第4話 密着! ロッカーの中で

 やってまいりました放課後イベンド。

 ナミが俺の隣で寄り添うように座っていた。机の上には数学の教科書とノートが一冊ずつ。

 茶色味が多い四角い教室にいるのは俺とナミの2人だけだった。

 遠くの方で誰かの声がする。窓には青い空。太陽の光が電気の代わりをしている。

「太一って本当にバカなのね。純粋に計算間違いしてるじゃない」

「どこ?」

「7×5=」

「42」

「本当にバカなのね」

「35って知ってたし」

「ほらココも計算間違いしてるじゃない」

 とナミは言って、ノートを指差した。

 細くて綺麗な指が俺の手に触れた。

「どこ?」

 指が触れたことも気づかないフリをして俺は尋ねた。

「だからココだって」

 俺は彼女の指が計算間違いしている箇所を指せないように妨害した。

「せっかく教えてあげているのに。そんなことをするんだ」

 とナミが怒っている。

「そんなことをする子にはこうするよ」

 と彼女は言って俺の手の甲を抓った。

「痛っ」と俺は言って、彼女の細い手をギュッと握った。

 そのまま俺とナミは見つめ合ってしまった。


 やっべー、甘酸っぺーーー。

 なにこれ? こんなことしてもいいんですか? つーか女の子の手を握るのは初めてなんですけどー。

 胸の高鳴りが半端じゃねぇー。

 ちょっとフザけてやってたけど、指が触れるだけで心臓がはち切れそう。

 しかも見つめ合っちゃってるし。

 ナミの目、超綺麗。

 見つめ合うのも恥ずかしい。

 緊張するけどココで目を反らしたら負けである。

 見つめ合って何するのよ?

 

 ナミが手をギュッと握り返した。


 それだけで俺の下半身がペットボトル化してしまう。←過激な性表現になってしまうので比喩的な表現を使わさせていただきます。

 俺のアレが2リットルのペットボトルになってしまう。

 見栄を張っているわけじゃない。500ミリリットルの貧弱なペットボトルじゃなくて、2リットルのペットボトルである。


 彼女のスカートから生えている生足が俺の足に当たった。

 

 ちなみに俺のペットボトルの中に入っているジュースはコーラーである。いっぱい振ってキャップを開けたら吹き出しちゃう。←なに言ってんだよ。マジで。


「男の人の手って柔らかいんだね」

 と彼女が顔を真っ赤にして呟いた。

 それはオイドンが太ってるからなんだよ。

「ごめん。手を握られているのイヤだったよね」と俺は言う。「わざとじゃないよ。本当にわざと手を握ったわけじゃなくて、たまたま握っちゃたんだ。ごめん」

 と俺は言って、手を離した。


 危ねぇ。手を握れてラッキーと思っていた。

 気持ち悪いと思われてねぇーかな?


 彼女が首を横に振った。

「もっと握っといてほしい」

 と彼女が俺の手を握った。


 ペットボトルを振ってもいいでしょうか? 炭酸が強めのコーラーが入っているペットボトルを振ってもよろしいでしょうか? 


 ナミ様の生足が、さっき以上に俺に接触している。


「女の子の手って細くて冷たいんだね」

 と俺は言った。

 うわぁ、俺、なにを言ってんだよ。

 キモいことを言っちゃった。

 何が女の子の手って細くて冷たいんだね、だよ。


「……私、冷え性なの」

 とナミが言う。


 手をスリスリして温めてあげようか? と言おうとした。

 言う前に言葉を飲み込んだ。

 気持ち悪いのがわかったのだ。


「太一の手が暖かいから、ちょうどいいね」

「手をスリスリして温めてあげようか?」と俺は言った。

 飲み込んだ言葉を吐き出してんじゃねぇーよ。俺は何を言ってんだよ。せっかく気持ち悪いから言わないでおこうと我慢したモノを言ってんじゃねぇーよ。


「お願いします」

 とナミが言った。


 お願いされてんじゃねぇーか。


「それじゃあ、さっそくスリスリさせていただきます」

 と俺は言う。

 俺の返しがキモい。

 なんでこんな返しをしちゃうかな? 自分がおぞましいわ。略してオゾマ。


 俺は彼女の手をスリスリし始めた。

 細いのに、スベスベな肌。舐めちゃいたい。


「細いのにスベスベの肌。舐めちゃいたい」と俺は言った。

 俺はバカなのか? 部屋に引きこもりすぎて考えていることを喋ってしまう癖がついてしまっている。

「舐めないでよ」と彼女は言って、クスクスと笑った。

 笑って許してくれた。ありがてぇー。


 ごぎげんで俺がナミのオテテをスリスリしていると教室に誰かが向かって来るような足音が聞こえた。

 俺は扉を見つめた。


「コッチ」

 ナミが立ち上がって俺を引っ張った。

「なに?」

「誰かが来るみたい」

「えっ?」

「隠れよう」

「なんで?」

「邪魔されたくない」


 俺はナミに押し込まれるような形でロッカーの中に入った。掃除道具が入っているロッカーである。イメージしているロッカーよりも少し大きめだった。だけど巨漢にはキツイ。誰が巨漢なんだよ。腹筋だってシックスパックじゃ。そしてナミも俺と同じロッカーに入って来る。

 ギュウギュウだった。

 そしてロッカーは閉められた。


 吐く息が彼女にかかるぐらいの距離。俺の息臭くないかな? 大丈夫かな? 虫歯になったら歯医者に行かないといけないので小さい頃から歯はちゃんと磨く派だった。俺の胃が腐ってなければ息は大丈夫なはず。

 ナミが吐く息も俺の首元にかかっていた。最高である。この扇風機があればほしいぐらいだ。彼女の吐く息は生暖かく、ミントの匂いがした。もしかして俺に気を使って勉強会の前に歯を磨いて来たのかな?


 ガラガラガラ。

 教室の扉が開いた。


 俺達はロッカーの冊子状の隙間から教室を覗いた。


 教室に入って来たのはお下げで黒縁メガネのイチコだった。

 彼女は俺達が勉強していた机までトボトボと歩いて来た。


「勉強をほったらかしてどこに行ったんでしょうか?」

 とイチコが呟いた。


 なんか緊張した。

 ロッカーの中に隠れている緊張。それにナミと密着している緊張。そして見つかるんじゃないかっていう緊張。

 勉強していることはバレてもよかったはずなのに、隠れてしまったら見つかってはいけない。

 それに女子とロッカーに2人で入っていることはバレてはいけなかった。

 複数の緊張で胸がドキドキと高鳴っている。

 ヤバい、心臓がもたない。

 

 ナミの腕が俺の体に巻きついてきた。

 つまり彼女が俺に抱きついてきた。


 密着したロッカーの中で見つめ合う。

 ロッカーの隙間から溢れるわずかな光。

 彼女の顔は水でグショグショだった。

 なんで水でグショグショなんだ?

 俺の体から滴り出る汗が彼女の顔を濡らしていた。


 ごめんなさい。キモいことを考えました。

 ちょっと別のお話をさせていただきます。

 海外でアニメが放送される時に、アニメの中でも血液の描写が放送禁止になっている国がある。そういう国では血液を白い液体として描写されるらしい。返り血を顔に浴びた美女は変な行為をされた後みたいになってしまうのだ。

 顔面がグショグショになっているナミを見て、俺はそういうことを想像しました。キモいと感じた方はチャンネル登録をお願いします。←もうこの世界にはYouTubeみたいなモノはないのか? 


 そんなキモいことを考えてしまったことで、どういう現象になってしまったのか?


 さっきまで2リットルのペットボトルが……みたいな比喩表現をさせていただきました。でも2リットルペットボトルを抱えていたらロッカーでは邪魔になる。

 それがナミに当たって気持ち悪がられるのがイヤだから、俺は必死に沈めていた。


 沈め方は簡単である。

 想像するのだ。ペットボトルのキャップを外し、その飲み口のところにプラスドライバーをねじ込むような想像。そうすれば男なら誰しもがヒュンとなる。そのヒュンを使って荒ぶる戦士を鎮めるのじゃ。


 でも、その想像をかき消すように、ナミ様の顔面がビショビショになって変なことを考えてしまった。

 2リットルのペットボトルが下半身に具現化してしまう。

 お尻を引こうにもココはロッカーでギュウギュウである。


 だから当たってしまうのだ。

 コーラーを注ぎましょうか? とコップに当たってしまうのだ。←別に過激な性表現をしてるんじゃないからね。この表現が逆にエチエチだと思う人がエチエチなんだからね。


 彼女は俺の胸に顔を埋めた。

 なにをしてんだよ? 

 そうか。ギュウギュウすぎて腕が使えないみたい。

 腕が使えないから俺の胸で汁を拭いているらしい。

 ナミが俺の胸で顔を埋めてクスぐったい。


「ごめん」と彼女が言った。「汗が目に入って」

 彼女は俺の胸に顔を埋めながら左右に首を振った。


「なにこれ?」

 下半身のペットボトルにナミが気づいてしまった。


 お尻を思いっきり引いてしまった。

 狭いロッカー。

 お尻を引いたことによってドンと音が鳴ってしまった。


「なにしてんのよ」

 とナミが俺の耳元で囁く。

 そして彼女がロッカーの隙間を覗いた。


 俺もロッカーの隙間を覗く。


 イチコがロッカーに向かって歩いて来ていた。

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