徴が現れるとかの設定だったら、別の物理法則が働いているので『そういうもの』と流すしかない。自分もそこまで否定するほど野暮じゃない。


 しかし舞台が地球としか思えない現代ドラマで、なんの説明もなくありえない髪色の地毛を出されたら、自分は否定する。


 だってそのキャラ、人間と思えないから。

 見た目は同じで言動はそれっぽくても、遺伝子的には絶対に違う生き物だ。


 前述したように、最初から『地球人とは違う人類』として扱われているのであれば、全然気にならない。

 だがそうじゃないと、人間に化けた侵略型宇宙人や生物兵器みたいな、人間を騙しているモンスターのような不気味さと嫌悪感を覚えてしまう。



 ○ ○ ○ ○ ○ ○


■まー、ぶっちゃけ、モノ書きがマネしちゃいけない領域■


 そもそも、マンガやアニメでなぜ髪をありえない色に設定するかというと、絵描きの都合だ。

 キャラクターの見分けをつけやすくしているだけ。それに尽きる。


 あと理由があるとすれば、キャラ設定やイメージの補強くらいだろう。

 熱血キャラなら赤、クールな性格なら青、腹黒か淫乱か大食漢ならピンク(?)とか、そんな感じの。


 わかりやすく言うと。

 キャラクターたちは本当は黒とか茶色とか、ごく自然な髪色だけど、視聴者へ区別しやすくするために、カメラアプリのフィルターみたいなものをかけている。

 それを暗黙の了解で提示しているのだ。なので制作側もありえない髪色について触れないし、視る側も問わない。


 そこをモノ書きが文章で思いっきりツッコんで、なんの設定も意味もなく、ありえない髪色が存在してるかのように書くのは、無粋な行為なのだ。



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■ついでだから言っておこう■


 『プラチナブロンド』って、どんな髪色?

 銀と答えた人。違うから。


 まず、その手の色は灰色、グレーかアッシュと呼ぶのが一般的だから。


 そして、プラチナブロンドは天然で存在する髪色だが、現実には前述のように色素の関係で、銀色や灰色の髪は存在しえないのだ。


 白髪は存在する。黒髪は存在する。

 なら中間の灰色が存在しないのは変に思うかもしれない。

 それは絵の具と同じように考えているからの疑問だ。


 前述したように、メラニン色素は2種類。黒・褐色系統と、黄・赤系統だけ。

 だから人間は白い色素を持っていない。いやカルシウム化合物は白いけど、肌や髪とは関係ない。


 白い毛とは、実はメラニン色素が入っていない『透明な毛』だったりする。

 ただ髪の毛は、ガラスやアクリルみたいに不純物がなく均一な物体ではない。摺りガラスみたいな状態だから、入ってくる光が乱反射して白く見えているだけなのだ。


 なので、黒と白とが混じった灰色の毛髪は、天然では決して生まれない。



 しかし灰色や銀色に髪は存在する。

 ひとつは……まぁ、死語と言われるかもしれないが、いわゆるロマンスグレーだ。

 濃い髪色の人が加齢で白髪混じりになり、いい感じに分布していると、遠目には銀髪に見える。


 もうひとつは光の加減だ。

 髪内部のメラニン色素が少なくてまばらだと、光の回折で銀に見える。

 

 天然のプラチナブロンドは後者で、白に近い金髪なのだ。

 名前からして白金プラチナ金髪ブロンドだからね? 『銀色』と断言するのは違うことがうかがえる。

 貴金属の白金プラチナも、白に近い明るい色合いをしている。銀色の金属はいくらでもあるが、違いが比較的わかりやすい独特な色合いをしている。

 宝飾品には白色金ホワイトゴールドという金の合金が使われる。実際のアクセサリーだとメッキしてることが多くて金要素が見られないが、ナチュラルなホワイトゴールドは黄味がかった白銀色だ。プラチナブロンドはこちらのイメージに近い。

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