第10話 女子高生に拾われる

 シャワーから浴びるとご飯が用意されていた。

 オムライスとかぼちゃのスープ。

 俺は目の前で食べているカホタンと目を合わすことができない。

 彼女に触れられた感触が、まだ体に残っている。

「美味しい?」

「……美味しいです」

 と答えるのが精一杯だった。


 オムライスを食べきると俺は部屋に戻った。

「絶対に覗かないでくださいね」

 と俺は『鶴の恩返し』みたいな事をカホタンに言った。

 今から俺は絶対に覗かれてはいけないことをするのだ。

「わかったわよ」とカホタンは言って微笑んだ。


 アソコが大変な事になっている。早く楽にさせてあげたい。

 男性読者諸君、男だったら楽にする方法は1つしかないことはわかっているだろう。


 扉を閉める。扉には鍵が付いていない。だから覗かれないように念押ししたのだ。

 部屋は八畳ぐらいの広々とした空間だった。柔らかいベッドに勉強机があるだけ。

 俺はベッドに寝転がった。

 まずは布団の中に潜った。


 おかずは大量にある。

 今日のおかずはロッカーの中の幼井ナミ。痴女の3人。浴室のカホタン。

 下半身にはビール瓶が具現化されている。

 過激な性的描写にならないように文学的な表現を使っていく。文学というのは文章の芸術という意味である。

 俺は布団の中でズボンを下ろし、ビール瓶を握った。

 これから俺はカチカチになったビール瓶の具現化能力を解除するために文学をするのだ。←こんな隠語を使いまくっていたら何をするかサッパリわかんねぇーな。

 ビール瓶を握りしめた。

 今日のロッカーの出来事を思い出す。

 ナミが目の前にいた。彼女とロッカーで密着。ナミは俺の具現化したビール瓶を触った。

「なにこれ?」

 ロッカーの隙間から溢れる光で、彼女の口の中が見えた。喋るとナミの舌が動く。

「なにこれって聞いてるの?」

 彼女がベルトを外す。


 3人の痴女に拉致されたことを思い出す。

 キャバ子が俺のズボンを下ろす。

 パンツを脱がされると俺のビール瓶があらわになった。

 一気に飲んじゃってくれ。俺のビールを一気に飲んじゃってくれ。


「怪我はない? 染みない?」とカホタンが俺のビール瓶をグビグビと飲みながら尋ねた。

ビール瓶をラッパ飲みしているもんだから声がこもっている。


 気づいてたら邪魔だった布団を蹴っていた。

 そして俺は仰向けになって文学的なことをしている。ビール瓶から泡が出そう。


 その時に気づいてしまった。

 誰かの視線に。

 俺は扉の方を見た。

 

 扉を少し開けて、カホタンが文学的なことをしている俺のことを見ている。

 体が一気に熱くなった。慌ててズボンを上げた。


「絶対に見ないでくれ、って言ったでしょ」

 俺は怒鳴っていた。恩返しをしていた鶴も同じ気持ちだったと思う。

 見られてしまったら、もうココにはいれない。

 俺はベッドから立ち上がり、扉を開けた。


「ごめんなさい。何しているのかなって思って」

 とカホタンが言う。

 彼女でも許せないことがある。

 

 文学的なことをしている姿を俺は誰にも見られたくなかった。

 恥ずかしさで息もできない。


 俺はカホタンを通り過ぎて、玄関にあった靴を履いた。


「どこ行くの?」


「あの姿を見られたからには、一緒にはいられない」

 と俺は言って玄関の扉を開けて、家を出た。


 恥ずぃ。

 ただ純粋に恥ずかしい。

 俺、誰にも見られた事がなかった。

 もし文学的なことをしている時に彼女が部屋に入って来て、俺の具現化したビール瓶を口にくわえて、中の泡を全て飲んでくれていたら許したかもしれない。

 だけど彼女はジッと俺が文学的なことをしているのを見ていたのだ。

 一体、どんな気持ちで見ていたんだよ?


 浴室の時も同じである。

 裸で入って来て、体をキレイキレイしてくれたのに、その先が無かった。

 もしその先をしていてくれていたら俺だって文学的なことはせずに済んだはずなのだ。

 もし俺のビール瓶を口にくわえて飲んでくれていたら、俺だってこんな恥ずかしい思いはしなかったのだ。


 1人でしているところを見られて、死ぬほど恥ずかしくて、俺は家を出た。



 そして俺は走った。

 引きこもっていたから体力がなくて……なんだったら膝も痛くて、俺は路上の隅に腰を下ろした。

 ちょっと走っただけなのに息が上がって苦しい。

 もっと体力をつけなくちゃいけない。

 

 今まで俺は何をやっていたんだろう?

 高校の時に家に引きこもって以降、何もしてこなかった。

 みんな俺に好意を抱いてくれる未来の日本に来ても、俺は何もしていない。

 自分のビール瓶を飲んでほしいのなら、カホタンにそう伝えるべきだったんじゃないか?

 そんなことを伝えたら嫌われるような気がした。

 でも体をキレイキレイしてくれるほど彼女は俺のことに好意を抱いていたんじゃないか?


 俺は自分に自信がなかった。

 誰かにヤられて、好きだと言われたい。

 そしたら少しは自信がつくような気がした。


 目の前に車が止まった気がした。

 俺は地面を見つめていた。

 だから誰かが目の前に来た気配だけは感じた。

 カホタンが迎えに来たんだろう、と思った。

「田中太一君? どうしたんですか?」

 顔を上げると、そこにはイチコだった。

 黒縁メガネでおさげ。頑固一子。

「……なんでもない」と俺は言った。

「こんなところに男性が1人でいたら危ないですよ」

「危ないぐらいが丁度いい」

 と俺は言う。

 今、俺は誰かに無茶苦茶にされたい気分だった。

「いいから車の中に入ってください」

 イチコが俺の腕を握った。

 夕日が沈みかけだった。

 世界はオレンジ色に染まり、全てが美しく見えるマジックアワー。

 イチコは黒縁メガネを外し、お下げにしていた髪ゴムを取った。

 やっぱり美しかった。

 彼女の力は意外と強く、俺は無理矢理に立たされた。

 美しい彼女になら無茶苦茶にされてもいいように思えた。

 彼女の乗っていた車に乗せられた。

 俺は女子高生に拾われたのだ。

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