28

――建物の外では、鬼頭おにがしらたちが窓からマシンガンを撃ってくるイタリアンマフィアのカモッラ――カモリスタたちと銃撃戦を繰り広げていた。


最初こそ面食らっていたものの相手は所詮素人。


軍人であるディヴィジョンズらに一日の長があったため、次第に状況は好転していた。


「よし今だ。虎徹こてつしずか! お前たちも中へ突入しろ! ここは俺とゆきで抑える」


鬼頭の指示と敵の手が弱まってきていたのもあって、虎徹と静も建物へと走り出した。


弾丸の雨を掻い潜り、鬼頭とゆきの援護を受けながら、ようやく突入に成功。


廊下に転がっているカモリスタたちの死体に目をやりながら、サブマシンガンを構えて進んでいく。


「くっそ! 思ったよりも手こずったな!」


「私たちにはあの子たちみたいな真似はできないからしょうがない。お嬢たち、無茶してなきゃいいけど」


虎徹が顔を歪めながら自分たちの不甲斐なさを口にすると、静はフォローした。


先に突入した一心いっしんたちとは違い、残るディヴィジョンズのメンバーたちは普通の人間だ。


すぐに二人に続こうとしても、なかなか建物内に入ることができなかったのも当然のことだろう。


虎徹と静が狭い通路を進んでいると、突然天井に穴が開いた。


まるで鋭利な刃物で切り取ったような正方形のコンクリートが、二人の目の前に落ちてくる。


「なんだ? ホロに聞いてたガキどもじゃねぇじゃねぇかよ?」


そこにはストライプ柄のスーツにオールバックの髪型をした男――ニッコロ·ロッシが立っていた。


ニッコロの傍には大きなクマのぬいぐるみが立っていた。


可愛らしい姿をしているが、その口からはダラダラと赤い液体が垂れている。


虎徹と静はすぐにサブマシンガンを発射。


だがニッコロの前にクマが立ち、彼を弾丸から守った。


「うん? なんだよ、お前もなんか魔導具を使ってんのか? マテリアル·バーサーカーに傷をつけるなんて普通の弾じゃ無理だろ」


ニッコロの盾になったクマのぬいぐるみ――マテリアル·バーサーカーは、かなりの損傷を受けていた。


それを見たニッコロは、虎徹と静がSATのような特殊部隊の人間ではないことを理解する。


「ああ、あれか。対魔組織ディヴィジョンズってヤツか。オレの国にもいるみてぇだが、こうやって目の前で見んのは初めてだな」


手でナイフを弄びながら、ニッコロはどうでもよさそうに独り言を口にしていた。


虎徹と静は、この男がここにいるイタリアンマフィアのボスかと思い、一度目の前にいるマテリアル·バーサーカーから距離を取る。


強引に突撃する一心やもみじとは違い、プロの軍人らしい判断だ。


そんな二人にニッコロが言う。


「おい、お前ら。見逃してやるからさっさと帰れよ。オレの狙いは絶縁者アイソレーターだ。無駄な殺しはしたくねぇんだよ。特に女を殺るのは趣味じゃねぇ」


「ずいぶんと紳士なんだな。マフィアだっていっても、やっぱりイタリア人らしい」


「あん? なんだそれ? バカにしてんのかお前?」


「してねぇよ。相手がマテリアル·バーサーカーなら、銃よりこっちだ」


虎徹はそう言うと持っていたサブマシンガンを放って、何か短い棒を着ていたベストのポケットから出した。


彼の傍にいた静も同じような動作をしている。


二人が短い棒を握りしめると、突然それが輝き始めた。


光に包まれていたそれは次第に形を変えていき、虎徹の手には日本刀、静の手には薙刀とそれぞれ変化する。


「へぇーサムライソードってヤツか? 生で見るのは初めてだが、そいつも魔導具をみてぇだな」


ニッコロが物珍しそうに言うと、虎徹と静はクマのマテリアル·バーサーカーへと斬りかかった。


左右から踏み込み、マテリアル·バーサーカーの両腕をそれぞれ切り落とし、静が胴体に刃を突き刺す。


痛みで咆哮したマテリアル·バーサーカーが反撃しようと、その大きな口を開いて静を噛みつこうとしたが、すでに跳躍していた虎徹がその頭に刀を振り落とした。


その一撃で、マテリアル·バーサーカーは光の粒子となって飛散していった。


「舐めるなよ。マテリアル·バーサーカーぐらいこれまでに何匹も倒してんだ」


虎徹はそう言いながら、刀を鞘に戻して居合い抜きの体勢。


静も薙刀の元手を後ろ足側の顔の横におき、刃を下向きにして前足の脛に沿うようにする――下段の構えを取った。


状況はマテリアル·バーサーカーを倒すほどの手練れ二人だが、ニッコロは実に嬉しそうに笑う。


「そうか……。そっかそっか。過越の祭パスオーヴァーとやり合おうってんだ。それなりの奴らだよなぁ、ディヴィジョンズもよぉ。だけどよぉ。舐めてんのはお前らのほうだぜ」


ニッコロがそう言うと、先ほど彼がマテリアル·バーサーカーと共に落ちてきた天井の穴から、何かが飛び出してきた。


ダブルスーツとドレスを着た黒い影のような物体が何体も現れ、虎徹と静の前に立ちはだかる。


新手のマテリアル·バーサーカーだ。


「戦争が数だってのは基本だろ? ホロのヤツが無理して用意してくれたんだぜ。もっと喜んでくれよ。せっかくのパーティーなんだからよぉ」


ヘラヘラとしているニッコロ。


一方で突然現れたダブルスーツとドレスタイプのマテリアル·バーサーカーの集団に、虎徹と静は顔を歪めるしかなかった。

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