第23話 キモデブモンスターがやって来る

 俺は時間を止めた。3年生の教室。目指すは最強様。

 かごめかごめをやっているのか、彼女はクラスメイト達が作る円の中心にいた。

 3年の教室に入る。上級生の教室って、ちょっと緊張する。そんなことを言っても俺は32歳のおっさんで緊張するもクソもないが。

 

 最強様は女の子達に守られているようでもあった。どうやって最強様がいる中心に行こうか? とりあえず女の子を退かす。時間が止まっているせいで女の子が重い。それに女の子達は俺にお尻を向けて肩を組んでいた。

 なぜ、こんな事をしているのかは深くは考えなかった。

 なぜなら考えても無駄だからである。


 それじゃあ四つん這いになってお股から失礼しようかな?

「お尻を出した子、一等賞」と俺は陽気に歌ってしまった。

 お股から四つん這いになって中に入ろうと思っていたのに、目の前のお尻に注意を引かれて、スカートを捲ってパンツを脱がしていた。

「夕焼け小焼けでまた明日、また明日」と俺は続きを歌いながら、一瞬で計5人のパンツを脱がす。

 可愛いかどうか顔を確認。うん、全員可愛い。スカートを捲って生尻を見る。

 あっぱれ。一気に数名のスカート捲り。そして水々しい生尻。

 ええもん見れました。

 こんなことしてる場合じゃない。俺は四つん這いになる。女の子の足の間を通って行こう。

 あっ、太りすぎて通れんですたい。←どこの方言かはわからん。

 だから俺は仰向けになり、車を点検する整備士のようにスカートの中を確認しながらニュルニュルっと最強様がいる円の中心へ向かった。

 へへへへ、スカートの中はいい景色じゃ。

 あれ? 女の子の足で先に進めん。寝返りを打って、隙間を通って行く。ダメだ。先には進めん。戻るしかないのか? 時間はあと何分? 3分。クソ。もし辿り着いたとしても時間がない。

 何もせずに戻りたくなかった。だから戻る前にパンツを脱がした女の子の中でも一番キュートな女の子のお尻に顔を埋めて、ご挨拶のキスをした。外国ではホッペにキスが挨拶らしい。停止した世界ではお尻にキスが挨拶である。

 悲しいな、せっかくココまで来たのに、最強様に何もせずに帰るなんて悲しいな、と思いながら桃を捲って、中心の毒の部分を見つめた。この毒の部分を美味しくいただくのがお尻マスターなのである。

 ヤバい。時間が無い。

 パンツを脱がした子達のパンツを上げて、俺は廊下に戻った。

 次は時間オーバーという失敗はしなかった。


『終わりました』という機械音が大音量で流れた。

 3回目の時間停止は終わった。

 残り2回。



「もう休み時間も終わりよ。行きましょう」とナミが言った。

 鉄壁のガードだった。クソ。最強様に何もできなかった。

「そうだな」と俺は言った。

 そして自分の教室に向かうために歩き始める。


 キンコーンカンコーン、とチャイムの音が鳴った。


 俺は聞き逃さなかった。教室の中で女の子達が喋りながら自分の席に向かって行く足音を。

 俺は立ち止まった。

「どうしたの?」とネコタソが尋ねた。

 シー、と俺は指を一本立てる。

「もう先生が来るよ」とナミが言って、俺の腕を引っ張る。

 チャイムが鳴っているのに、なぜ3年の教室に先生が来ていないのか? と不思議に思わなかった。どうせ遅れているんだろう。

 3年の教室から聞こえる物音を聞いて、最強様を守るように集まっていた女の子達が自分の席に帰っているのを想像した。

 磨りガラスに映らないように俺は屈み、3年の教室の扉の前に戻った。

「なにしてるのよ」とナミが付いて来る。

 扉を少し開けて中を覗くと、ビンゴ。

 最強様から女の子達は離れて自分の席に戻っていた。

 俺は時間を止めるためにストップウォッチを押した。

 4回目である。残り1回。


『ビー、ビー、ビー』と甲高い音が聞こえた。



          ☆



 私は最強女子である。キモデブモンスター襲来を私視点で少しだけ読んでほしい。パニック映画そのものだった。どうやらキモデブモンスターは私目当てで、女の子を2人連れて3年の教室にやって来るらしい。モニタリングしていることはバレてはいけない。頭上から黒板を降ろしてモニターを隠した。

 でも私、襲われたらどうしよう?

 不安で泣きそうだった。

 あんな気持ち悪い生物に襲われたら私の体が汚れてしまう。

 私は可愛らしい女の子が好きだった。醜いものには触れられたくもなかった。

「大丈夫ですよ」とクラスメイトの1人が言った。

「私達が最強様のことを守りますので」


 そして女の子達は私を守るように取り囲んだのだ。

 そしてキモデブモンスターは襲来した。

 奴は扉を数センチだけ開けて、教室を覗いた。

 ヤバい、見つかる見つかる、と思っていると、女の子達の隙間からキモデブモンスターと目が合ってしまった。


 そして時間が停止の音が鳴り響いた。

『ビー、ビー、ビー』


 この音が鳴ると私達は身動きできなくなる。時間が停止した世界で男性が女の子にイタズラをして性行為をしやすくするために企画である。

 それになにより、これを考えたのは私なのである。立案者の私がルールを破ることはできない。それに3年生達の使命は女の子達に子どもを孕ませることである。そのためなら私達は何だってしなければいけないのだ。それが今の日本のためなのだ。


 停止した世界でキモデブモンスターが教室にドスドスと入って来た。恐怖で寒気がした。


「お尻を出した子、一等賞」とキモデブモンスターが奇妙な歌を唄っている。「夕焼け小焼けでまた明日、また明日」


 私からは見えないが、私を守っている女の子達が何かをされている様子だった。身動きはしていないが、数名の女の子達の眉毛がピクピクと動いていた。……彼女達が男性嫌いであるかは知らないけど、せめて何かをされているのであれば私みたいに男性嫌いではなく、好きでいてほしい。


 キモデブモンスターが床を這いつくばってやって来るのが見えた。

 デレっとしたキモい顔だけが女の子の足の隙間から見えたのだ。

 ヤバいコッチに来てしまう。機転を効かせた女の子がキモデブモンスターにバレないように足を少しだけ動かし、男性を通れなくした。よし、よくやった。

 キモデブモンスターが帰って行く。

 5分という時間を設定して本当に良かった。涙が出そう。

 そして彼は教室から出て行った。


 時間停止の終わりを示す、『終わりました』と機械音が聞こえた。

 キモデブモンスターが去って行くのが廊下側の磨りガラスでわかった。

 私は大きく安堵のため息を付いた。

「みんなありがとう」と私は呟いた。

 

 キンコーンカンコーン、とチャイムの音。

 各々が自分の机に帰って行く。

 

 マジでキモかった。あんなものに触られた日には、触られた箇所を剥ぎ取らなくてはいけない。


「なにしてるのよ」

 と部活の後輩の声が廊下から聞こえた。

 彼女はキモデブモンスターに付いて来ていた。

 部活の後輩が廊下側の磨りガラスに薄っすらと見えた。

 そこに誰かがいるように、教室の扉の前で彼女は立ち止まった。


 教室の扉には少しだけ隙間があった。

 その隙間からキモデブモンスターのギラギラした目玉が見えた。


『ビー、ビー、ビー』と停止の音が鳴った。


 安堵などしてはいけなかったのだ。

 まだキモデブモンスターは去っていなかったのだ。

 私を守ってくれる女の子達は席に帰っていた。


 身動きできない状況で、世界が停止したという設定の中で、キモデブモンスターはガラガラガラと教室の扉を開けて中に入って来る。

 そしてドスドスと重たい体を動かして、私のところに一直線でやって来たのだ。

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