34
――建物内すべてのフロアを確認し終えたディヴィジョンズのメンバーたちが笑い合っている頃。
二階で拘束されていたニッコロ·ロッシは意識を取り戻していた。
身体を白いキツネの悪魔――ホロの丸太のような腕に巻きつけられた状態だった彼は、呻きながらも口を開く。
「ホロ……。生きてるか? 生きてるなら返事しろよぉ……」
ニッコロが何度も声をかけていると、ホロは目を覚ました。
だが魔力がこもった100マイルテープで両腕と両足に縛られているため、身体を動かすことはできないようだ。
それともみじによって絞め落とされたダメージが残っているのだろう。
その影響で、ろくな返事もできない状態だった。
「生きてるんだな……。そいつはよかった……。こっちはもう全滅してるだろうが、お前がいればまだオレは……」
ニッコロは痛みで顔を引きつらせながらも笑ってみせる。
そして、気が付いた白いキツネの悪魔に言葉を続けた。
こうなったら悪魔にでもなんでもなってやると。
「言ってよな、お前……。オレさえよかったら、この仕事が終わったら本物の悪魔になるかって、よ。気が変わった。今だ、今してくれ。その悪魔になる契約ってヤツをよぉ……」
「だ、代償があると……言っておいたけど……。君はそれでもなるのかい? 悪魔に……?」
ようやく声を発したホロに訊ねられ、ニッコロはさらに口角を上げた。
このまま捕まればファミリーに迷惑がかかる。
自分が死ぬだけなら構わないが、それだけはごめんだと。
「君という奴は、やはり人間離れしてるよ……。どうしてそこまで他人に尽くせるんだ……。それじゃ悪魔じゃなくて天使だよ……」
「へへ、オレととっちゃお前も天使だぜ、
息も絶え絶えのニッコロは、再び意識を失った。
そんな彼を見たホロは、その巨体を震わせる。
「後悔は……しないだろうね、君は……。まあ、ボクにとっては得しかないからいいんだ、けどね……」
ホロはそう呟くように言うと詠唱を始める。
「……来たれ冥府を抜け出しし者、地獄を支配する者、汝、夜を旅する者、昼の敵、闇の父母にして支配者よ。流された血を喜ぶ者、影の中墓場をさまよう者よ」
ホロとニッコロが倒れている床に、まるで二人を包むように魔法陣が現れた。
禍々しいオーラを放ちながら、その輝きがニッコロの身体を覆っていく。
「あまたの魂を抱かしめる者よ。冥界に落ち、歪んだの形を持つ月の庇護のもとに、今目の前にいる男、我と契約を結ばん……」
詠唱を終えると、ニッコロの纏った光がホロと彼を縛っていた100マイルテープを引き裂いた。
ホロの姿が、もとの可愛らしい白いキツネへと戻っていく。
それとは反対に、ニッコロの身体にはコウモリのような羽が背中に生え、さらには
その姿は神話などに出てくる悪魔の見た目そのままだ。
ニッコロは立ち上がると、自分の両手や全身を見て戸惑っていたが、すぐに不敵な笑みを浮かべる。
「こいつが契約か? 代償っていっても見た目以外にどこも変化はなさそうだが……」
「君が死んだ後、その魂はボクらの神のものとなる。そうなったら君の魂は二度と安息を迎えることはないよ……」
「なんだよ? たかがそんなことかぁ。死んだ後のことを考えるバカはいねぇだろ。これならさっさと契約しておけばよかったぜ」
ニッコロは小さくなったホロを抱き上げると、翼を広げて窓から飛び出した。
鳥が飛び方を自然に理解できるように、彼もまた自然と空を飛んでいく。
「とりあえずお前の仲間のとこに行こう。悪魔の傷の治し方とかわかんねぇしな」
「そいつは助かるねぇ……。。でも、ボクのことなんか放っておけばいいのに、どうして助けてくれるんだい?」
「聞くまでもねぇ。 お前はオレの
そう言ったニッコロは、ホロを抱いていた腕に力を込めると、物凄い速度で沖縄から去っていった。
彼に抱かれながらホロは思う。
トゥルーもそうだったが、どうして人間にはこうも差があるのだろうと。
悪魔と名を聞くだけで敵だと言いだす者がいる。
だが、まだ
態度も言葉もバラバラだ。
自分たち悪魔は人間の敵で利用こそするが、一貫して区別している。
そこが決定的に違う。
人間のように差は出ない。
どうしてそうなるのかよくわからない。
大きな理由は社会的立場だろうが、格差なら悪魔の中にもある。
上級悪魔、下級悪魔などだ。
個々の能力に差があるので人間社会と同じく立場や待遇は違うが、それでも不満を口にする者も、それが理由で虐げられる者もいない。
同族同士で殺し合ったりもしない。
そう考えると、人間は悪魔よりも悪魔的なのかもしれないとホロはぼんやりと思っていた。
「大丈夫か、ホロ? 疲れてるとこわりぃが、早く場所を教えてくれよ」
「えッ? あぁ……。じゃあ、このまま南極海へ……」
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