27
――建物内に侵入した
全員がトンプソン·サブマシンガン――トミーガンを構え、激しく迎撃してくる。
カモリスタたちは十本の指すべてに指輪をはめて派手なスーツを着ており、一目でマフィアだとわかる格好をしていた。
中にはボルサリーノやコッポラ帽子を被っている者もおり、まるで十九世紀初頭の欧米にでもタイムスリップしてしまったかのように感じられる。
突然カモッラの構成員たちが現れたのもあって、一心ともみじは近くの部屋に入って銃弾を避けた。
「なあ、もみじ」
「なに? まさか怖いとか言わないよね?」
「ちげぇって。ちょっと訊きたいんだけど、あいつら人間だけど殺していいんだよな?」
「ここは戦場だよ。手を抜けばこっちが殺される」
「それは殺していいってことだよな?」
「それくらい察しろっての……。いちいち説明を求めないでくれる?」
もみじはそう答えると、一心を置いてカモッラの構成員たちへと突っ込んでいった。
飛んでくる鉛玉の雨を弾きながら、手に持った対魔組織ディヴィジョンズに支給されるサブマシンガンで撃ち返す。
魔力のこもった攻撃でなければ傷一つ負わすことはできないのだ。
そのことを思い出した一心も、彼女の後を追って建物内の奥へと走る。
「くそッ!? マジで銃がきかねぇ! こんなの止めようがねぇじゃねぇかッ!」
「なに弱気なこと言ってんだよ! どっちみちここで逃げたらニッコロかファミリーに殺されるんだ! だったらやるしかねぇだろッ! いいから撃てよ!」
カモッラの構成員たちは向かってくるもみじに震えながらも、それでも懸命に銃を撃ち返していた。
だが、それでも彼女が止めることはない。
通路の奥に固まっていた数人のカモッラの構成員たちは、もみじの撃った弾で次々と倒れていく。
血しぶきが噴水のように飛ぶ。
その血で廊下の白い壁が真っ赤に染まり、情けない悲鳴と恐怖の声が狭い通路を埋め尽くしていた。
「上手いなもみじ。俺なんてずっと打ってるけど、ぜんぜん当たらない」
「あんた、
「受けた。でも、お前は格闘のほうが向いてるって」
「だったらそれを活かしなさい」
もみじはそう叫びながら残っていたカモッラの構成員へと飛び掛かった。
サブマシンガンを持ったまま顔面に飛び蹴りを放ち、相手を吹き飛ばす。
距離が縮まったのもあって、カモッラの構成員たちは一斉にナイフを取り出していた。
もみじは銃を捨てて応戦しようとしていると、そこへ一心が割り込んでくる。
「取っ組み合いなら俺の出番だッ!」
一心が叫ぶと、カモッラの構成員たちは束になって彼にナイフを突き立てた。
軍人とは違い、構えも何もあったものではなかったが、慣れた動きで一心に襲い掛かる。
左右に正面と三方向から向かってくる刃。
一心はこれに対して、まず正面から向かってくるナイフを避けて相手にボディブロー。
前に突っ込んだことで後ろから向かってくる形になった二人には、床に両手をつけて前転するかのように両足を上げて蹴りを浴びせた。
一瞬で三人を倒し、さらにはカンガルーキック、またはカポエイラのような変則的な蹴り技を放った一心を見て、さすがのもみじも驚かされていた。
「なかなかやるじゃない。あの体勢から蹴りなんて」
「そっかな。いやートゥルーや
もみじの称賛に素直に照れる一心。
まさか褒めてもらえると思ってなかったのだろう。
えへへとでも言いそうな顔で表情を緩ませている。
「でも一応言っておくけど。魔力を持った相手にああいう戦法が通用するとは思わないことね」
だがもみじは、その緊張感のなさに苦言を呈した。
魔力は光の障壁を無効化し、刃物も弾丸も十分に
守りのいろはは習わなかったのかと、称賛から一転、もみじは一心に厳しい言葉をぶつけた。
「なに言ってんだよ? それ言ったらもみじだって同じだろ? 適当に突っ込んでさ」
「一緒にしないでほしいんだけど。少なくとも私は、魔力がない相手でも油断なんかしない」
「そうかなぁ。俺にはただ突っ込んでただけに見えたけど。ほら、そういう動物のたとえがあったろ? なんだっけ……“ちょっともうもう”とかいう」
「それをいうなら“猪突猛進”だろ! 人を猪に例えるな!」
「なにをそんなに怒ってんだ? よくわかんねぇヤツだなぁ。猪って可愛いじゃん」
「猪に例えられて喜ぶ女がどこにいるんだよ!」
声を荒げたもみじだったが、一心には何故彼女が怒鳴っているのかが理解できないようだ。
褒めてくれたかと思えばいきなり怒り出す。
これなら感情をあまり表に出さない
「もういいから作戦続行! さっさと行くよ!」
「ああ……。猪は可愛いと思うんだけどなぁ……」
「いつまでもグチグチ言わない!」
「わ、わかったよぉ……」
一心は猪の可愛さを否定されたことに納得がいっていなかったが、渋々もみじの後を追った。
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