第3話 幼馴染と絶対にヤれるラブコメじゃねぇ?

 教室には女の子しかいない。めちゃくちゃ美少女揃いである。

 若干一名だけアレな子も混じっている。でも30名ぐらいのクラスでアレな子が1人だけって優秀すぎる。アレな子というのは黒縁メガネで三つ編みお下げの女の子である。1人だけイモい。いや、逆にテンプレ的な委員長感があっていいのかもしれない。他の女の子はすげぇー美少女達である。


 みんな俺から距離を取って、俺のことを観察している。

 女子校に男が1人だけいる状態である。しかもおっさんである。キモいとかデブとか学生の頃は言われていたけど、角度を変えればイケメン俳優である。ちょうど斜め上からのアングルが仮◯ライダーに採用されそうなイケメンである。

 自分がイケメンであることは知っていた。知っていたけど誰も近づいて来ないのは辛い。俺から喋り掛けるのは足がすくんで無理である。

 正直に言うと気まずい。

 なぜ気まずいのに学校に来ているのか? それはナミがいるからだった。彼女は犬のように俺の周りをウロチョロしていた。



 お昼休みである。

「またお弁当を持って来てないの?」と彼女は尋ねた。

 お世話係のカホタンはうっかり屋らしく、お弁当を作ってくれなかった。転校してからの3日間、ナミが俺のお弁当を持って来てくれていた。

 今も彼女の手にはお弁当箱が2つ握られている。

「持って来てないんだよ」

「太一のために作ったんじゃないからね」

 と彼女は言って、俺にお弁当を差し出した。

「それじゃあ誰のために、このお弁当を作ったの?」と俺は尋ねた。

 俺のためじゃなかったら、なぜわざわざお弁当を2個作って来たんだろう? 謎である。

「たまたま今日は2個作って来てしまっただけなんだから」

「それじゃあコレは俺のために作ったんじゃないのか。納得だわ」

「太一のために作ったのよ」

「俺のためか」

 俺は驚く。

 ナミが俺のためにお弁当を作って来てくれたのだ。

 しかも、この会話は3日連続でしている。

 3日目でも新鮮に驚く俺であった。


「隣座っていい?」

 とナミが尋ねた。

「膝の上でもいいよ」

 と俺は冗談で言った。

 調子に乗って言ったわけじゃない。これは冗談で言ったつもりだったのだ。

「膝の上に座っていいの?」と恥ずかしそうにナミが聞く。

 冗談ですよ、とも言えなかった。

 もしかしてマジで座ってくれるの?

「よかろう」と俺は言っていた。

 彼女が顔を真っ赤にして、俺の膝の上に座った。

 女の子特有の甘い香りがした。

 ドン引かれるかもしれないけど、お尻の割れ目が太ももで感じた。


 急ではありますが、ココでペットボトルの描写をさせていただきます。

 カチカチのペットボトル。ペットボトルの中には少しだけ水が入っている。

 キャップをデコピンで倒すと遠心力で立ち上がって来る。

 


 下半身が生理現象で痛かった。痛すぎた。

 本当に膝の上に座って来るとは思わなかったんだもん。生きててよかった。

 ナミが俺を見て、赤い顔をさらに真っ赤にさせた。

 なにかすげぇー嫌なことを言われると身構えた。


「私が太一の膝の上に乗っていたら、太一がお弁当食べれないよね」

 と彼女が言った。

 あれ? 特に嫌なことは言われなかった。

 ナミは立ち上がり、俺と極力密着するように椅子を配置して座った。


 これってまさか? 幼馴染と絶対にヤレるラブコメじゃねぇ?


「お弁当を作って来てあげたんだから、ちゃんと食べなさいよ」

「はい」と俺は返事をする。

 ちなみにナミの性格はおせっかいお姉ちゃんである。彼女には弟と妹がいる。

 あっ、それは俺の本当の幼馴染の方のナミか。でも、すごい似ているのだ。そしてナミの子孫でもある彼女もおせっかいお姉ちゃんの属性を持っている。こうしてお弁当を持って来てくれるのも、おせっかいお姉ちゃんの属性を発揮しているんだろう。

 中学までは勉強も教えてくれたし、運動もできない俺のために逆上がりの仕方も教えてくれた。


 不意に奥深くに仕舞い込んでいた傷を思い出してしまう。

「ナミってイボイボキモデブと付き合ってるの?」と同級生の女の子が彼女に尋ねた。

 イボイボキモデブとは俺のことらしい。その当時の俺はニキビっ面でイボイボでもあった。

「そんな訳ないじゃん。だって太一はキモいもん」とナミが言った。

 彼女が言ったキモいの言い方は不快感があるものではなかった。この時はまだ親しみを込めたキモいだった。

「それじゃあ、あんまり喋らん方がいいよ。ナミの価値が下がるから」


 不意に思い出した古傷。

 俺は胸を抑える。息が出来ん。

 目の前にいる彼女も俺のことをキモいと思っているのか? いや、そんな事はどうでもいいのだ。俺と喋ることで彼女の価値が下がるんじゃないだろうか? 俺なんかと一緒にお弁当を食べていても大丈夫なんだろうか? さっきまで有頂天で絶対にヤれるわ、と童貞が勝手に思っていたけど、昔のことを思い出したら胸が苦しくなってしまった。


「大丈夫?」

 と彼女が俺の背中をさすった。

「顔色悪いよ? 保健室行く?」

「ナミの方こそ、大丈夫なのかよ」

 と俺は尋ねた。

「俺と一緒にいたら価値が下がるかもしれねぇーぞ」

「価値?」

「俺と一緒にいたら、他の友達から嫌われるかもしれねぇーぞ」

 と俺は別の言い方をした。

 俺の発言は、今の彼女ではなく、過去のナミに言ったものなのかもしれない。


「バカじゃないの? 価値なんて下がらないし、もし仮に友達から嫌われても、私は太一と一緒にいたいんだからね」


 彼女は怒っていた。

 ずっと俺は彼女に、そう言ってほしかったんだ。


「ありがとう」

「変な事を考えてないで、弁当を食え」

「わかりやした」

 と俺は言って、お弁当の包みを広げて、蓋を開けた。

 彼女が作ってくれたお弁当のご飯には、肉そぼろでハートマークが書かれていた。これってもしかして食べると一機アップするんじゃねぇ? 一機というのはマ◯オで言うところの緑のきのこである。


 愛妻弁当を食べているとアレな子が来た。俺は別に許容範囲よ。みんな美少女で彼女だけがちょっとイモい、と思ったけど、それでもアタイの千里眼は彼女の美しい顔を見抜いていた。メガネをかけていてもわかる。メガネを外したら美人じゃん、ってラブコメであるけど、実際は美人がメガネをかけて三つ編みお下げにしていても美人なのだ。


「田中太一君、ちょっといいかしら?」

 と厳しい声で三つ編みお下げが言った。

「田中太一君は全然勉強が追いついてないみたいですけど」

「今、お弁当を食べているんだけど」

 とナミが言った。

「お弁当食べているところ失礼しますわ」と三つ編みメガネが言う。

「委員長として忠告しています。アナタの学力では、この学校に通う資格はありません」

 ガーン。

 そうです。ワタス全然さっぱり高校の勉強がわかりませんでした。英語なんて呪文だし、数学なんて落書きに見える。

「放課後、私が勉強を教えてあげます」

 と三つ編みメガネが言う。

「大丈夫。私が教えるから」とナミが言った。

「アナタに勉強が教えられますの?」


「ちょっとイチコ」

 同じクラスの美少女Aが三つ編みメガネを引っ張って行く。

「まだダメよ。ナミが最初の性行為者なんだから。まだ私達は関わっちゃダメなのよ」

「そんなの、おかしいです」と三つ編みメガネが言った。「そのルールは公平じゃございません」

「最初だけは男の人も緊張するから、そう決まったんでしょ」

「なぜナミさんだけ特別扱いなんですの?」

 2人が何を喋っているのかは俺にはわからなかった。

 セイコウイシャ? ナミは特別? なんじゃそれ?


「あの子は誰?」と俺は尋ねた。

頑固一子がんこいちこ

 頑固一徹の女の子バージョンみたいな名前だった。

「委員長なの?」

「そうよ。ちょっと融通が効かないところがあるんだけど、悪い子じゃないからね」

「そうなんだ」


「そうだ」とナミが何かを思いついたように言った。

「太一はバカだから放課後になったら私が勉強を教えてあげる」

 よっしゃーーー。ようわからんけどイチコの乱入のおかげで放課後の勉強会をゲッド。

「いいの?」

「別に太一のためじゃないんだからね。私も予習したいだけなんだからね」

「そうか。だから勉強会をやるのか。納得だわ」

「バカなの? 太一のために決まってるじゃん」

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