第11話 棒を穴に入れる
車に入った直後に、女子高生に顔面スプレーを吹きかけられた。気づいたら俺は眠っていた。もしかしたら催眠スプレーをかけられたのかもしれない。
嫌な夢を見てしまう。
夢の中では実家にいた時の自分の部屋にいた。
みんな俺のことを見て笑っている、と自意識過剰になっていた時期は遠の昔に過ぎていた。
誰も俺のことを知らない。
窓から見える外の景色が怖かった。隣の家の幼井ナミは、すでに家を出て結婚したらしい。
同級生達も就職して結婚したのかもしれない。すでに俺のことを笑う奴等はいなかった。だけど俺のことを知る奴等もいなかった。小さい部屋で俺は1人取り残されていた。
1日の終わりを示す夕日が怖かった。みんなが寝静まった夜が怖かった。1日の始まりの朝が怖かった。時間が流れて行くのが怖かった。俺は何をしているんだろう? 俺は何をしたいんだろう? 俺は何をしなければいけないんだろう? ずっとココにいるんだろうか?
この小さな部屋は俺のことを守るけど、俺を閉じ込めた。
目覚めると頭が痛かった。
体を動かそうとするも動かない。両手に鎖が付けられている。
足にも鎖がつけられていた。
辺りを見渡す。大きなベッド。机。ソファー。1つ1つの家具が高価そうだった。大豪邸の一室のような部屋である。
どうやら俺は簡易ベッドに仰向けに縛り付けられている。
「お嬢様、男性が起きましたよ」
声がした方を見るとメイド服を着た美少女が立っていた。
どこかで見たことがある? あれ? この子は同じクラスじゃなかったっけ? お昼休みにイチコが乱入して来た時に止めに入ってくれた美少女A。その子がメイド服を着て立っていた。
「よく眠れましたか?」
とイチコが俺の顔を覗いて来た。
彼女は黒縁メガネを外し、お下げにしていた髪ゴムも外していた。
目がクリッとしたトップアイドル級の美少女だった。
「これは何だよ?」
「逃げられないようにしただけです」
「逃げないから外してくれ」と俺が言う。
「いいですよ。ただし棒を穴に突っ込んだ後でなら」
上等じゃねぇーか。
「上等じゃねぇーか」と思ったことを俺は口に出していた。
これはこれでありじゃねぇーか。
「これはこれでありじゃねぇーか」と思ったことを口にしていた。
「しかもメイドさんに見られてヤるなんて、さらに2倍で興奮するじゃねぇーか」
「この人は何を言っているんですか?」とイチコがメイドに尋ねた。
「喜んでいるみたいです」
「そう」とイチコが頷く。
「それじゃあさっそく、棒を穴に突っ込まさせてもらいますね」
フフフ、とイチコが笑った。
「それじゃあメイ。棒を持って来てください」
え? 今イチコはなんて言った?
メイっていうのは、メイド(美少女A)のことだろう。
棒を持って来てください、とイチコは言ったのだ。
おかしな発言である。棒なら俺が持っている。持っている、というか取り付いている。なのにイチコはなぜ棒が必要あるんだろうか?
パンを作る時に生地を延ばすような木の棒をイチコはメイドから受け取った。
「穴はどこかしら?」
パニックだった。
意味がわからん。
コイツは何をしているんだろうか?
「穴って、この穴でいいのかしら?」
イチコは棒で俺の唇に触れた。
「あーん、してください」
なにかよくわからんけど、もしかしたら気持ちがいいのかな? 新しいプレイなのかな? と思った俺はお口を開けた。
「よくできました」
彼女は、そう言って俺の口に棒を突っ込んで来た。
オェーーーー。
喉の奥まで棒を突っ込んできやがった。全然、気持ちよくなんてねぇー。夕飯に食べたオムライスを戻しそう。
俺は顔を振って棒から逃げる。
「苦しい」と俺が言う。
「妊娠するには大切な行為です」
「これで妊娠するか!」と俺は叫んだ。
さらにイチコは棒を口に突っ込んできそうだったから、俺は首を振って棒から逃げた。
「メイ、田中太一君の頭を押さえてください」
「かしこまりました」
メイドが俺の頭を抑える。
「口を開けてください」
メイドに鼻を摘まれた。苦しくて、口を開けてしまう。
空いた口の中に、イチコは棒を突っ込んで来た。
3人の痴女に襲われてカホタンが助けに来てくれた時に言っていた言葉を思い出していた。
カホタンは言ったのだ。「奪い合って男性が死んだケースもあるのよ。次からは優しく接してあげて」。
こんなことをされていたら死ぬかもしれない。カホタンが言う通り男性が1人で外を歩くのは危険だった。
喉元に棒を突っ込まれ、涙が次から次に溢れ出す。嗚咽も出る。
助けてカホタン、と俺は心の中で叫んだ。
胃酸が口からいっぱい出る。
「いっぱい出て来た。やっぱり穴ってお口の事だったんですね」
絶対に間違った知識を持っている。
俺は何も言えず、泣きながら目を瞑った。
棒が口から取り出された。
ようやく俺は息をした。ハァハァ、と酸素を体が求めていた。
「……やめてください」
と俺は泣きながら言った。
「ダメですよ。だって私は妊娠しなくちゃいけないんですから」
こんなんで妊娠できないよ、と伝える間も無く、また口の中に棒を突っ込まれた。
助けてカホタン。
胃の中の物は全部、出尽くしてしまった。酸っぱい匂いが辺りを立ち込めている。
俺は意識が飛びそうだった。
「ちょっと疲れました。それに服がいっぱい汚れちゃいました」
とイチコが言った。
「私ちょっとお風呂に入ってきます。メイはココの掃除をお願いします」
「かしこまりました」
イチコが部屋を出て行く。
恐怖からの解放だった。
美少女メイドは雑巾とバケツを持って来て、俺が吐き出した汚物の掃除を始めた。
「家に帰りたい」と俺は言った。
「帰してもえらますよ」
「今すぐ帰りたい」
「それは無理です。イチコ様が妊娠したら帰してあげます」
「こんなんで妊娠するか。やり方が違う」
家に帰してくれ、家に帰してくれ、と俺はメイドに伝えた。でも彼女は返事をしてくれなかった。
そして掃除が終わった。
美少女メイドと2人っきりの部屋。
なぜか彼女が棒を持っていた。
「先ほどやり方が違う、とおっしゃいましたね。どこの穴なんですか?」
棒の先端を俺に向けた。
「お前も俺のことを狙っているのか」
「どこの穴なんですか?」
「俺の穴じゃねぇーよ。俺は棒役で、穴役は女性の方だよ」
「そんな嘘をおっしゃらなくても結構ですよ」
本気で言っているのか? 知識が無いのか?
「そう言えば、コッチにも穴がありましたね」
棒をお尻に当てられた。ズボン越しでダメージは無いけど恐怖が全身を覆った。
「その穴はイヤー」と俺は叫んだ。
「正解なんですね」とメイが言う。
「正解じゃねぇーよ。正解って何だよ。お前の性知識が全て間違ってんだよ」
「この穴を試させてもらいます」
ガチャ、と扉が開いてイチコが入って来る。
女子高生の格好から、ピンク色のシルクのパジャマに着替えていた。
「何しているの?」
「はい」とメイドが少し焦っている。
「男性に別の穴があることを発見しました」
「どこですか?」
とイチコが尋ねた。
美少女メイドは棒でお尻を指した。
「そうね。そこも試してみましょうか?」
イチコはそう言って、机に置いていたリモコンを手に取った。
リモコンの操作でベッドガードが動くらしく、俺はカエルのような足の形にさせられる。
「ちょっとだけズボンを切りましょうか?」とイチコが言う。
引き出しから大きなハサミを美少女メイドが取り出して、イチコに渡した。
シャキン、シャキン、とハサミを閉じたり、開いたりしている。
「イヤーーーーー」と俺は叫んだ。
ドン、と扉が開かれた。2人とも開けられた扉を見る。
そこにいたのは俺が待ち望んだ人だった。
「梶さん」と俺が叫んだ。
カホタンが扉の前に立っていた。
「男性の拉致監禁はかなり重たい罪になります」
イチコは持っていたハサミを手放した。
「私達は拉致していたわけじゃありません」
「いくら頑固家と言っても、この罪は免れることはできませんよ」
イチコが腰を落としてアヒル座りをした。絶望している顔だった。
カホタンが助けに来てくれたのだ。
「大丈夫?」とカホタンが俺を覗いて尋ねる。
うんうん、と俺は頷く。
「わかってるよ」と彼女が言う。
「この子達は太一を拉致した訳じゃないんだよね?」
いや、コイツ等は俺を拉致したよ。
でも泣きすぎて言葉が口を出ない。
もしかして3人の痴女を俺が庇ったことによって、イチコとメイドの2人も俺は庇うとカホタンは思ったのかもしれない。
「田中太一君」とイチコが言った。彼女の目が潤んでいる。
「今回はあなた達がしたことは不問にしておくわ」と冷たい声でカホタンが言った。
「……」
イチコが泣いている。なんでお前が泣いているんだよ? それを美少女メイドが慰めるように背中をさすっていた。
泣きたいのは俺の方だよ。
「太一の優しさで今回は不問にするだけで次は無いからね」
「はい」とイチコが言った。
「自由に恋愛はしてくれて結構なのよ。男性と恋愛するための学校なんだから」とカホタンが言った。
俺みたいな何者でもないキモデブのおっさんのせいで美少女が罪に問われるようなことはあってはいけないとは思う。
だからコレでよかったのだ。
俺はカホタンに連れられて、家に帰った。
貞操逆転世界が怖いとこだと俺はようやく理解した。
◆◆◆お礼・感謝・お詫び◆◆◆
第1章の【幼馴染と絶対にヤれるラブコメ。そして女子高生に拾われる】をお読みいただき、ありがとうございました。このエピソードで1章は終わりです。
続きのエピソードを書こうかどうか悩んでおります。評価が高ければ連載を続行していく、というゴミグズみたいな考えを持っております。
少しでも続きが気になる、読みたい、という方がいましたら星をいただけると頑張っちゃいます。
読みたくねぇーよ、という方がいましたら何もせずに放置していただけるとフェイドアウトしていきます。
1章分、読んでいただけたことを心から感謝します。ココまで書けたのは読者様のおかげでございます。
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