29
――建物の二階へと上がっていた
先ほどと同じように一気に距離を詰めての肉弾戦へと持ち込み、息の合ったコンビネーションでカモリスタたちを叩きのめしていた。
「よし、これで外にいる
「えッ!? もみじお前、そんなことまで考えてたのかよ!?」
一心はもみじの言葉を聞き、素っ頓狂な声をあげた。
それは彼からすれば、ただ建物内で暴れ回っているだけだと思っていたからだ。
もちろん魔導具を取り返すという目的はあったが、やたらと敵と戦いたがったもみじに、まさかそんな考えがあったことに驚かされたのだ。
そんな一心を見て、もみじのほうは呆れている。
「あんたねぇ……。それくらいは頭に入れておきなさい。ただ暴れるだけじゃ勝てる戦いも勝てないじゃないの」
「わかった。覚えとく」
「素直でよろしい。じゃあ一度一階に戻るよ」
「えッ? なんでわざわざ戻るんだよ? せっかくここまで来たのに」
「わかれよ、もう……」
小首を傾げている一心に、もみじはまた呆れた。
彼女は先ほど建物内に凄い衝撃があったことを言い、今いる二階を見た様子から、何かが一階に落ちた可能性があると説明をする。
「逃げようとしているのか。それとも
「言われてみるとそうだな。よし、じゃあ急いで戻ろう」
「あんたって……勧められればなんでもやりそうね……」
もみじは素直というよりも、機械的に相手の意見を受け入れる一心を見て、呆れるよりも心配になっていた。
今どき子供でももう少し疑ったり反論したりするようなものだがと、この先の人生でかなり苦労しそうだと苦い顔をする。
「これで魔力の適性が高いんだもの……。そりゃ
「なにひとりでブツブツ言ってんだ? ほら、さっさと行こうぜ」
一心が階段へと向かおうとすると、二人の前に白いキツネ――ホロが現れた。
突然壁から現れた敵に、もみじは臨戦態勢に入ったが――。
「ホロッ!? やっと見つけたぞ。面倒かけやがってよ。こんなとこ早く出て一緒に帰ろう」
一心は笑みを浮かべながら声をかけていた。
そんな彼の態度に、味方のもみじも敵のホロは戸惑いを覚えていた。
両者からすれば当然だろう。
何故敵に向かって、まるで友人にでも会ったかのように接するのかと思ってしょうがない。
妙な空気が二階を埋めつくし、いつまでも返事がないのもあって、一心が再び口を開く。
「もしかして殺されるとか思ってたのか? 大丈夫だぞ、ホロ。騙されたって思ってたけど、俺はお前と友だちのままだし。あと今鬼頭さんって人と一緒に住んでるんだけど、スゲーいい人でさ。魔導具を返してちゃんと謝れば許してくれるって」
「なにふざけたこと言ってんだよ!」
一心の態度に呆気にとられていたもみじだったが、今聞いた言葉で我に返り、いきなり怒鳴り始めた。
この白いキツネは悪魔だ。
世界中の人間を殺している
利用されていたことを忘れたのかと、もみじは一心に向かって叫び、そのときの彼女の形相は殺気すら感じさせた。
だが一心は特に気にした様子はなく、不可解そうに返事をする。
「なんでそんな怒ってんだよ? こいつはちょっと意地悪だけどいいヤツだからさ。俺のことだって助けてくれたし、ホロが謝れば鬼頭さんもわかってくれるだろ」
「あんたはこの悪魔と自分が同じだって思ってんの!? どんだけバカなんだよ!」
「同じだろ? だってお前も言ってたじゃん。俺を仲間にした理由は、
「悪魔が人間の味方になるはずないだろ! なんでそんなこともわかんないんだよ!」
「お前にはわかんないかもしれないけどな! トゥルーとホロは俺にとって大事なんだよ! お前こそなんでそんなに怒ってんだよ!? 仲間が増えるんだからいいじゃねぇか!」
一心は今でもホロを友だちだと思っている。
だが、そんなことはあり得ないと、もみじはこれまで一心が見たことないほど怒っていた。
そんな彼女の態度に、一心にも我慢の限界が訪れ、それからけしてわかり合うことのない不毛な言い争いが始まる。
しばらくの間、互いに平行線のまま舌戦を続ける二人に向かって、ホロがようやく口を開く。
「姫野もみじだったね。君はそんなに悪魔が嫌いかい?」
ホロが訊ねると一心の表情がゆるみ、反対にもみじは凄まじい形相で白いキツネを睨み返す。
それでもホロは動じることなく、彼女に同じことを訊ねた。
どうしてそこまで悪魔を憎むのだ。
何か特別な理由があるのかと、いつもおどけた調子で言葉を続けると――。
「私の父さんはあんたたち
もみじは歯を剥き出しにし、今にも飛び掛かろうと身構えて答えた。
そんな彼女の前を一心が遮ると、ホロは再び口を開く。
「そうかい。なら君はボクと同じだ」
「同じ!? ふざけたこと言わないで! 退いて一心! じゃないとあんたもッ!」
もみじが目の前を遮っている一心を退かそうとすると、ホロは言う。
「同じだよ。だってボクの家族は人間たちに殺されたんだからね~」
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