57
一体何が起きたのか。
自分に起きていることが理解できない一心ではあったが、彼はたしかにある人物のことを感じていた。
「トゥルー……トゥルーなのかッ!?」
そう――。
一心の体から現れた青い炎は、彼を
どうして彼女の特殊能力が自分の身を守ったのかはわからなかったが、一心はトゥルーのことを感じて涙が止まらなくなっていた。
組織のために一心を騙し、自らを燃やした少女。
それでも命尽きる最後まで一心のことを気にかけていた彼女は、ずっと自分の傍にいてくれたのだと。
「どんなことをしても幸せになってね、一心……」
トゥルーの声が聞こえる。
それは一心にだけ聞こえる幻聴だったかもしれない。
しかし、それでも青い炎は一心の拳に集中し、彼に戦えと言っているようだった。
「トゥルゥゥゥッ!!」
一心は青い炎をまとってニッコロへと飛びかかり、その燃える拳でその胴体を貫いた。
青い炎と赤い炎が交差し、ニッコロ·ロッシの全身が光の粒子となって消滅していく。
悪魔や魔獣マテリアル·バーサーカー、さらには
ニッコロが光の粒子となって空に消えていくと共に、一心のまとっていた青い炎も消えていく。
その次第に消えていく青い炎には、
「トゥルー!? トゥルートゥルートゥルゥゥゥッ!!」
一心はただ少女の名を叫んだ。
まるで赤子が母を恋しくて泣き喚くように、その消えていく彼女の姿に手を伸ばし、喉が枯れるまで声を出し続けた。
彼の止まらぬ声と涙は、燃え盛る屋敷を覆っていた炎が消えても止まることはなかった。
――その後、対魔組織ディヴィジョンズのメンバーは回収された。
全員生き残っていたのもあって、もみじの癒しの力で皆の傷を治したが、
さらに
人的被害以外でいえば、姫野家の屋敷はほぼ全焼。
「静さん……。起きてこねぇのかよ……」
一心、もみじ、鬼頭は静と虎徹がいる病院のロビーで顔を顔を合わせていた。
ポツリと呟くように言った一心の表情は暗い。
それはもみじと鬼頭も同じだ
今回の戦闘で誰も命を落とすことはなかったが、二人の怪我の具合が一心たちから笑みを奪っていた。
だが、それでも悪魔との戦いは終わらない。
これからも彼らは戦っていかなければならない。
もみじなどは自分の傷を治せないのもあって、全身が包帯だらけだ。
沈んだ空気の中、鬼頭が口を開く。
「アメリカ支部から応援の要請が入った。日本支部からは俺と、一心、もみじが行く。
「おいおいッ! もみじは酷いケガしてんだぞ!? 俺と鬼頭さんだけでいいだろ、そこはッ!?」
「
鬼頭がもみじのほうへ視線を動かすと、一心も彼女のことを見た。
二人に見られたもみじはフンッと鼻を鳴らすと、両腕を組む。
「こんなのたいしたことない。あんたもそう言ってたでしょうが」
「いや違うだろッあのときとはッ!? つーか休めるときは休めよ! 大体ゆきのヤツは止めなかったのかよ!?」
「あの子が私を止めるはずないじゃない。ゆきも家の雑務が落ちつき次第、私たちと合流するしね」
一心が返事を聞いて呆れていると、もみじはそんな彼の背中をバンッと思いっきり叩いた。
「いってぇなッ! いきなりなにすんだよ!?」
「いや、なんとなく。叩きたくなったから」
「はぁッ!? おい鬼頭さん! もみじのヤツ頭がおかしくなってるぞ! やっぱ置いて行こうぜ、こんなの」
「こんなのとはずいぶんな言い草じゃない。誰があんたの怪我を治してやったと思ってんの」
「汚ねぇぞ! それを言われたら俺、なにも言えねぇじゃねぇかッ!」
「うん、知っている」
「かぁぁぁ……。なんかお前、性格悪くなってねぇか?」
軽口を叩き合う一心ともみじを見て、鬼頭はやれやれとため息をついたが、その後にクスッと微笑んでいた。
これからさらに
「一人でなに笑ってんの鬼頭さん? ロサンゼルスに行くなら準備しなきゃ、早く何を持っていけばいいか教えてくれよ」
「ああ、わかった。なら買い物にでも行くか。もみじも付き合え」
鬼頭は一心にそう答えると、もみじにも声をかけて三人で病院を後にするのだった。
了
対魔組織ディヴィジョンズ コラム @oto_no_oto
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