第8話 シャワーを浴びていたらカホタンが入って来る

 ドン、ドン、ドン、と車を誰かが叩く暴力的な音はしばらく続いた。俺だって恐怖で硬直している。

 3人の女の子達は抱き合っていた。

 そして扉が開いて壊された。

 そこにいたのはエプロン姿のカホタンだった。

「太一君、大丈夫?」

 俺は焦った。

 母親にエロ本を見つかってしまった時のように焦った。

「いや、なにもないよ」

 と俺は言った。

 カホタンが車の中に入って来た。

 そして俺の腕に巻かれたロープを解き、3人を睨んだ。

 3人は「ヒッ」と小さい悲鳴を漏らす。

「男性の拉致監禁はかなり重たい罪になりますよ」

 えっ? この子達、罪に問われるの?

 絶対にそんなことをさせてはいけない、と思った。

 俺32歳だぜ。こんな乙女が俺のせいで罪を作ってはいけない。

「梶さん違うんです」と俺が言う。「この子達は俺を拉致した訳じゃないです」

「……」

 カホタンが俺を見る。

 今の俺は服を脱がされてロープで腕を巻かれている。

「梶さんが校門の前にいなかったから、この子達に送ってもらっていたんです」

「家の方向とは反対方向だけど」

 厳しい声だった。

「未来の日本がどうなっているのか見せてくれていたんです」

「服の乱れは? なんで拘束されていたの?」

「遊びです。王様ゲームという俺の時代の遊びをしていたんです」

「本当?」

 とカホタンが3人を睨んで尋ねる。カホタンの目は3人を殺してしまいそうだった。

 ポクリ、ポクリ、と3人が頷く。

「わかった。今回はあなた達がしたことは不問にしておくわ」

 と冷たい声でカホタンが言った。


 よかった。こんな俺のために美少女が罪を問われなくて。


「アナタ達は太一と同じクラスの子達よね?」とカホタンが言った。

 3人がポクリと頷く。

 えっーーーー、そうなの? 知らんかった。俺、全然周りを見ていなさすぎて気づきもしなかった。

「奪い合って男性が死んだケースもあるのよ。次からは優しく接してあげて」

 とカホタンが言う。

 どんな奪い合いをしたら男性が死ぬんだよ?

「それと初性行為者が選ばれているという噂が広がっているけど、政府ではそんな人を選んでいない。自由に恋愛はしてくれて結構なのよ。こんな風に車に閉じ込めなくても」


「それじゃあ、幼井さんより先に性行為してもいいって言うんですか?」とアイ子が尋ねた。

「そうよ」

 3人が喜んでいる。


 カホタンが手早く、俺の乱れた服を直してくれた。

「太一君、立てる?」

「はい」と俺が頷く。

 カホタンは俺の手を握り、引っ張って行く。

 俺は3人に言わなくちゃいけない事があった。


「それじゃあ、学校で」

 俺は手を振った。

 3人は嬉しそうに手を振り返した。

 本当は、最後までしたかった。

 俺が外に出歩いたら、こんなに素晴らしい事が待っているんだ。



 今まで乗っていた車の目の前に車が止まっていた。当たる前に停止するシステムなんだろう。

 車に乗り込んでソファーに座るとカホタンに頭をギュッと抱きしめられた。

「バカ」

 と彼女が言った。

 彼女の柔らかい風船みたいな胸が俺の顔に押し付けられる。

 たまりません。

「男の人が1人で出歩いたら危ないって言ったじゃない」

「すみません」

 カホタンがギュを解除する。

 そして俺の顔を見た。

「どこも怪我してない?」

「してないです」

「帰ったら確認する」

「本当にどこも怪我してないです」

「同じクラスの女の子だからよかったものの、野良の女性だったら絶対にあんな事やこんな事もされていたんだからね」

 あんな事やこんな事? 

 それはたまりませんな。

 またカホタンが俺に胸を押し当ててギュッとした。


「よかった。太一が無事で」


 ずっとこうしておきたかった。

 だけど家に辿り着いてしまった。




「先にシャワーを浴びて」とカホタンに言われて、俺は脱衣所に行く。

 制服をハンガーにかけて皺にならないようにハンガーラックにかけ、ブラウスや下着はカゴに入れる。

 お風呂に入った。

 湯は湧いていない。

 

 今日は色々あったな、と思いながらシャワーを浴びた。

 頭を洗い終えた頃に脱衣所の方に人影があった。

 お風呂の扉は曇りガラスになっていて……ごめん、正式に曇りガラスって名前かどうかはわからんけど、ハッキリとガラス越しに何となく人が見えるようになっている。

「タオル、ここに置いておくわね」

「はい」と俺が返事をする。

 カホタンが奥さんなら、いい奥さんになるんだろうなぁ、と思った。

 あれ? 人影が消えない。

 それどころかモゾモゾと動いている。

 俺はシャワーを止めた。

 バサっ、バサっ、と服が床に落とされて行く音がする。


 そして扉が開けられる。

 そこにいたのは、生まれた状態のカホタンの姿。


 俺は思わず、「うわぁ」と叫びながら、男性にとっての宝物を隠した。奪われると思っているわけじゃなく、見られたら恥ずかしい、と思って咄嗟に隠してしまった。

「入るわね」と彼女が言う。

俺は彼女を見ないように、見られないように壁の方に向いた。

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