52
もみじとニッコロでは、持っている魔力の強さに差があった。
彼女には元々魔力の適性がなく、
だが、それでももみじには父の仇を討つという執念がある。
けして折れない復讐の柱がある。
これまでの悪魔や魔獣との戦いでも、もみじは魔力が劣る分、持ち前の戦闘技術でカバーしてきた。
今回も同じだ。
白いキツネの悪魔ホロと契約したニッコロ·ロッシの魔力は、もみじの魔力を遥かに超えているが、彼女はけして引くことなく渡り合っている。
リーチの差を間合いの取り方で埋め、タフさで劣る分はディフェンス力で補う。
「どうしたの? 見た目が変わっただけで大したことないじゃない」
さらに相手を挑発し、相手の感情を逆なですることで戦い方を単調なものへとさせる心理的誘導も忘れない。
ニッコロは怒りに身を任せ、ナイフのような形状をした爪や牙を振るうが、呼吸ひとつ乱さないもみじには届かない。
一見して彼女が優勢に見えていた。
しかし、ニッコロは攻撃を避けられ、カウンターで小突かれながらも歪んだ笑みを崩してはいない。
怒りこそ感じているようだが、どこか余裕があることにもみじが違和感を覚えていると、ニッコロが突然叫ぶ。
「今だ! 部屋の中に入った奴らを殺せッ!」
それまで唸りながらも動かずにいたフェラーリ·ラ·フェラーリの化け物――車のマテリアル·バーサーカーが、ニッコロに指示されて動き出す。
けたたましいエンジン音と咆哮をあげて、武器のある部屋――ゆきと
「ハッハハハハッ! ここでオレの相手をしているお前は中にいる奴らを助けに行けねぇだろ? せいぜい自分の無力さを感じやがれ!」
ニッコロ·ロッシは声を張り上げた。
もみじは嬉しそうにしながらも攻撃の手を緩めない敵を見据えながら思う。
なんだ、余裕の笑みはこんなことだったのかと。
もみじは、歓喜の声をあげて爪を突き出してきてニッコロの攻撃を避け、敵の背後に回るとその胴回りを両手で掴んだ。
それから力任せに放り投げる。
それはプロレス技の一種――ジャーマン·スープレックスだ。
ちなみに日本名は原爆固めという。
本来は相手の背後から両腕を回して腰をクラッチし、そのまま相手を後方へと反り投げ、ブリッジした状態でフォールを奪う技だが。
もみじは投げっぱなしジャーマンと呼ばれる、ホールドしないただ相手を投げ飛ばすだけの技を繰り出した。
空中に投げ出されたニッコロはすぐに羽を使って体勢を整えようとしたが、先に壁に衝突。
ぶつかった衝撃で突き抜け、そのまま廊下から姿を消した。
それからもみじは倒れた状態から首跳ね起き――ネックスプリングで起き上がり、フェラーリ·ラ·フェラーリの化け物へと飛びかかる。
「私がこのくらい予想できないと思っていたみたいだけど。甘いんだよ、田舎マフィアが」
側面から蹴り飛ばし、その衝撃でひっくり返った魔獣の中心へと跳躍。
仰向けになった状態――犬や猫などの動物でいうならば腹の部分へフットスタンプ(これもプロレスの技だ)を喰らわせ、そのままルーフまで貫いた。
その一撃で車のマテリアル·バーサーカーは完全沈黙。
ガソリンではなく真っ赤な血を噴き出しながら、その動きを止めた。
もみじの強さは圧倒的だった。
おそらく彼女は
その強さは経験と修練に裏打ちされた、確かなものだった。
たとえ魔力が低くとも、彼女に敵う者はそうはいない。
「やるな……。そうじゃなきゃ張り合いがねぇ」
崩れた壁からニッコロが現れた。
ダメージ自体は大したことなさそうだが、こうなればもみじと一対一。
とても勝ち目はないと思われたが、それでもニッコロ·ロッシは笑っていた。
もみじはそんな敵を不可解に思いながらも歩を進め、声をかける。
「あとはあんた一人だけ。大人しくするなら命だけは助けてあげる。ただし
「オレはもう悪魔なんだぜ。人間の法律なんか適用されねぇよ。それに、お楽しみはまだまだこれからだッ!」
ニッコロの叫びと共に、その全身から赤い炎が放たれた。
その炎は鎖のような形状となると、もみじの体へとまとわりつき拘束。
身動きができなくなった彼女を見下ろして、ニッコロは近づく。
「くッ!? こんなもので私を止められるとッ!」
「ホロから聞いたぜ。お前は
ニッコロの言う通り、魔力で劣るもみじではまとわりついた枷を外せなかった。
まさかこんな手を残していたとはと、もみじは身をよじりながらなんとか抜けようとするが、炎の鎖はさらに彼女をきつく縛っていく。
対魔戦において、魔力で造られた物質は、それを超える魔力でなければ破壊することはできない。
ニッコロは床に転がったまま次第に焼かれていくもみじを見て笑うと、武器のある部屋へと歩を進める。
「さっき言ったとおりお前は最後に殺す。部屋の中にいる奴らが武器を持とうが関係ねぇ。なんたって部屋ごと燃やしちまえばいいからな」
「やめろッ!」
「いい顔するじゃねぇかよ、姫野もみじ。そうだ、オレはその顔が見たかった。でもよ、仲間が死ねばもっといい顔を見せてくれんだろうな」
ニッコロは恍惚の表情を浮かべると、掌をかざし、もみじの仲間たちがいる部屋へ炎を放った。
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