53
ゆきや
出入り口から炎が踊るように溢れ出し、まるで生き物のように蠢いていた。
さらには部屋の中からは爆発音まで聞こえてくる。
おそらく保管されていた銃器や爆発物に火が付いたのだろう。
これでは炎から生き延びていたとしても一溜りもない。
「あぁ……ゆき、源じい、虎徹さん、静さんも……みんな……みんなぁ……」
燃え盛る部屋を見つめ、もみじは放心状態になりかけていた。
今の彼女の心を支配しているのは自分の慢心への罪悪感だ。
油断しなければこんなことにはならなかった。
相手が自分の弱点を知っていてもおかしくなかったというのにと、もみじは炎の鎖で焦げていく自分の体のことなど忘れ、ただ後悔の念に押し潰されそうになっている。
「これで後は
ニッコロは足元に転がるもみじの頭を踏みつけながら笑う。
たかがこれしきのことで戦意を失った少女に呆れながらも、まだこんなもんじゃないと言葉を続ける。
「おい返事しろよ、姫野もみじ。まさか今のを見てイカれちまったのか? 勘弁してくれよ、オレはまだ満足しちゃいねぇってのによぉ」
ニッコロは踏みつける足の力を強めていく。
「本当の地獄はこれからだぜ。反応がなきゃつまらねぇだろ。泣いて喚いて、もっとオレを楽しませろよッ!」
声を張り上げ、自分の勝利を確信したニッコロ。
だが次の瞬間に、彼は自分の背後に何かが現れたことを察する。
「足を退けろ」
声が聞こえてニッコロが振り返ると、少しの間もなく顔面に拳が食い込んでいた。
その一撃で、先ほどもみじに倒されたフェラーリ·ラ·フェラーリの化け物のところまで吹き飛ばされる。
頬がクレーターのようにへこみ、首がおかしな方向へと曲がっている。
ニッコロは今まで喰らった魔力のこもった攻撃で、ここまで痛みを感じたことはなかった。
誰がやったのかはわかるが、まさかと見上げると――。
「テメェかよッ!? 小僧ッ!」
そこには
怒りで身を震わせている一心の後ろには、ディヴィジョンズ――日本支部の部隊長である
「大丈夫か、もみじ!?」
現れた一心はもみじに声をかけ、鬼頭も駆け寄ってくる。
鬼頭はもみじの体を縛っている炎の鎖を見ると、一心に向かって言う。
「一心、お前ならこの枷を外せる。もみじを解放したら二人で奴に当たれ。まだ戦えるよな、もみじ?」
鬼頭に問いかけられたもみじは部隊長に答える。
「戦えます。ですが私のミスで皆が……」
もみじが燃え盛る部屋を見つめながらそう言うと、鬼頭はそれとなく状況を察した。
それから彼は、一心が彼女の炎の鎖を引き千切るのを確認すると、二人に声をかける。
「あいつらがあの程度で死ぬはずないだろう。あっちのことは俺に任せて、お前は一心と悪魔を殲滅しろ」
鬼頭はそう言うと、燃え盛る部屋へと飛び込んでいった。
その背中を見ながらもみじは思う。
鬼頭の言う通りだ。
虎徹と静は自分が悪魔や魔獣と戦う前からずっと戦場にいたのだ。
ゆきだって努力を重ね、現場で戦えるくらいの実力をつけている。
源に関しては、代々姫野家を暴力団や裏社会の人間たちから守ってきた人間だ。
皆、このくらいのことで死ぬはずがない。
自分の身内に弱い人間はいないと言っておきながら、仲間のことをどこか下に見ていたと、もみじは猛省する。
「早く立てよ、もみじ! あのイタリア野郎にやり返してやろうぜ!」
一心に発破をかけられ、もみじは身体を起こす。
手を借りず、自分の足で立ち上がる。
「そんなこと言われるまでもない! さっさと片付けるよ、一心ッ!」
「おうッ! あいつをとっ捕まえてホロのいる場所を吐かせてやる!」
並んで身構えた一心ともみじは、同時にニッコロへと飛びかかった。
繰り出される二人の拳と蹴りの嵐に、さすがの悪魔も炎を出して身を守る隙さえない。
実戦経験があまりない一心と、魔力に劣るもみじ。
一人ずつならば対応できるが、さすがに
しかも近距離での肉弾戦において、所詮は訓練などしていない元マフィアであるニッコロでは分が悪過ぎる状況だ。
「汚ねぇぞ、テメェらッ! そうやって二人掛かりでホロをボロボロにしやがったんだなッ!」
「汚いってなんだよそれ? 俺はホロの居場所を知りたいだけだ! お前の都合なんて知るかッ!」
「悪魔にかける情けはないッ!」
ニッコロの悲痛な叫びに叫び返し、一心ともみじの蹴りが同時に顔面を打ち抜いた。
正面からは一心の回し蹴り。
後頭部からはもみじの延髄蹴りが首へと決まり、二人の鉈のような鋭い蹴りでニッコロの顔が胴体から切り離された。
「こんなガキどもなんぞにぃぃぃッ!」
ニッコロの叫びも空しく、彼の首は廊下の床に転がった。
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