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吹き飛ばされたニッコロは、そのまま火の海となった部屋の壁へと叩きつけられ、崩れた瓦礫に埋もれる。
「おい、一心。ここは一度引くぞ」
「えッ? なんでだよ? つーかさっきも逃げろとか言ってたし、みんなでやれば勝てるって俺が言ったばかりだったのにさ」
「こんな燃える室内で戦ったらお前やもみじはともかく、普通の人間は一酸化炭素中毒になる。それじゃ本末転倒だ」
「“いっさんかたんそちゅうどく”? “ほんまつてんとう”? あぁッ! 教えてもらってない言葉が出てきた!」
「簡単に言うと煙を吸い過ぎると動けなくなってことと、本来の目的をおろそかにし、どうでもよいところに力を入れてしまうことだ」
「なるほど。そういう意味なのか、“いっさんかたんそちゅうどく”と“ほんまつてんとう”は。よし覚えたぞ」
「ならとりあえずこの部屋から脱出し、お前の言う通り皆と合流して奴を叩くぞ」
「オッケー!」
こんな危機的状況で、普通の大人なら一心に駄々をこねられたら怒鳴りつけそうなものだが。
鬼頭は声を荒げることなく、彼がわからないと言ったことを説明して言うことを聞かせた。
もちろん二人に信頼関係があるからこそだが、一心はちゃんと向き合ってくれる相手には素直で、また鬼頭のほうは年下の相手が慣れているからといえる。
それと直接褒めているわけではないが、鬼頭は会話の節々に相手を肯定する言葉を差し込む。
先ほどのでいえば“お前の言う通り”がそうだろう。
これは一心のような十代の若者でなくても効果的だ。
称賛されているわけではなくとも、なんとなく肯定されていることは、人の気分を良くするものだ。
無愛想でとても愛嬌がある人物とはいえないが、鬼頭
この要領の良さをもっと出世のために使っていれば、彼は今頃こんなところで悪魔と戦ってなどいなかったであろう。
陸将にでもなって、どこぞ基地から指示を出す人間になっていたはずだ。
だが、そんな鬼頭だからこそ一心は信頼する。
それはもみじ、ゆき
「それでどこで合流するんだ?」
鬼頭と共に燃え盛る部屋を出た一心は訊ねた。
全員バラバラに飛び出したのに、誰がどこにいるのかわかるのかと。
長い廊下を走りながら鬼頭は答える。
「場所ならわかっている。あいつらも同じことを考えてるはずだ」
返事を聞いた一心は、何故同じことを考えていると言えるのだろうと小首を傾げながらも、まあいいかと鬼頭について行った。
――その頃、ニッコロは燃え盛る室内で佇んでいた。
肥大化した両腕で覆い被さった瓦礫を吹き飛ばし、辺りをキョロキョロと見回している。
「逃げられたか……。面倒だなぁ」
ニッコロは一心たちが消えていたことにチッと舌打ちをし、ストライプ柄のジャケットからあるものを取り出す。
それは小さな玩具の車――三台のミニカーだった。
シボレー·コルベット、ランボルギーニ·ガヤル、フェラーリ·ラ·フェラーリなどの車好きなら誰もが憧れるものだ。
ニッコロが手に取ったミニカーに魔力を込めて放ると、それが次第に大きくなっていく。
その姿は車の形状を残しつつも異形で、四つのタイヤはハリネズミのように棘だらけで、さらに開いたボンネットの中はまるで鮫の口のようになっていた。
この異形の姿は、
「でも、こういうときのためのマテリアル·バーサーカーってな。いや~パクってきておいて正解だったぜ」
カカッと高笑いながらニッコロは巨大化した高級車の屋根へと乗ると、車のマテリアル·バーサーカーが動き出す。
火の海となった部屋の壁を突き破り、姫野家の屋敷を法定速度を無視したスピードで走っていく。
両腕を組み、フェラーリ·ラ·フェラーリの屋根に立つニッコロは、その口角を上げながら叫ぶ。
「こっからは狩りだ! せいぜい逃げろよ、
壁はもちろんのこと、屋敷内を破壊しながら進んでいく車のマテリアル·バーサーカー。
ニッコロを乗せたフェラーリ·ラ·フェラーリとは別行動を取り、血の匂いを追う肉食獣のようなシボレー·コルベット、ランボルギーニ·ガヤルの二台も、それぞれディヴィジョンズのメンバーを探し始めていた。
それを見てニッコロは驚いている。
「こいつはいいや。オレが指示しなくても勝手に動いてくれやがる。こりゃ人間の兵隊よりもよっぽど役に立つ」
今発した言葉からして、ニッコロが
彼と契約をした白いキツネの悪魔ホロの姿もない。
どうやらもみじたちの予想通り、ニッコロ·ロッシは組織の意向を無視してマテリアル·バーサーカーを勝手に連れ、ディヴィジョンズ日本支部の面々を襲撃してきたようだ。
その理由もまた個人的なもので、彼が以前に宣戦布告してたように沖縄での借りを返すためだろう。
数こそ少ないが、連れてきたマテリアル·バーサーカーはこれまでのものよりも強力そうで、何よりもニッコロはまだ本気を出していない。
ニッコロは自分の勝ちを確信している。
後はどうやって一心たちを殺すかしか考えていなかった。
「マテリアル·バーサーカーよりも先に、あの女……姫野もみじを見つけなきゃなぁぁぁッ!」
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