51
車のマテリアル·バーサーカーの開いたボンネットには、血塗れの
左腕がないところを見ると、おそらく食い千切られてたのだろう。
出血が多いせいなのかその顔色は死人のようで、生きているのかもわからない状態だった。
「こんなところにいやがったのか。うん? おいおい、ランボルギーニをやったのかよ? くくく、さすがじゃねぇかよッ!」
ニッコロがその場の状況を見て高笑いすると、フェラーリ·ラ·フェラーリの化け物はくわえていた虎徹をペッと吐き出した。
もみじは放り出された虎徹へと走り、ニッコロはその様子を実に楽しそうに見ている。
「安心しろ。殺してねぇよ、そいつのことは」
声をかけてきたニッコロを無視し、もみじは虎徹に癒しの魔法を使う。
虫の息ではあったが、虎徹はニッコロの言う通り生きていた。
身体中が噛み千切られていたが、まだ呻き声をあげている。
これならば治せる、助けられる。
もみじは優しく身体に触れ、虎徹の身体を暖かい光が包んでいく。
骨まで見えていた身体部分が塞がっていき、傷こそ癒えたが、先ほどの
当然失った左腕も。
「なかなかの
「……黙れ」
虎徹の傷を治したもみじが呟くようにそう言うと、ニッコロはさらに口角を上げる。
悪魔となった男の歪んだ笑み。
怒りで身を震わせるもみじ。
両者がここで顔を突き合わせた。
ニッコロを見据えながら、もみじはゆきと源に声をかける。
「二人は虎徹さんと静さんを連れて武器のある部屋へ」
「ですがお姉さま! 相手は悪魔とマテリアル·バーサーカーです! いくらお姉さまでもッ!」
ゆきは声を張り上げて反論しようとした。
だが、そんな彼女を源が止め、老執事は深くその頭を下げた。
そして、いつもと変わらぬ口調でもみじに言う。
「虎徹さま、静さまはゆきお嬢さまに任せ、私は武器を入手次第すぐに戻って参ります。それならばよろしいでしょうか、もみじお嬢さま?」
「それならいい。……いつも気を使わせてごめんね、源じい」
「勿体ないお言葉。年寄りには染みてしまいますな。……お嬢さま、どうかご自愛を」
源はもみじに返事をすると、顔を上げてゆきの背中を叩いた。
そしてゆきごと静を肩に担ぐと、もみじの傍で倒れている虎徹を抱え、目の前にある武器のある部屋へ入っていく。
「くッ!? わたしはいつも役に立てません……」
「そんなことはございません。ゆきお嬢さまがいるからこそ、もみじお嬢さまは安心して戦えるのです。そのことを忘れてはなりません」
「源じい……。そうですよね。わたしはそのためにディヴィジョンズに入ったんですから」
源じいが肩に担がれながら運ばれるゆきを慰めると、彼女は顔を拭って答えた。
今は自分の非力さに落ち込んでいる場合ではない。
姉が全力で戦えるように、今はやれることをやれるだけだと、ゆきのはグッと歯を食い縛った。
もみじも源たちの後に続いたが、彼女は部屋の扉の前に立ち、静かにその口を開く。
「聞いてたでしょ? 早く私を倒さないと、うちの源じいが戻って来て、あんたらをぶっ殺すよ」
「安い挑発だな。だけど乗ってやるよ。女からの誘いは断らない主義なんだ」
ニッコロは車のマテリアル·バーサーカーから飛び降りると、もみじへと向かっていく。
ゆっくりと歩を進め、先ほどのようなにやけ面を消し、神妙な面持ちだ。
対するもみじの顔からは感情の色か消え去り、静のような無表情に変わっている。
ニッコロが彼女の前で足を止めると、対峙した両者の体からは魔力が溢れ出し始めていた。
「ここでやりあってもお前は殺さねぇ。お前は最後だ。お前の目の前で仲間を一人ひとり殺して、オレが味わった悔しさを味わわせてやる」
「あんたなんかに殺されるような弱い人間はディヴィジョンズにはいない。ま、みんなと会う前に、どうせあんたはこの場で私にやられるけどね」
「あのときのようにはいかねぇ。そのためにオレは強くなったんだ」
「おあいにく様。悪魔に魂を売るような奴にはどのみち破滅しかないってことを、私があんたの腐った脳みそに刻んであげる。この拳で」
そう言ってグッと握った拳を突き出したもみじ。
対するニッコロは歪んだ笑みを返し、その体をさらに悪魔らしい異形のものへと変えていく。
全身を肥大化させ、爪や歯――いや、牙が伸び、その両目は爬虫類のようになっていた。
その爪や牙がどこかナイフのような形状に見えるのは、ニッコロのこだわりが具現化したものといえるだろう。
二人がまとった魔力がぶつかり出し、廊下の奥までその衝撃が走る。
そして両者が同時に飛び出し、
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