50
――屋敷内へと入ったもみじたちは、真っ直ぐ武器のある部屋へと向かった。
中に入ってからずっと破壊音が鳴り響いているのもあって、もみじは嫌な予感がしていたが、それは見事に的中する。
「嘘でしょ……。
武器のある部屋の前までたどり着くと、そこには血塗れの静と、ランボルギーニ·ガヤルの化け物――車のマテリアル·バーサーカーがいた。
大きく開いたボンネットからは、静のものであろう赤い血が滴っている。
グッタリとしてる静を目の前にし、戸惑ってしまっていたもみじとゆきに向かって
「立ち止まってはいけません! 静さまにはまだ息があります! もみじお嬢さまの力ならば救えるッ!」
源の大声で我に返ったもみじとゆきは、すぐに表情を真剣なものへと変えて魔獣へと向かっていった。
源も当然彼女たちに続く。
互いに特に声をかけ合ったわけではないが、三人の息はピッタリだった。
もみじはまず、静を棘だらけタイヤで轢き殺そうとしてたところへと飛び込み、右腕を思いっきり振りかぶった。
すでに
「静さんから離れろッ! この化け物ッ!」
打撃技を得意し、武道を重んじるもみじらしかぬただの拳が、ランボルギーニ·ガヤルの化け物を吹き飛ばす。
その間に、ゆきは倒れている静のもとへと行き、彼女の状態を確認する。
大丈夫、静は生きている。
源の言う通り、静にはまだ辛うじて息があった。
ゆきがそのことを姉に目で合図すると、もみじは迷わず静のもとへと走る。
入れ替わりに源が車のマテリアル·バーサーカーへと向かっていき、その老人とは思えない怪力で魔獣のことを押さえ込んでいた。
魔導具から得た力なので、それは魔法といってもいい。
もみじの魔法は癒しの力。
対象が生きてさえいれば、たとえどんなに重傷でも傷を治すことができるものだ。
古い傷跡、たまった疲労の回復、四肢などの欠損は元には戻せないが、命を繋ぎとめることはできる。
「お姉さま早くッ!」
「わかってる! 静さん、すぐに治しますから」
もみじの手が静の身体に触れると、暖かい光が彼女を包み、食い千切られていた肩や腹部が再生していく。
まさに悪魔の力を手に入れた人間――
だが傷が深過ぎた影響なのか、静は意識を失ったままだった。
もみじはそんな彼女に向かって笑みを浮かべると、すぐに反転し、歯を剥き出しにしてランボルギーニ·ガヤルの化け物を睨みつける。
「ゆき、源じいが戻ったら静さんと一緒にここから離れて武器のある部屋へ行って。あの車の魔獣は私が始末する」
「お姉さまッ! ですが――ッ!」
もみじは妹の返事を聞く前にすでに走り出していた。
彼女の全身からは怒りがにじみ出ており、その全身が刺青のような模様だらけというのもあって人間に見えない。
もみじが忌み嫌う悪魔そのものだ。
「下がって源じい! あとは私がぁぁぁッ!」
もみじの叫び声と同時に、源は車のマテリアル·バーサーカーから離れた。
そして、次の瞬間にはランボルギーニ·ガヤルの化け物は宙を舞っていた。
まるで大型トラックと正面衝突したかのような勢いで長い通路を吹き飛んでいく。
これでは終わらない。
もみじはさらに追撃し、そのボンネットへと飛び乗って、ひたすら拳を振り落とす。
「死ね! 死ね死ね死ねぇぇぇッ!」
まるで癇癪を起した子供が物に当たるように、もみじの固く握った拳がボンネットをへこませ、やがて貫いていく。
ランボルギーニ·ガヤルの化け物はもう完全に動かなくなっても彼女の怒りは収まらないのか、飛散してバラバラになるまでその光景は続いた。
ゆきはそんな姉の姿を見て、思わず口元に手を当てている。
源のほうも見てられないのか、もみじから目を逸らしてしまっていた。
二人は狂気に取り憑かれたかのような彼女の姿に、胸を痛めるしかなかった。
「私からもう奪うな! この化け物ぉぉぉッ!」
そして、車のマテリアル·バーサーカーは粉々になった。
魔獣ながらも人間と同じ血を噴き出していたのもあって、もみじの体は返り血で真っ赤に染まっている。
「お嬢さま。これをお使いください」
立ったまま肩で息をしているもみじに、源じいがハンカチーフを差し出した。
もみじはそれを受け取ると、普段の彼女の表情に戻る。
「ありがとう、源じい。それにゆきも、おかげで静さんを助けられた」
受け取ったハンカチーフで顔にべったりとついた血を拭いながら、もみじは二人に微笑んだ。
その顔はどこか泣いているようにも見え、彼女の感情の高ぶりがどれだけ凄まじかったのかがわかる。
もう二度と大事な人を失いたくない。
それは静だけでなく、妹であるゆきや源、さらにディヴィジョンズのメンバーもそうだ。
そのために、命を捨てる覚悟で
もみじの複雑な表情は、そのことを物語っていると、ゆきと源は思った。
「お姉さま。戦闘後で申し訳ないのですが……」
「わかってるって。敵はまだ残っている。早く武器を取って残りの皆と合流しましょう」
ゆきの言葉にもみじが答えた次の瞬間。
けたたましいエンジン音が聞こえ、彼女たちがその音のするほうへ目をやるとそこには――。
「見つけたぞ! 姫野もみじッ!」
凄まじい速度で走ってくるフェラーリ·ラ·フェラーリの化け物と、その屋根の上に乗ったニッコロ·ロッシがいた。
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